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第九章
1.手が省(はぶ)ける【5】
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「あ~、ユースピア港が見えてきたよ」
ベンダーツさんの声に、ヴォルと私は視線を前に向けました。
町の見た目は以前訪れた時とあまり変わりません。ケストニアの時のように、ここに至るまで魔物に囲まれているという状態でもありませんでした。当たり前ですが、魔物も魔法石だけを狙う訳ではないようです。
「魔物がいないよ?やっぱりこれって、見る限りセントラルの支援が入ったみたいだよねぇ。うん、俺等が討伐する手間が省けたなっ」
「あの……セントラルの方が来ていると言う事は、私達はどうなるのですか?」
周囲を見渡して安心するベンダーツさんでしたが、私は違う不安を抱いていました。
魔物がいないのは勿論良いのですが、セントラルの方々からヴォルへの待遇はどうなっているのでしょうか。
「あぁ~……、そうだねぇ。俺達の現状を考えると微妙だよなぁ。実際俺がセントラルを出る時は、ヴォルが城下へ脱出する事は極秘だったし」
「問題ない。そのまま行けば良い」
港が見える岡の上で馬車を停めたベンダーツさんですが、ヴォルはそれに対して逆に不満を告げました。
しかしながらベンダーツさんもそれだけでは動きません。馬車内を見たままウマウマさんを走らせようとはせず、ヴォルに新たな問いを投げ掛けてきました。
「セントラル結界内での睡眠魔法の件は、結局ヴォルが犯人扱いな訳?皇妃様が一人で騒いでいたけど、実際に城内でヴォルに対する悪い声はなかったでしょ」
「皇帝との話し合いで俺が……、魔力を一部献上する事で片がついた。内部が落ち着くまでという理由で、暫くのセントラル外出許可も得ている」
疑問を口にするベンダーツさんへ、淡々と語るヴォルです。
ベンダーツさんはあの場にいなかったのですが、私は皇帝様の前へ共に参上していました。片がついたと言うよりは、ヴォルの主張を通さざるを得なかった感じなのです。
勿論その前にも話し合いが行われていたようですが、最終的に決定はあの場でなされたのでした。
「そんなの、皇妃様の一方的な感情の問題だっての。実際あの人のあれは、常軌を逸してるよ。ヴォルとペルニギュート様は同じ皇帝様の血筋なのに」
「同じ父親だからなのだと、許してあげてと幼い頃に悲し気な表情で母が言っていた。その時は分からなかったが、今では何となく理解出来る」
呆れたようにベンダーツさんが告げます。でもそれを庇うように発言し、私の方へ視線を向けるヴォルでした。
でもその瞳は複雑な色を湛えていて、私には彼の真意が分かりません。ですがヴォルの御母様は優しい人のようでした。
「それ、メルと言う存在を得たから分かるって?……俺への当て付けかよ」
「そうではないが……、これは言葉で言い表しにくい」
ベンダーツさんが不愉快そうな表情を見せたのに対し、ヴォルは少し困ったように言い淀みます。
「分かったよ、……俺も困らせるつもりはないし。で、このまま進んで良いんだな?ユースピアに入った途端、反逆者的に捕縛されたりはしないよな?」
「そうなれば俺が対処しよう」
「頼むぜ、ヴォル。さすがの俺も、セントラル側に剣を向ける訳にもいかないし」
「分かっている。お前の真の主は皇帝だからな」
僅かな安心を見せたベンダーツさんに、ヴォルは感情なく告げました。
ですがヴォルのその言葉に、私は自分の耳を疑います。
だって初めからベンダーツさんは、ヴォルの従者なのだと言われていました。
ベンダーツさんの声に、ヴォルと私は視線を前に向けました。
町の見た目は以前訪れた時とあまり変わりません。ケストニアの時のように、ここに至るまで魔物に囲まれているという状態でもありませんでした。当たり前ですが、魔物も魔法石だけを狙う訳ではないようです。
「魔物がいないよ?やっぱりこれって、見る限りセントラルの支援が入ったみたいだよねぇ。うん、俺等が討伐する手間が省けたなっ」
「あの……セントラルの方が来ていると言う事は、私達はどうなるのですか?」
周囲を見渡して安心するベンダーツさんでしたが、私は違う不安を抱いていました。
魔物がいないのは勿論良いのですが、セントラルの方々からヴォルへの待遇はどうなっているのでしょうか。
「あぁ~……、そうだねぇ。俺達の現状を考えると微妙だよなぁ。実際俺がセントラルを出る時は、ヴォルが城下へ脱出する事は極秘だったし」
「問題ない。そのまま行けば良い」
港が見える岡の上で馬車を停めたベンダーツさんですが、ヴォルはそれに対して逆に不満を告げました。
しかしながらベンダーツさんもそれだけでは動きません。馬車内を見たままウマウマさんを走らせようとはせず、ヴォルに新たな問いを投げ掛けてきました。
「セントラル結界内での睡眠魔法の件は、結局ヴォルが犯人扱いな訳?皇妃様が一人で騒いでいたけど、実際に城内でヴォルに対する悪い声はなかったでしょ」
「皇帝との話し合いで俺が……、魔力を一部献上する事で片がついた。内部が落ち着くまでという理由で、暫くのセントラル外出許可も得ている」
疑問を口にするベンダーツさんへ、淡々と語るヴォルです。
ベンダーツさんはあの場にいなかったのですが、私は皇帝様の前へ共に参上していました。片がついたと言うよりは、ヴォルの主張を通さざるを得なかった感じなのです。
勿論その前にも話し合いが行われていたようですが、最終的に決定はあの場でなされたのでした。
「そんなの、皇妃様の一方的な感情の問題だっての。実際あの人のあれは、常軌を逸してるよ。ヴォルとペルニギュート様は同じ皇帝様の血筋なのに」
「同じ父親だからなのだと、許してあげてと幼い頃に悲し気な表情で母が言っていた。その時は分からなかったが、今では何となく理解出来る」
呆れたようにベンダーツさんが告げます。でもそれを庇うように発言し、私の方へ視線を向けるヴォルでした。
でもその瞳は複雑な色を湛えていて、私には彼の真意が分かりません。ですがヴォルの御母様は優しい人のようでした。
「それ、メルと言う存在を得たから分かるって?……俺への当て付けかよ」
「そうではないが……、これは言葉で言い表しにくい」
ベンダーツさんが不愉快そうな表情を見せたのに対し、ヴォルは少し困ったように言い淀みます。
「分かったよ、……俺も困らせるつもりはないし。で、このまま進んで良いんだな?ユースピアに入った途端、反逆者的に捕縛されたりはしないよな?」
「そうなれば俺が対処しよう」
「頼むぜ、ヴォル。さすがの俺も、セントラル側に剣を向ける訳にもいかないし」
「分かっている。お前の真の主は皇帝だからな」
僅かな安心を見せたベンダーツさんに、ヴォルは感情なく告げました。
ですがヴォルのその言葉に、私は自分の耳を疑います。
だって初めからベンダーツさんは、ヴォルの従者なのだと言われていました。
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