「結婚しよう」

まひる

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第八章

7.仲間を救ってほしいと【3】

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 あれから私達はそのまま休み、夜が明けてからの出発になりました。
 ヴォルは魔物討伐でたくさん魔力を消費したようなので、先の町で何が起こるか分からない事を考えると万全の態勢でのぞみたいと考えたからです。

「ここからケストニアはそんなに離れていないんだろう?俺にはまだ町が魔法石になったなんて信じられないんだけど、そのせいであれだけ魔物が集まってたって事だよなぁ。でもそれって、魔力駄々漏れって事になるよな?」

 馬車を走らせながら、御者台からベンダーツさんが声を掛けてきました。
 あれだけの魔物を討伐し終えたからか、今は魔物と遭遇する事もなく真っ直ぐ南に進めているみたいです。その為ベンダーツさんがウマウマさんの操作役、ヴォルは結界以外の魔法を使わずに済むように馬車内待機でした。

「魔法石はそこにあるだけで魔力を放出する。魔物は魔力流出が原因で飢えが極限に達している。生物種の見境なく襲っている現状からみて、魔法石の魔力を求めて集まってきたのだろう。……ケストニア近隣の精霊の森も襲われたようだ」

 ヴォルが精霊さんから聞いた情報を元に説明してくれます。
 『精霊さんの森』は私の中で精霊さんのお家と変換されました。そこを壊されてしまったからこそ、精霊さんが助けを求めているようです。

「でもさぁ、人間の町の近くに精霊の森って……。普通、そんなに身近なもんだった?」

「精霊は人間の集落に関与しない。単にその土地が力ある場所なだけだろ。……危害を加える相手でなければ問題ないと言っている」

 ベンダーツさんの問いに答え、終わりとばかりに私の肩に顔を埋めるヴォルでした。
 ウマウマさんの上でもそうでしたが、馬車の中での私も定位置──ヴォルに後ろから抱き締められる形で座っています。最早寝る時だけでなく、起きていても抱き枕なのでした。
 考えると羞恥に身悶えそうなので、私は周囲を見回します。そして視界に入った青い光に包まれた精霊さんは、昨日から変わらずヴォルの頭付近に漂ってました。やはり姿は見る事が出来ます。

「何だかなぁ~。まさか、精霊から仕事の依頼があるとは思ってみなかったよ。ってか俺、精霊の姿が見えないから役に立たないんじゃね?」

 一人呟くベンダーツさんでした。
 そう言えば何故私は見えるのでしょう。今だって、ヴォルの他の精霊さんは見えないのでした。結界のおかげというだけではなさそうです。

「ヴォル?あの、他の精霊さんもいますよね?何故かこの精霊さんは私にも見えるのですけど」

「あぁ。この精霊は弱っている。げんにマークも光は視認出来ているようだ。通常は持たざる者にはそれすら見えない」

 気になって問い掛けてみれば、なるほどな理由でした。
 そう言われてみればそうです。ベンダーツさんと私の見え方が違うのは気になりますが、クスカムの魔力所持者にも普通に見えないものでした。
 ──と言うか、ヴォルが話す度に首筋に息がかかってくすぐったいです。しかしながらこれでも私は抱き枕歴が長いので、これくらいで動揺してはダメだと気を引き締めました。

「えっと……弱っていると言う事は、何処か怪我をしているとかですか?」

 更なる疑問を口にすると、ヴォルはその質問に淡々と答えてくれます。

「違う。精霊力の消耗の為だ。それもしばらく俺の周りにいれば回復する筈だ」

 さすが魔力量が随一ずいいちなだけはありました。保有する魔力が圧倒的なので、たくさんの精霊さんを養えるようです。
 けれども今は魔力流出の問題があるので、別の意味では要注意でした。ヴォルの魔力がなくなってしまっては大変です。

「そうですか、でも怪我をしていなくて良かったです。精霊さんって小さいので、怪我をしたらどうやって手当てをしたら良いか分からないですから」

 魔力を摂取すれば回復すると聞いて、私はホッと胸を撫で下ろしました。
 そもそも、人間と同じ薬草を使って治療する事など可能なのでしょうか。とても小さいので、用法容量の違いすら不明でした。

「メルは優しいな。だが問題ない。生命の精霊がいる」

 ヴォルに頭を撫でられます。
 忘れていましたが、生命の精霊さんがいれば回復も出来るのでした。
 どうやら私の心配なんて、精霊さんには小さな事だったようです。でもヴォルに誉められてしまったので、何だか複雑ではありました。
 
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