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第九章
1.手が省(はぶ)ける【4】
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「なんかこのままもう魔物が出なくてさ、あっという間に港町ユースピアに着いたら良いのになぁ。……あ~、ダメだ。俺、本心から冒険者になれないや。こういう根無し草な感じの旅が面倒臭くて仕方ないし」
大きな溜め息をついたベンダーツさんでした。
彼は元々冒険者ではありません。そもそも、ヴォルだってこんな旅をする立場の人ではないのでした。
「あの檻の中より悪くない」
「檻ねぇ……、確かに言えるわな。それで再確認。ここからとりあえず折り返しになるけど、旅の目的は変わらないよな?」
ヴォルが答えたのは王城の中での事で、ベンダーツさんはそれを分かっているからこその優しい問い掛けです。
「勿論だ。それに大陸はここだけではない」
「そっかぁ……。俺はヴォルのそう言うところ惚れ込んでいるけど、女ならボロクソ言うだろうな。私とどっちが大切なのって……」
ヴォルと真面目に今後の話をしていたようですが、何故だか急に肩を竦めて染々と告げたベンダーツさんでした。
やけに真実味の籠った言葉のようにも聞こえます。
「言われたのか」
「……俺だって良い年なんだからさ。これまで女性との接触が全くなかった訳じゃないんだよ、深い経験はないだけで……。けどダメなんだよなぁ、どうしてもヴォルと比べられるの。何で?ねぇ、本当に何で?私とどっちが大切かだなんて、聞くだけ無駄じゃね?」
感情を見せずに問うヴォルに、ベンダーツさんは自虐的に聞こえる告白をされました。
何だか──、どちらと答えたか分かります。
「どう答えたのだ」
「答えるまでもないっしょ。俺はヴォルの従者だから、取り替えが可能な女性より主だからね。……大概の場合、それ言ったら殴られて終わりだったんだけど」
冗談を告げるかのように片目を閉じてみせるベンダーツさんでした。
何というかそれは分かる気がします──いえ、私は暴力を振るったりしませんけど。その御相手の方々は自分を選んでほしいのではなく、振り向いて欲しかっただけなのではと思いました。
「お前の女性関係の話など聞いた事がなかったが」
「当たり前っしょ。俺はヴォルより年上なんだから、そんなみっともないところなんて見せられないって。それに、そんな事もヴォルが公務の手伝いを本格的にしだしてからやめたし。諦めたってのもあるけど……セントラルの法では婚儀を挙げるまで手を出しちゃダメだし、そもそも俺が原因でヴォルの足元を掬われかねないならダメだよね。こういう時、異性関係が一番厄介だからさ」
「そんな事だから、いつまでも独り身だとガルシアに言われるんだ」
ベンダーツさんは胸を張って答えます。ヴォルはそれに対し、いつものように淡々と受け答えをしているように見えました。
でも久し振りにガルシアさんの名前を聞いた気がします。私に良くしてくれた、お城でのお母さん的な侍女長さんなのでした。
いつまでも元気でいてくれると良いです。
「いやいや、だから俺が所帯持てるようになってくれって以前ヴォルに言ったよな?」
「俺は俺のしたいようにする。お前の女関係の世話などに手を掛けていられるか」
「……まぁ、分かってるけど」
わざとらしく肩を竦めてみせるベンダーツさんでしたが、ヴォルは相変わらず感情を見せないままでした。
ヴォルが素直ではない言葉を返しても、ベンダーツさんは本心からの返答ではないと分かっているようです。これは互いの信頼関係があってこそだと思いました。私は彼等の関係が羨ましいです。
そしてこんな風に楽しく馬車を走らせる事が出来るのも、往路の時より断然魔物が少ないからでした。魔法石化現象の影響が完全に消えたのか、始めて村を出た頃のような穏やかな旅にも思えます。
──と、ここまで考えていて思い出してしまいました。
無事であってほしいと願いながらも、本当にマヌサワ村は大丈夫でしょうか。ケストニアは大きな町であったのに、丸ごと凄い事になっていました。全ての生き物が魔法石となって転がっていて、動いている鳥も虫もいなかったのです。
