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第九章
≪Ⅱ≫認めている【1】
しおりを挟む「……それを言われちゃうと、俺も反論出来ないな」
苦笑いをしてみせたベンダーツさんを見て、私は先程のヴォルの言葉が真実なのだと悟りました。
「でも俺が雇われた時はヴォルは子供だったし、親が契約主である事に何の不思議もないと思うんだけど。そもそも、15歳になった成人の儀の時に再契約を拒絶したのはヴォルじゃん」
若干拗ねたような口調でベンダーツさんが返します。
そして今度はヴォルが視線を逸らしました。
「あの頃の俺は……」
「あぁ、一番の側近である俺やガルシアも信頼していなかったもんな。魔法石になるまで生きてるだけって感じで、周囲の人間は全て敵みたいな風だったし?」
言い淀んだヴォルに、ベンダーツさんは容赦のない言葉を浴びせます。
そうでした──今のヴォルからは想像出来ないですが、出会った頃の彼は個としての感情を全て殺していました。心の内を誰にも晒す事なく──初めて私に求婚した時でさえ、義務の様に淡々と言葉を綴っていたような感じだったのです。
そう考えると、前のヴォルが本当に不思議な程に変わりました。あの時のヴォルと今の彼が同一人物だなんて、マヌサワ村の人が見たら──凄く驚くかもしれません。
「だからだな……」
「今からでも遅くないよ?」
「……何?」
「だから、今からでも遅くないって言ったの。知ってるだろうけどこれでも俺、ヴォルと出会ってからずっと従者だからね。いい加減、本当に俺を従者だと認めてほしいくらいだよ」
にっこり微笑んだベンダーツさんからは、少しも嘲りや誹謗は感じられませんでした。
「……認めている」
「何、何?聞こえないよぉ、そんな小さな声じゃ」
「だから……、お前を従者だと認めている」
ベンダーツさんに圧され気味のヴォルが僅かに苛立ちをみせた後、一瞬 間をおいてからそれでもはっきりと答えました。
「俺はお前を唯一の従者だと認めている。……これで良いか」
「……ありがたき幸せにございます……っ」
半ば開き直ったような言い方ですが、ヴォルがそう告げた途端に胸に手を当てるベンダーツさんです。
恐らく本来ならば足元に跪くなどの行為をするのでしょうが、今は馬車内と御者台の二人ですからこれが限界のようでした。
しかしながら唯一の──ときたのには驚いた私です。でも実際にお城の中でヴォルにはたくさんの従者さんがいましたが、これ程近くにいるのはベンダーツさんだけでした。他の従者さんは入れ替り立ち替りで、ちゃんとヴォルを見ている感じがしませんでしたから。
そしてこれからも彼等は──って一人で感動していたのですが、不意に彼等の親指にある主従のリングが金色の光を放っている事に気が付きました。
「ヴォル?あの……、光っていますけど……?」
「……正式に主従の契約がなされた」
私の疑問に、自身のリングへ視線を移して答えたヴォルです。
また不思議な言葉を聞きましたが──『正式に』とか『契約』とかから想像するに、指輪が認める必要があったようでした。
「ありがとう、ヴォル」
「……煩い。マークはマークだろ。何も変わらん」
照れた様に微笑んだベンダーツさんに、ぶっきらぼうに答えるヴォルです。
でもその顔は──照れているようでした。
何だか、一層ヴォルとベンダーツさんの繋がりが強くなったようです。毎回思いますが、こういう時の彼等は羨ましくなる程に素敵でした。
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