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第八章
≪Ⅸ≫有り得ない【1】
しおりを挟む「有り得ない。魔力の坩堝は魔物の生じる場所だ。メルが坩堝の筈がない」
ヴォルが驚愕しながらも強く言い切ります。
魔力と魔法を研究してきたヴォルにとって、魔力の坩堝が人であってはならないのでした。
例え私に触れる事で魔力の回復を促されたとしてもです。
「………………くっ……、ふっ……フハハハハっ!」
それを聞いた協会長さんは、押し殺していた笑いが我慢出来ないという感じに笑い始めました。
突然の事に私だけではなく、ヴォルもベンダーツさんも困惑しているようです。
ただ嘲るように笑われては、誰だって良い気分にはならないのは当たり前でした。徐々にヴォルの瞳が細められます。
「いや、なに……ククク……ヴォルティ・ツヴァイス殿ともあろう御方が……ククク……」
協会長さんは喋りながらも、どうしても笑いが収まらないようでした。
どうしてこう、ベンダーツさんといい──意味不明なところで笑い上戸になる人がいるのでしょうか。
こちらとしては意味が分からないので、笑いに参加する事も怒る事も出来ませんでした。
「何が言いたい」
僅かにムッとした様子のヴォルでしたが、協会長さんはお腹まで押さえてまだ笑っています。
そして周囲の魔力協会員も微妙な態度で私達を伺っていました。それに伴い、先程までの嫌な空気は薄れています。
「何だか俺達、嵌められた?」
後ろからベンダーツさんの不満そうな声が聞こえてきました。
そう思っても仕方ないです。更にはベンダーツさんは笑う側が好きなのであって、笑われる側は嫌いなようでした。
私も笑われる側は嫌ですけど、たいてい皆そうだと思います。
「いや、すまない。まさか本気にされるとは思っていなかったのでな。我々も少しばかり信頼が足りぬようだな。……先程の話は、他の魔力所持者が来たらそう話すようにとワシが指示していたのだよ」
漸く笑いが収まってきた様子の協会長さんでした。
えっと──足りない信頼は、少しだけでしょうか。そもそも何故騙すような事をされるのか理解が出来ませんでした。
私は思わず首を傾げてしまいましたが、ヴォルの方は軽く溜め息をついただけです。いつの間にか先程の怒りも収まっていました。
「で、どういう事ですか」
不満は消す事なく、ヴォルは協会長さんに問い掛け直します。
私としては、今度も偽りなく答えてくれるか不明でした。
「おぉ、そうだったな。公にはなっていないが、これは魔力の暴走なのだよ。何百年に一度起こる、天災のようなものだ。今年は既に、我々が把握しているだけで三ヶ所で起きておる」
急に真面目な顔で、協会長さんが説明を始めます。
天災。三ヶ所。
私は必死に頭を動かして、その意味を理解しようとしました。
「史実によると、今から230年前にもこれと同様の事が起きていたのだ。『魔法石化現象』と言って良いのか、それが起きた場所一帯の全ての生物が魔法石となる」
長い髭を触りながらの協会長さんの説明です。
でも、何だかとんでもない事のようでした。しかも過去に同じ天災が起きていると言うのです。
「魔法石化現象ってそれは、このグレセシオ大陸だけなのかよ?」
ベンダーツさんが素のまま問いました。
協会長さんはチラリと彼に視線を向けます。
「ベンダーツの口調が気になりますか?」
「……いいえ、ツヴァイス殿が問題なければこちらは何も言う事ないですな。先程の質問だが、マグドリア大陸でも同様に起きておる」
「それはどうも」
ベンダーツさんは、ヴォルの問いに答えた協会長さんにそう言われても態度を変えるつもりはないようでした。
彼の神経の太さには脱帽です。それよりもマグドリア大陸でも、と聞こえました。
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