412 / 515
第九章
2.認めている【2】
しおりを挟む
「さてと。では、行きますか」
前を向き直ったベンダーツさんが大きな声で告げます。
馬車内からは良く見えませんが、照れ隠しのようにも感じました。
「さっさと行け」
「はい、はい」
そんな突き放した様なヴォルにもベンダーツさんは楽しそうに答え、ウマウマさんの手綱を軽く打ちます。
ユースピア港が見えるくらいの場所で立ち止まっていたので、軽快に走り出した馬車はすぐに私達を目的地まで運んでくれました。
「当たり前だけど警備がいるなぁ。とりあえずここからは、俺も仕事仕様でいくからね」
ベンダーツさんに改まって宣言されます。
何故だか複雑な気持ちになりますが、ここはセントラルにとても近い港町なので当然とも言える切り替えなのでした。それに警備兵が騎士ならば、ヴォルの素性を知らない人はいない筈です。
緊張から僅かに身を固くする私ですが、ヴォルは相変わらずいつもの通りでした。私を後ろから抱き締めたまま、我関せずと馬車の中でゆったりと腰掛けています。
この豪胆さが羨ましく思えました。私は根が小心者なので、大勢から取り囲まれるとどうしても挙動不審になってしまいます。
「何者だ」
外から鋭い声が聞こえ、馬車がゆっくり停まりました。
どうやら門番をしている人に誰何されたようです。今は御者台との仕切りを閉じているので、馬車内からは外の様子を伺う事が出来ないのでした。
「マクストリア・ベンダーツと申します」
「ベンダーツ……?まさか、あの……」
ベンダーツさんの名乗りに何故だか慌てた様な声が聞こえましたが、すぐに別の落ち着いた男性の声が遮ります。
「ようこそおいで下さいました、ベンダーツ伯爵」
静かな低い声でしたが、私は聞いた事がありませんでした。
つまりは王城の中では接触した事がないようです。けれども私は基本的に極一部の区画しか足を踏み入れていないので、貴族だからと全員が面会する訳ではありませんでした。
そして──ベンダーツさん、知りませんでしたが伯爵筋だったようです。
「いいえ、スマクトブ様。私は爵位を賜ってはいません。爵位は兄が継いでいますので、私はただの従者の一人にすぎません」
「血筋が子爵とはいえ、皇太子殿の従者になる事で昇格したのでしょう?ただの従者の筈がないではないですか。一体、どの様な手を使ったのです?」
謙遜するベンダーツさんですが、声を掛けてきたこの男性の言葉は冷たく感じました。口調は穏やかさを装っていますが、実質は何故だか分かりませんが喧嘩腰です。
そしてとりあえず今の話から、ベンダーツさんのお家が子爵位から伯爵位に昇格された事は分かりました。
「またそのようなご冗談を。矮小な私風情の意見など、皇帝閣下に通る筈もないでしょう。もしも何等かの評価がなされた上なのだとしたら、それは私ではなく兄の方だと思います。ですが、スマクトブ様のお気に障ったのであれば申し訳ございません。……ところで、このまま町に足を踏み入れても構わないでしょうか。私もこの様な場所に、いつまでも主をお待たせする訳にも参りませんので」
恐らくベンダーツさんは笑顔を浮かべて言葉を綴っているのだと思われます。
決して刺のある言葉を返していませんでしたが、相手は途端に慌て始めました。
「な、何?……まさかこの様な馬車に……」
「えぇ、そのまさかでございます。何分身分を伏せての旅ですので、控え目にとの御配慮を頂いているのです。それと、私の主は豪奢な装飾を嫌いますので」
驚きを隠せない男性とは逆に、ベンダーツさんからは終始余裕が感じられます。
これ、完全にベンダーツさんの勝ちだと思いました。いくら精霊さんつきとかいっても、ヴォルが皇帝様の御子息である児とに変わりはありません。
相手の男性は、完全に息を呑(ノ)んでしまっていました。
前を向き直ったベンダーツさんが大きな声で告げます。
