「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
385 / 515
第八章

≪Ⅶ≫仲間を救ってほしいと【1】

しおりを挟む

「あ、戻ってきた。……ってか、何か連れてきたんだけど」

 不意にベンダーツさんが告げます。
 私は言われるままそちらを確認して──、首をかしげてしまいました。それは見たところ『光』なのです。いや、例えでも何でもなく。

「何、それ」

 結界内に入ってきたヴォルへ、ベンダーツさんから至極真面目な顔での第一声でした。
 ベンダーツさんも私と同じように、ただの光にしか見えていなかったようです。

「精霊だ」

 連れ帰ってきた人外に、不思議と事も無げに答えるヴォルでした。
 彼がこう言うからには危険はないのだと判断し、私もヴォルの左上にいる光の中を見つめます。すると自然とその青い光の中に、掌で覆い隠せてしまいそうな程の小さな人が見えました。
 輝く銀色の長い髪は腰まであり、その背には特徴的な透明な羽が二対存在しています。こちらを不安そうに見るその瞳は、それは綺麗な青色だという事まで認識出来ました。

「……綺麗な子ですね」

「何、精霊?ってか、メルも見えるの?」

 驚きを隠せない様子のベンダーツさんでしたが、その言葉通りであれば彼は見えないと言う事です。
 私が光として認識していたのは結界に入る前までなのですが、ヴォルの結界に入った途端にそれが精霊さんの形を取る様子まで確認出来たのでした。

「マークさんは見えないのですか?銀色の長い髪の子なのですけど……」

 とりあえず控え目に確認をしておきます。
 ですがやはり視認出来ないらしく、ベンダーツさんから嫌な顔を返されました。言葉にして確認してほしくはなかった──と言う事のようです。すみませんでした。

「そうだよ……。俺には単なる青い光にしか見えない」

「日頃のおこないだな」

 悔しげに呟かれたベンダーツさんの言葉に、ヴォルがあざる様に告げます。
 これはいつもの軽口の応酬なのでしょうが、からかいの一種なのかもと思いました。でも見たくても見えない側にとっては、結構ダメージなのです。

「んだよ、何の条件があるってんだ?ヴォルはともかく、何でメルまで見える訳?」

 ベンダーツさんは右に左にと首をかしげていました。そしてムッとしたままベンダーツさんは精霊さん──光の玉に顔を近付けます。
 急なその行動に驚いたのか、精霊さんが抵抗するように強い光を放ちました。けれどもそれが眩しくてベンダーツさんがひるんだその拍子ひょうしに、精霊さんは勢い良くヴォルの頭の後ろに隠れます。

「っ……くそ、目眩めくらましかよ……」

 強烈な光を無防備な目に当てられた為、ベンダーツさんは両目をつむったまま悔しそうに呟きました。
 多少の自業自得感はありますが、反撃に転じた精霊さんも凄いです。

「弱い精霊の護身法だ」

「そんなの知るかよぉ。……う~、まだ見えん」

「視力が一時的に焼けているだけだ。しばらくすれば元に戻る。無闇に顔を近付けるな」

 ベンダーツさんが片手で顔を覆って大変そうでした。けれどもヴォルも私も全く影響はありません。
 たいして離れていないのにも関わらず、何故なのか不思議に思いました。

「あの、ヴォルも私も大丈夫だったのは何故でしょうか?」

「あぁ。精霊自体が目をくらませたい相手を選ぶ」

 素朴な私の質問に、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
 精霊さんは綺麗で可愛いだけでなく、凄い能力も持っているようでした。
 ──そう言えば、何故精霊さんなのでしょうか。

「あの……この精霊さんは、ヴォルの精霊さんではないですよね?」

「そうだ。ケストニアからやって来た。仲間を救ってほしいとの依頼だ」

 疑問をぶつければ、ヴォルの淡々とした説明が返ってきました。
 しかしながら人外からの──精霊さんからの依頼ですか。

「何~?仕事の依頼をしに来て、その仕事仲間に手を出す訳?」

 ようやく視界が回復してきたのか、目を細めた状態のベンダーツさんが低い声で問い掛けてきました。
 いえ──先程のは精霊さんが悪い訳ではないです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

処理中です...