更にはこれからもあれが何処かで起こるなんて怖いとしか思えませんでした。せめて次なる場所を知る術を持っている人がいるなら教えてほしいです。
大きな溜め息をついたベンダーツさんでした。
彼は元々冒険者ではありません。そもそも、ヴォルだってこんな旅をする立場の人ではないのでした。
「あの檻の中より悪くない」
「檻ねぇ……、確かに言えるわな。それで再確認。ここからとりあえず折り返しになるけど、旅の目的は変わらないよな?」
ヴォルが答えたのは王城の中での事で、ベンダーツさんはそれを分かっているからこその優しい問い掛けです。
「勿論だ。それに大陸はここだけではない」
「そっかぁ……。俺はヴォルのそう言うところ惚れ込んでいるけど、女ならボロクソ言うだろうな。私とどっちが大切なのって……」
ヴォルと真面目に今後の話をしていたようですが、何故だか急に肩を竦めて染々と告げたベンダーツさんでした。
やけに真実味の籠った言葉のようにも聞こえます。
「言われたのか」
「……俺だって良い年なんだからさ。これまで女性との接触が全くなかった訳じゃないんだよ、深い経験はないだけで……。けどダメなんだよなぁ、どうしてもヴォルと比べられるの。何で?ねぇ、本当に何で?私とどっちが大切かだなんて、聞くだけ無駄じゃね?」
感情を見せずに問うヴォルに、ベンダーツさんは自虐的に聞こえる告白をされました。
何だか──、どちらと答えたか分かります。
「どう答えたのだ」
「答えるまでもないっしょ。俺はヴォルの従者だから、取り替えが可能な女性より主だからね。……大概の場合、それ言ったら殴られて終わりだったんだけど」
冗談を告げるかのように片目を閉じてみせるベンダーツさんでした。
何というかそれは分かる気がします──いえ、私は暴力を振るったりしませんけど。その御相手の方々は自分を選んでほしいのではなく、振り向いて欲しかっただけなのではと思いました。
「お前の女性関係の話など聞いた事がなかったが」
「当たり前っしょ。俺はヴォルより年上なんだから、そんなみっともないところなんて見せられないって。それに、そんな事もヴォルが公務の手伝いを本格的にしだしてからやめたし。諦めたってのもあるけど……セントラルの法では婚儀を挙げるまで手を出しちゃダメだし、そもそも俺が原因でヴォルの足元を掬われかねないならダメだよね。こういう時、異性関係が一番厄介だからさ」
「そんな事だから、いつまでも独り身だとガルシアに言われるんだ」
ベンダーツさんは胸を張って答えます。ヴォルはそれに対し、いつものように淡々と受け答えをしているように見えました。
でも久し振りにガルシアさんの名前を聞いた気がします。私に良くしてくれた、お城でのお母さん的な侍女長さんなのでした。
いつまでも元気でいてくれると良いです。
「いやいや、だから俺が所帯持てるようになってくれって以前ヴォルに言ったよな?」
「俺は俺のしたいようにする。お前の女関係の世話などに手を掛けていられるか」
「……まぁ、分かってるけど」
わざとらしく肩を竦めてみせるベンダーツさんでしたが、ヴォルは相変わらず感情を見せないままでした。
ヴォルが素直ではない言葉を返しても、ベンダーツさんは本心からの返答ではないと分かっているようです。これは互いの信頼関係があってこそだと思いました。私は彼等の関係が羨ましいです。
そしてこんな風に楽しく馬車を走らせる事が出来るのも、往路の時より断然魔物が少ないからでした。魔法石化現象の影響が完全に消えたのか、始めて村を出た頃のような穏やかな旅にも思えます。
──と、ここまで考えていて思い出してしまいました。
無事であってほしいと願いながらも、本当にマヌサワ村は大丈夫でしょうか。ケストニアは大きな町であったのに、丸ごと凄い事になっていました。全ての生き物が魔法石となって転がっていて、動いている鳥も虫もいなかったのです。
更にはこれからもあれが何処かで起こるなんて怖いとしか思えませんでした。せめて次なる場所を知る術を持っている人がいるなら教えてほしいです。
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