388 / 515
第八章
7.仲間を救ってほしいと【4】
しおりを挟む
「見えて来たぞ……ってかここからでも分かる、何だかヤバそうな雰囲気なんだけど」
ベンダーツさんの言葉に外を見ます。
──ぅわ~……、ベンダーツさんの言いたい事が分かりました。
馬車の窓から顔を出した私の視線の先には、とっても黒い靄が掛かっています。その危険度が分からない為か、ケストニアの町とおぼしき影を前方に馬車の足が止まりした。
しかしながら、地平に広がる黒々とした靄は嫌な感じしかしません。
「魔法石じゃねぇのかよ。あれじゃ、デカイ魔物にしか見えないんだけど。……ってかウマウマ、動けって」
手綱を振って命じるベンダーツさんでした。
どうやらベンダーツさんが馬車を停めた訳ではなく、引いているウマウマさんが止まってしまったようです。ウマウマさんも恐怖を感じているのか、まだ距離があるにも関わらずそれ以上近付こうとしませんでした。
これまでの旅に一緒していたウマウマさんなので、非常に珍しい反抗的な態度です。
「本能的に接近を拒否しているのだろ。俺はここから歩いていく」
それまで静かに状況を見ていたヴォルが立ち上がりました。勿論、抱き留められている私もつられて立ち上がります。
「行くのだろ?」
驚いてヴォルの顔を見上げると、真っ直ぐな瞳を向けられました。
まさか、こんなに危なそうなのに連れていってくれるとは思ってはいなかった私です。
「行って良いのですか?」
「あぁ。ここに結界は張ってくが、何処も危険なのは変わらない。ならば共にあった方が対処しやすい」
淡々とした言葉からは、ヴォルの感情が見えません。
でも、サガルットの町でお留守番出来ていなかった前科がありました。
勿論ヴォルの結界を信用していない訳ではないのです。それでも一人になると不安なのはどうしようもなくて、頭で考えても止める事など出来ないのでした。
「俺も仲間に入ってるよね?」
「仕方なく、な」
「ひっどぉ~」
楽しそうに声を掛けてくるベンダーツさんに、ヴォルは表情なく答えます。
二人のそんなやり取りを見ていると何故か楽しそうで、今からあの黒々とした危険な場所へ行くとは思えない程でした。
「行きましょう。精霊さんのお仲間も心配ですが、あの町の人も心配です」
「残念ながら、人間の生命反応は感じられない」
「それでもです」
「そうか」
一度ケストニアに視線を向けてヴォルが告げます。
もしかしなくても辛い現実を見る事になるのだと聞こえました。でも私はヴォルと同じものが見たいのです。
はっきりと首肯した私に、ヴォルはそれ以上何も言いませんでした。
私だって薄々感じてはいるのです。でも僅かでも可能性があるのなら、信じてみても良いではないかと強く思いました。
「メルって、案外強情なところがあるよね」
小さな声で、後ろからベンダーツさんに言われてしまいます。
そんな事は自分が一番分かっていました。本来の我が儘で意地っ張りなところを、私は必死に隠しているのですから。
「ダメですか?」
「いやぁ、それもヴォルには魅力的なんだろうから良いんじゃね?」
怖々と問い返すと、ニッコリと良い笑みを向けられました。
魅力的──なのでしょうか。自分では分かりません。
私は自分の我が儘で大切な命がなくなってしまうのが怖いから、普段は見せないようにしているだけなのでした。
「どうした、メル」
「いいえ、何でもないです」
立ち止まってしまっていた私に気付いてくれるヴォルです。彼はこんな些細な私の心の機微に気付いて、いつも気遣ってくれました。
大丈夫です。ヴォルなら、大丈夫──ですよね?
ベンダーツさんの言葉に外を見ます。
──ぅわ~……、ベンダーツさんの言いたい事が分かりました。
馬車の窓から顔を出した私の視線の先には、とっても黒い靄が掛かっています。その危険度が分からない為か、ケストニアの町とおぼしき影を前方に馬車の足が止まりした。
しかしながら、地平に広がる黒々とした靄は嫌な感じしかしません。
「魔法石じゃねぇのかよ。あれじゃ、デカイ魔物にしか見えないんだけど。……ってかウマウマ、動けって」
手綱を振って命じるベンダーツさんでした。
どうやらベンダーツさんが馬車を停めた訳ではなく、引いているウマウマさんが止まってしまったようです。ウマウマさんも恐怖を感じているのか、まだ距離があるにも関わらずそれ以上近付こうとしませんでした。
これまでの旅に一緒していたウマウマさんなので、非常に珍しい反抗的な態度です。
「本能的に接近を拒否しているのだろ。俺はここから歩いていく」
それまで静かに状況を見ていたヴォルが立ち上がりました。勿論、抱き留められている私もつられて立ち上がります。
「行くのだろ?」
驚いてヴォルの顔を見上げると、真っ直ぐな瞳を向けられました。
まさか、こんなに危なそうなのに連れていってくれるとは思ってはいなかった私です。
「行って良いのですか?」
「あぁ。ここに結界は張ってくが、何処も危険なのは変わらない。ならば共にあった方が対処しやすい」
淡々とした言葉からは、ヴォルの感情が見えません。
でも、サガルットの町でお留守番出来ていなかった前科がありました。
勿論ヴォルの結界を信用していない訳ではないのです。それでも一人になると不安なのはどうしようもなくて、頭で考えても止める事など出来ないのでした。
「俺も仲間に入ってるよね?」
「仕方なく、な」
「ひっどぉ~」
楽しそうに声を掛けてくるベンダーツさんに、ヴォルは表情なく答えます。
二人のそんなやり取りを見ていると何故か楽しそうで、今からあの黒々とした危険な場所へ行くとは思えない程でした。
「行きましょう。精霊さんのお仲間も心配ですが、あの町の人も心配です」
「残念ながら、人間の生命反応は感じられない」
「それでもです」
「そうか」
一度ケストニアに視線を向けてヴォルが告げます。
もしかしなくても辛い現実を見る事になるのだと聞こえました。でも私はヴォルと同じものが見たいのです。
はっきりと首肯した私に、ヴォルはそれ以上何も言いませんでした。
私だって薄々感じてはいるのです。でも僅かでも可能性があるのなら、信じてみても良いではないかと強く思いました。
「メルって、案外強情なところがあるよね」
小さな声で、後ろからベンダーツさんに言われてしまいます。
そんな事は自分が一番分かっていました。本来の我が儘で意地っ張りなところを、私は必死に隠しているのですから。
「ダメですか?」
「いやぁ、それもヴォルには魅力的なんだろうから良いんじゃね?」
怖々と問い返すと、ニッコリと良い笑みを向けられました。
魅力的──なのでしょうか。自分では分かりません。
私は自分の我が儘で大切な命がなくなってしまうのが怖いから、普段は見せないようにしているだけなのでした。
「どうした、メル」
「いいえ、何でもないです」
立ち止まってしまっていた私に気付いてくれるヴォルです。彼はこんな些細な私の心の機微に気付いて、いつも気遣ってくれました。
大丈夫です。ヴォルなら、大丈夫──ですよね?
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる