410 / 515
第九章
1.手が省(はぶ)ける【5】
しおりを挟む
「あ~、ユースピア港が見えてきたよ」
ベンダーツさんの声に、ヴォルと私は視線を前に向けました。
町の見た目は以前訪れた時とあまり変わりません。ケストニアの時のように、ここに至るまで魔物に囲まれているという状態でもありませんでした。当たり前ですが、魔物も魔法石だけを狙う訳ではないようです。
「魔物がいないよ?やっぱりこれって、見る限りセントラルの支援が入ったみたいだよねぇ。うん、俺等が討伐する手間が省けたなっ」
「あの……セントラルの方が来ていると言う事は、私達はどうなるのですか?」
周囲を見渡して安心するベンダーツさんでしたが、私は違う不安を抱いていました。
魔物がいないのは勿論良いのですが、セントラルの方々からヴォルへの待遇はどうなっているのでしょうか。
「あぁ~……、そうだねぇ。俺達の現状を考えると微妙だよなぁ。実際俺がセントラルを出る時は、ヴォルが城下へ脱出する事は極秘だったし」
「問題ない。そのまま行けば良い」
港が見える岡の上で馬車を停めたベンダーツさんですが、ヴォルはそれに対して逆に不満を告げました。
しかしながらベンダーツさんもそれだけでは動きません。馬車内を見たままウマウマさんを走らせようとはせず、ヴォルに新たな問いを投げ掛けてきました。
「セントラル結界内での睡眠魔法の件は、結局ヴォルが犯人扱いな訳?皇妃様が一人で騒いでいたけど、実際に城内でヴォルに対する悪い声はなかったでしょ」
「皇帝との話し合いで俺が……、魔力を一部献上する事で片がついた。内部が落ち着くまでという理由で、暫くのセントラル外出許可も得ている」
疑問を口にするベンダーツさんへ、淡々と語るヴォルです。
ベンダーツさんはあの場にいなかったのですが、私は皇帝様の前へ共に参上していました。片がついたと言うよりは、ヴォルの主張を通さざるを得なかった感じなのです。
勿論その前にも話し合いが行われていたようですが、最終的に決定はあの場でなされたのでした。
「そんなの、皇妃様の一方的な感情の問題だっての。実際あの人のあれは、常軌を逸してるよ。ヴォルとペルニギュート様は同じ皇帝様の血筋なのに」
「同じ父親だからなのだと、許してあげてと幼い頃に悲し気な表情で母が言っていた。その時は分からなかったが、今では何となく理解出来る」
呆れたようにベンダーツさんが告げます。でもそれを庇うように発言し、私の方へ視線を向けるヴォルでした。
でもその瞳は複雑な色を湛えていて、私には彼の真意が分かりません。ですがヴォルの御母様は優しい人のようでした。
「それ、メルと言う存在を得たから分かるって?……俺への当て付けかよ」
「そうではないが……、これは言葉で言い表しにくい」
ベンダーツさんが不愉快そうな表情を見せたのに対し、ヴォルは少し困ったように言い淀みます。
「分かったよ、……俺も困らせるつもりはないし。で、このまま進んで良いんだな?ユースピアに入った途端、反逆者的に捕縛されたりはしないよな?」
「そうなれば俺が対処しよう」
「頼むぜ、ヴォル。さすがの俺も、セントラル側に剣を向ける訳にもいかないし」
「分かっている。お前の真の主は皇帝だからな」
僅かな安心を見せたベンダーツさんに、ヴォルは感情なく告げました。
ですがヴォルのその言葉に、私は自分の耳を疑います。
だって初めからベンダーツさんは、ヴォルの従者なのだと言われていました。
ベンダーツさんの声に、ヴォルと私は視線を前に向けました。
町の見た目は以前訪れた時とあまり変わりません。ケストニアの時のように、ここに至るまで魔物に囲まれているという状態でもありませんでした。当たり前ですが、魔物も魔法石だけを狙う訳ではないようです。
「魔物がいないよ?やっぱりこれって、見る限りセントラルの支援が入ったみたいだよねぇ。うん、俺等が討伐する手間が省けたなっ」
「あの……セントラルの方が来ていると言う事は、私達はどうなるのですか?」
周囲を見渡して安心するベンダーツさんでしたが、私は違う不安を抱いていました。
魔物がいないのは勿論良いのですが、セントラルの方々からヴォルへの待遇はどうなっているのでしょうか。
「あぁ~……、そうだねぇ。俺達の現状を考えると微妙だよなぁ。実際俺がセントラルを出る時は、ヴォルが城下へ脱出する事は極秘だったし」
「問題ない。そのまま行けば良い」
港が見える岡の上で馬車を停めたベンダーツさんですが、ヴォルはそれに対して逆に不満を告げました。
しかしながらベンダーツさんもそれだけでは動きません。馬車内を見たままウマウマさんを走らせようとはせず、ヴォルに新たな問いを投げ掛けてきました。
「セントラル結界内での睡眠魔法の件は、結局ヴォルが犯人扱いな訳?皇妃様が一人で騒いでいたけど、実際に城内でヴォルに対する悪い声はなかったでしょ」
「皇帝との話し合いで俺が……、魔力を一部献上する事で片がついた。内部が落ち着くまでという理由で、暫くのセントラル外出許可も得ている」
疑問を口にするベンダーツさんへ、淡々と語るヴォルです。
ベンダーツさんはあの場にいなかったのですが、私は皇帝様の前へ共に参上していました。片がついたと言うよりは、ヴォルの主張を通さざるを得なかった感じなのです。
勿論その前にも話し合いが行われていたようですが、最終的に決定はあの場でなされたのでした。
「そんなの、皇妃様の一方的な感情の問題だっての。実際あの人のあれは、常軌を逸してるよ。ヴォルとペルニギュート様は同じ皇帝様の血筋なのに」
「同じ父親だからなのだと、許してあげてと幼い頃に悲し気な表情で母が言っていた。その時は分からなかったが、今では何となく理解出来る」
呆れたようにベンダーツさんが告げます。でもそれを庇うように発言し、私の方へ視線を向けるヴォルでした。
でもその瞳は複雑な色を湛えていて、私には彼の真意が分かりません。ですがヴォルの御母様は優しい人のようでした。
「それ、メルと言う存在を得たから分かるって?……俺への当て付けかよ」
「そうではないが……、これは言葉で言い表しにくい」
ベンダーツさんが不愉快そうな表情を見せたのに対し、ヴォルは少し困ったように言い淀みます。
「分かったよ、……俺も困らせるつもりはないし。で、このまま進んで良いんだな?ユースピアに入った途端、反逆者的に捕縛されたりはしないよな?」
「そうなれば俺が対処しよう」
「頼むぜ、ヴォル。さすがの俺も、セントラル側に剣を向ける訳にもいかないし」
「分かっている。お前の真の主は皇帝だからな」
僅かな安心を見せたベンダーツさんに、ヴォルは感情なく告げました。
ですがヴォルのその言葉に、私は自分の耳を疑います。
だって初めからベンダーツさんは、ヴォルの従者なのだと言われていました。
0
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる