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第九章
2.認めている【4】
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「すみません、ヴォルティ様。こちらの騎士団の方々がどうしてもお迎えをと仰るので断り切れませんでした」
深く頭を下げるベンダーツさんでした。
私の怯えに気を悪くしたのか、ヴォルがベンダーツさんへ鋭い視線を向けたからのようです。
でもそこはベンダーツさんですから、ヴォルの不機嫌な視線にも何のそのでした。すぐに言葉を返して来たのは元より用意していた台詞だからでしょうし、ヴォルの視線が鋭いくらいでベンダーツさんは怯まないのです。
「……部屋は」
「はい、この宿の二階でございます。町長邸は例の物の安置場所になっておりまして、市井の宿しかございませんでした」
「問題ない」
ヴォルの問い掛けにベンダーツさんが腰を低く答えました。
市井の宿などと言われましたが、旅の宿泊は野宿か民間の宿です。何の問題もありませんでした。そして『例の物の安置場所』と言葉を濁して言ったのは、知っていても口外してはならないのだという事のようです。
そしてヴォルは周囲の人に一切の関心を向ける事なく──人に囲まれる事に慣れているのもあるかもしれませんが──ベンダーツさんと言葉を交わした後、宿屋へ足を向けました。
「あの、ツヴァイス様。申し訳ございませんでした」
突然横から声が掛かり、私達の足が止められます。
「……スマクトブ様、今は」
ベンダーツさんが制しましたが、足を踏み出した男性は止まりませんでした。──そしてお名前からしてどうやらこの人、先程ベンダーツさんと言葉のやり取りをしていた方のようです。
見た目は他の人達同様に銀色の鎧で全身を包んでいました。そして彼だけ今は頭部の装備を外し、何故だか片膝をついています。俯けているので顔は見えませんが、その金色の髪は短く整えられていました。
「先程は貴方様の従者に失礼な事を申しました」
無言で見下ろすヴォルに構わず、スマクトブさんは弁解の言葉を綴ります。
「申し訳ございません、ヴォルティ様。スマクトブ様、今はどうかお引き取りください。主は長旅で大変お疲れです」
再度ベンダーツさんが間に入り、ヴォルに頭を下げつつスマクトブさんに引くように告げました。
ベンダーツさんが言っている事は状況から不思議ではありませんが、スマクトブさんは何だか物凄くおかしな事になっている気がします。
「私の話を……」
「煩い。ヨルグト騎士団長殿。貴殿の騎士団での教育はこれか」
それでも食い下がるスマクトブさんでしたが、ヴォルは一人の騎士さんに視線を向けて問い掛けました。
流れからするに、この人がヨルグト騎士団長さんのようです。スマクトブさんと比べると、二まわりは大きな体つきの男性でした。
その筋肉質の肉体には無駄な脂肪分がなさそうで、鎧は同じですが彼一人だけ金色の飾りが肩についています。
「申し訳ございません、ツヴァイス様。スマクトブ、引け。見苦しい」
ヨルグト騎士団長さんはスマクトブさんを一瞥すると、鋭い声で命じました。
それは大きな声という訳でもないのですが、スマクトブさんはびくりと身体を震わせます。
「申し訳……ございません」
小さく呟いた後、漸くスマクトブさんが立ち上がりました。
そして項垂れた姿勢のまま、他の騎士の人達とこの場から立ち去っていきます。力関係が分かりました。
「訪問の詳細は明日、私がこちらに伺います。どうか本日はごゆるりとお休みくださいませ。なお、こちらの警護は私達の方で務めさせて頂きます」
「……好きにしろ」
深々と頭を下げたヨルグト騎士団長さんでしたが、ヴォルは全くの信頼のない言葉を返します。
そもそも警護なんて必要ないですし、誰かがいる事の方が緊張してしまうのですが──この場では言えませんでした。
深く頭を下げるベンダーツさんでした。
私の怯えに気を悪くしたのか、ヴォルがベンダーツさんへ鋭い視線を向けたからのようです。
でもそこはベンダーツさんですから、ヴォルの不機嫌な視線にも何のそのでした。すぐに言葉を返して来たのは元より用意していた台詞だからでしょうし、ヴォルの視線が鋭いくらいでベンダーツさんは怯まないのです。
「……部屋は」
「はい、この宿の二階でございます。町長邸は例の物の安置場所になっておりまして、市井の宿しかございませんでした」
「問題ない」
ヴォルの問い掛けにベンダーツさんが腰を低く答えました。
市井の宿などと言われましたが、旅の宿泊は野宿か民間の宿です。何の問題もありませんでした。そして『例の物の安置場所』と言葉を濁して言ったのは、知っていても口外してはならないのだという事のようです。
そしてヴォルは周囲の人に一切の関心を向ける事なく──人に囲まれる事に慣れているのもあるかもしれませんが──ベンダーツさんと言葉を交わした後、宿屋へ足を向けました。
「あの、ツヴァイス様。申し訳ございませんでした」
突然横から声が掛かり、私達の足が止められます。
「……スマクトブ様、今は」
ベンダーツさんが制しましたが、足を踏み出した男性は止まりませんでした。──そしてお名前からしてどうやらこの人、先程ベンダーツさんと言葉のやり取りをしていた方のようです。
見た目は他の人達同様に銀色の鎧で全身を包んでいました。そして彼だけ今は頭部の装備を外し、何故だか片膝をついています。俯けているので顔は見えませんが、その金色の髪は短く整えられていました。
「先程は貴方様の従者に失礼な事を申しました」
無言で見下ろすヴォルに構わず、スマクトブさんは弁解の言葉を綴ります。
「申し訳ございません、ヴォルティ様。スマクトブ様、今はどうかお引き取りください。主は長旅で大変お疲れです」
再度ベンダーツさんが間に入り、ヴォルに頭を下げつつスマクトブさんに引くように告げました。
ベンダーツさんが言っている事は状況から不思議ではありませんが、スマクトブさんは何だか物凄くおかしな事になっている気がします。
「私の話を……」
「煩い。ヨルグト騎士団長殿。貴殿の騎士団での教育はこれか」
それでも食い下がるスマクトブさんでしたが、ヴォルは一人の騎士さんに視線を向けて問い掛けました。
流れからするに、この人がヨルグト騎士団長さんのようです。スマクトブさんと比べると、二まわりは大きな体つきの男性でした。
その筋肉質の肉体には無駄な脂肪分がなさそうで、鎧は同じですが彼一人だけ金色の飾りが肩についています。
「申し訳ございません、ツヴァイス様。スマクトブ、引け。見苦しい」
ヨルグト騎士団長さんはスマクトブさんを一瞥すると、鋭い声で命じました。
それは大きな声という訳でもないのですが、スマクトブさんはびくりと身体を震わせます。
「申し訳……ございません」
小さく呟いた後、漸くスマクトブさんが立ち上がりました。
そして項垂れた姿勢のまま、他の騎士の人達とこの場から立ち去っていきます。力関係が分かりました。
「訪問の詳細は明日、私がこちらに伺います。どうか本日はごゆるりとお休みくださいませ。なお、こちらの警護は私達の方で務めさせて頂きます」
「……好きにしろ」
深々と頭を下げたヨルグト騎士団長さんでしたが、ヴォルは全くの信頼のない言葉を返します。
そもそも警護なんて必要ないですし、誰かがいる事の方が緊張してしまうのですが──この場では言えませんでした。
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