馬車内からは良く見えませんが、照れ隠しのようにも感じました。
「さっさと行け」
「はい、はい」
そんな突き放した様なヴォルにもベンダーツさんは楽しそうに答え、ウマウマさんの手綱を軽く打ちます。
ユースピア港が見えるくらいの場所で立ち止まっていたので、軽快に走り出した馬車はすぐに私達を目的地まで運んでくれました。
「当たり前だけど警備がいるなぁ。とりあえずここからは、俺も仕事仕様でいくからね」
ベンダーツさんに改まって宣言されます。
何故だか複雑な気持ちになりますが、ここはセントラルにとても近い港町なので当然とも言える切り替えなのでした。それに警備兵が騎士ならば、ヴォルの素性を知らない人はいない筈です。
緊張から僅かに身を固くする私ですが、ヴォルは相変わらずいつもの通りでした。私を後ろから抱き締めたまま、我関せずと馬車の中でゆったりと腰掛けています。
この豪胆さが羨ましく思えました。私は根が小心者なので、大勢から取り囲まれるとどうしても挙動不審になってしまいます。
「何者だ」
外から鋭い声が聞こえ、馬車がゆっくり停まりました。
どうやら門番をしている人に誰何されたようです。今は御者台との仕切りを閉じているので、馬車内からは外の様子を伺う事が出来ないのでした。
「マクストリア・ベンダーツと申します」
「ベンダーツ……?まさか、あの……」
ベンダーツさんの名乗りに何故だか慌てた様な声が聞こえましたが、すぐに別の落ち着いた男性の声が遮ります。
「ようこそおいで下さいました、ベンダーツ伯爵」
静かな低い声でしたが、私は聞いた事がありませんでした。
つまりは王城の中では接触した事がないようです。けれども私は基本的に極一部の区画しか足を踏み入れていないので、貴族だからと全員が面会する訳ではありませんでした。
そして──ベンダーツさん、知りませんでしたが伯爵筋だったようです。
「いいえ、スマクトブ様。私は爵位を賜ってはいません。爵位は兄が継いでいますので、私はただの従者の一人にすぎません」
「血筋が子爵とはいえ、皇太子殿の従者になる事で昇格したのでしょう?ただの従者の筈がないではないですか。一体、どの様な手を使ったのです?」
謙遜するベンダーツさんですが、声を掛けてきたこの男性の言葉は冷たく感じました。口調は穏やかさを装っていますが、実質は何故だか分かりませんが喧嘩腰です。
そしてとりあえず今の話から、ベンダーツさんのお家が子爵位から伯爵位に昇格された事は分かりました。
「またそのようなご冗談を。矮小な私風情の意見など、皇帝閣下に通る筈もないでしょう。もしも何等かの評価がなされた上なのだとしたら、それは私ではなく兄の方だと思います。ですが、スマクトブ様のお気に障ったのであれば申し訳ございません。……ところで、このまま町に足を踏み入れても構わないでしょうか。私もこの様な場所に、いつまでも主をお待たせする訳にも参りませんので」
恐らくベンダーツさんは笑顔を浮かべて言葉を綴っているのだと思われます。
決して刺のある言葉を返していませんでしたが、相手は途端に慌て始めました。
「な、何?……まさかこの様な馬車に……」
「えぇ、そのまさかでございます。何分身分を伏せての旅ですので、控え目にとの御配慮を頂いているのです。それと、私の主は豪奢な装飾を嫌いますので」
驚きを隠せない男性とは逆に、ベンダーツさんからは終始余裕が感じられます。
これ、完全にベンダーツさんの勝ちだと思いました。いくら精霊さんつきとかいっても、ヴォルが皇帝様の御子息である児とに変わりはありません。
相手の男性は、完全に息を呑(ノ)んでしまっていました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
405
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる