「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
398 / 515
第八章

9.有り得ない【3】

しおりを挟む
「ところで、先程御主おぬしは有り得ないと言ったが。あれはあながち嘘ではないのだよ」

「それって……メルが坩堝るつぼだって話?」

 協会長さんの言葉に、ベンダーツさんがわずかに驚きを見せています。
 でもその話題って──あぁ、再びまさかの『私が魔物の親』説でした。もしそれが事実だとするならば、私はもうヴォルと一緒にいられないという事です。

「魔力所持者は自分の伴侶はんりょと……。まさか、ない訳ではないだろうな?」

 ニヤッと言う笑みを浮かべる協会長さんでした。
 怖々と話の流れを伺っている私でしたが、協会長さんの濁した言葉に予測がつきません。疑問符が頭上にき出る中、私は小首をかしげてしまいました。

「あぁ、アレも魔力なの。ソレが坩堝るつぼと化すって事?」

「そうなのだ。交わすものは魔力所持者の生命力そのものだからな。その伴侶はんりょと共にいて己の魔力が回復するのも道理。相手が魔力を持っていなくても、蓄える事は出来るのだからな」

 何かに気付いたようなベンダーツさんと協会長さんのやり取りです。
 通じ合っているような二人の会話に仲間外れ感満載の私は、とにかくヴォルに悪影響がなければ良いと必死に願っていました。

「それはメルに問題ないのですか」

 何故かヴォルは心配そうに協会長さんに問い掛けています。
 『アレ』とか『ソレ』とかで何故話が通じているのか不明な私は、残念ながらヴォルの感じている不安に思い至りませんでした。
 とりあえず何かは分かりませんが、今のところ私は元気なので問題はないです。しかしながら口を挟む余地はなかったので、ヴォルに何のアピールも出来ませんでした。

「大丈夫さ。魔力所持者と非能力者も子をなす事が出来るし、妻子ともに何事もなく一生を迎えられる。ただ、そういった因果関係があるだけの事なのだよ」

「そうですか。安心しました」

 そんな協会長さんの言葉に、急にヴォルから柔らかい瞳を向けられます。
 わずかに細められた紺色の瞳はあたたかく、私は思わずドキッとしてしまいました。何でしょうか、とても嬉しいのですけど──何故だか居心地が悪いです。

「それにしても、俺達の知らない若い職員ばかり残ってるんだなぁ」

 そう言いつつ、ベンダーツさんはいまだこちらに警戒心を向けている魔力協会の人達を見回しました。
 そうでした──確かヴォルとベンダーツさんの素性が知れているからと言う理由で、ケストニアに向かう足を馬車に変えたのです。つまりは見栄えの問題でした。
 でも実際は素性を知っているどころか、ヴォルから感じられる魔力におののく人ばかりです。例外で初めにフラフラと出てきた人だけは、何故だか私達に注意を払う事なく空を見て笑っていました。

「あれから5年以上っているからの。知っているだろうが、元々魔力所持者は立場上寿命があまり長くないのだ。我々のようにセントラルから離れた場所に配属されれば尚更の事、魔物相手の戦闘は日常茶飯事だらかな」

 協会長さんが遠くを見ています。
 普通、町や村は教会の結界を守護する人達に守られているのでした。そして一度ひとたび魔物に襲われれば、教会から魔物討伐に人が派遣されます。
 勿論冒険者にも依頼はされますが、報酬があまり高くないのと急な依頼が多い為、受けてくれる冒険者はあまりないのが現状との事でした。

「一番長くいる彼でも、ここに来て3年だからね。君たちを知らぬのも仕方ないのだ、許してやってくれ。だが結果的にこの町が魔法石となってしまった今、我々は再び違う土地へ別々に配属される事になるだろうな」

 しみじみと呟く協会長さんです。
 あの怒りんぼな魔力協会の人は、ここに3年いるようでした。見る限りでは、他の人達のまとめ役なのだと思われます。
 逆に突然の訪問で驚かせてしまったようでした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...