「結婚しよう」

まひる

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第九章

1.手が省(はぶ)ける【3】

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「それで魔法石にも……この世界の認識っていうか、物流があるんだけどさ。石自体は貴重ではあるものの、一般的にも結構出回っているんだよ。魔法が使えない人にも、一定の力を刻んだ石なら簡単に扱えるからね」

「それって……」

 ベンダーツさんの説明に、私は以前、お城の研究室で見た事を思い出します。
 あの時はヴォルが魔法を液体化させたものでしたけど、魔法石もその様な使われ方をしているなんて驚きでした。

「小さな魔法石は石の魔力を使いきったら終わりなんだ。その割りに高価だから貴族や一部の金持ちの手元にしかないけど。用途としては、火を起こしたりだとか水を温めるとかに使われているよ」

「小さな魔法石には小さな力しか宿せない」

 ベンダーツさんの説明に続けたヴォルの言葉から推測するに、大きな魔法石ならそれ以外も可能であるという事です。
 商品化されているのは『水』や『火』、『光』といった魔法石単体で力を発するタイプのようでした。決められたキーワードを告げる事で魔力を解放し、同じくキーワードで沈静化します。
 分かりやすく『光』の魔法石ならば『光れ』で輝きを得る事が出来、『消えろ』で輝きが消えるとの事でした。

「気付いたかもしれないけど、だからこそ大きな魔法石は隠されているんだ。魔法石に魔法を刻めるのは魔力所持者だけど、まれに破壊的な力の持ち主もいるからね。ソイツが大きな魔法石を手に入れたら、明らかに良い事は考えないでしょ?」

「魔力所持者の魔法は、契約した精霊さんによるんですよね?」

「勿論そうだけど、精霊だってぜんなる存在って訳じゃないからさ」

 淡々と語るベンダーツさんです。
 そうでした、精霊さんは人と違う考えや独自の決まりを持っているのでした。
 善し悪しは立場が違えば変わります。その為に、流通している──拳を握ったら隠れてしまうような魔法石ならば、魔力所持者が対峙する事で治められると判断されていました。

「ああやって魔力協会が魔法石を一括管理する事にも問題がない訳じゃないけど、それでも皇帝様直轄の魔法省管轄ではあるからね。組織的に管理されていないと、人間は己の強欲を抑えられないからさ」

「それゆえに、力の強い魔力所持者以外の魔法石は砕かれて加工される」

 達観したように語るベンダーツさんでしたが、ヴォルは感情が読めません。
 それでも今までの説明で、魔法石がたくさん世間に流れていない理由が分かりました。
 定期的に広範囲の地域が魔法石化するなら、もっと周囲にあってもおかしくないと思っていたのです。でもこれで物量が制限されている事と、同じ理由で魔力所持者が管理されている事を理解しました。

「でもそれだけ魔法を使えない人間が魔法石を必要としているんだろうねぇ。それになくなりようがないよな、大地が作り出すんじゃ」

「魔力の坩堝るつぼの発生を止める方法か」

「あるのかって話だよなぁ?でも思い返せば初めから無理はあったんだよ。だいたいさぁ……魔力の坩堝るつぼが未確認物体なのに破壊しようとかしてたし、今度は発生自体を止めるって?」

 おどけたようなベンダーツさんに対し、ヴォルは真剣に考えているようです。
 確かに、もう簡単に魔物討伐をすれば良いとかの問題ではなくなりました。
 魔物が魔力の坩堝るつぼから発生する事はケストニアの魔法石化現象によって実証されたようですが、その起こりうる場所は無作為であり更には自然現象という普通に考えれば回避不能なものです。

「結果的に変わらないだろ、全く」

 わずかなの後、ヴォルの口からハッキリと告げられました。それどころか、否定的な言葉を投げ掛けられる事が逆に不思議そうです。
 このような事態なのにも関わらず、それでも折れないヴォルの心なのでした。小首をかしげるその姿は可愛くもあり、頼もしくもあります。
 彼にとってみれば終始一貫、『初めから目的は変わっていない』と言う事でした。

「そりゃねぇ。ヴォルは初めから世界の魔力自体を無き物にしようとしているんだから、俺等凡人が思う『無謀』なんて今更だよね。そもそも常識なんて当てはまらないよね、うん知ってる。それより、魔力の坩堝るつぼの正体が見えてきた事を喜ぶべきかなぁ?」

 楽しそうに笑いだしたベンダーツさんです。
 そして私達は本当に困難な旅をしているのだと改めて知ったのでした。
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