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第九章
≪Ⅲ≫魔力の質は個性【1】
しおりを挟む「どの様な魔法を使いたいか、魔力所持者さんは初めに選べるのですか?」
私は素朴な質問をしてみます。
ベンダーツさんの片眼鏡が魔法石を素材に使っている事は分かりましたが、魔力所持者の方は使える魔法に種別があるようでした。攻撃特化の魔力とそうでない魔力があるのは既に理解していますが、元々精霊さんとの契約があってこそなのです。
ヴォルは精霊さんに好かれた存在ですので、選ぶもなしに様々な精霊さんと契約が出来たのでしょうけど──他の魔力所持者さんはどうなっているのか疑問に思いました。
「魔力の質は個性でもあるからな。精霊と契約しなければならないのは勿論だが、本人にその質がなければ精霊自体も呼び出せない」
真っ直ぐ私へ視線を向けて答えてくれるヴォルです。
彼は魔法関連の研究をしていただけあって、この系統の質問には普段より饒舌になる傾向がありました。
「と言う事は、自分から精霊さんを選ぶのではないのですね」
「そうだ。持って生まれた性質から、当人の魔力に精霊が引き寄せられる。火の質、地の質とそれぞれ精霊は異なる」
ヴォルから淡々と語られます。
何だか、魔力所持者さんにも色々事情があるようでした。
「ゼブルさんやユーニキュアさんのような……えっと、四元素以外の魔力所持者さんもいますよね」
「そうだな。あれらは実質の攻撃力を持たない為か、魔力協会に管理されていない者が多い。善意で見逃されているというよりは、嘲りの方が強いだろう」
覚えたばかりの知識から更に問い掛ける私ですが、ヴォルはきちんと教えてくれます。
つまりは攻撃特化ではないからこそ、弱いと認識されているよう事でした。
「そこで私の仕事だったのです。ヴォルティ様宛の書類や書簡の大半は、ご丁寧に何等かの魔法が掛けられていましたからね」
ニッコリと微笑むベンダーツさんです。
──ベンダーツさんご苦労様でした。
その言葉の裏には、地味に色々とあったのだと推測されます。
「特に魅了系の魔法は多かったですね。そのようなもの、ヴォルティ様に通用する筈もないのに。魔法石を使ってまでも魅了魔法で近付こうとするご令嬢は数知れず、貴族の方々は違った意味で少しでもお気にかけて頂こうと双方が躍起になっておられました」
「お前が壁になっていければ、俺は早くに気が狂れていたかもな」
ベンダーツさんの嫌そうな顔に、溜め息を溢すヴォルでした。
諦めの感情が見えますが、城内でベンダーツさんがいかに心強かった事でしょうか。
「ありがたき御言葉」
ベンダーツさんは入り口のところに立ったままでしたが、胸に手をあてて深々と頭を下げました。
何だかそうしていると、本当に今までの軽い口調のベンダーツさんとは別人の様にも思えます。
「では、私は船の手配をして参ります。ユースピアから船が出ない場合を考え八方に手を下して参りますので、少しばかりお時間をいただけますようお願い申し上げます」
「分かった」
「ありがとうございます。では、失礼いたします」
ベンダーツさんはヴォルから了承を得ると、直ぐ様部屋を出ていきました。
船の手配と聞いて、再び大陸を渡るのだと実感します。
「大丈夫……ですよね?」
ですが私には違う不安が押し寄せたのでした。
以前一人で調査に出て、大怪我を負ったベンダーツさんを思い出したのです。
「問題ない。主従のリングが本契約を結んだのだ。俺の意思一つでアイツの動きは分かる。以前の仮主従契約とは違い、お互いの位置まで詳しく伝わる……面倒だがな」
何故か、若干瞳に嫌そうな色を浮かべるヴォルでした。
でも初めてその様な追加効果がある事を聞きましたが、バージョンアップした主従のリングは凄いです。あの金色の光はただの現象ではなかったと言う事でした。
今までは大体の位置しか特定出来なかった筈なので、物凄い進化を遂げたようです。いえ──それすら凄い事なので、今更の事でした。
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