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第八章
≪Ⅶ≫仲間を救ってほしいと【1】
しおりを挟む「あ、戻ってきた。……ってか、何か連れてきたんだけど」
不意にベンダーツさんが告げます。
私は言われるままそちらを確認して──、首を傾げてしまいました。それは見たところ『光』なのです。いや、例えでも何でもなく。
「何、それ」
結界内に入ってきたヴォルへ、ベンダーツさんから至極真面目な顔での第一声でした。
ベンダーツさんも私と同じように、ただの光にしか見えていなかったようです。
「精霊だ」
連れ帰ってきた人外に、不思議と事も無げに答えるヴォルでした。
彼がこう言うからには危険はないのだと判断し、私もヴォルの左上にいる光の中を見つめます。すると自然とその青い光の中に、掌で覆い隠せてしまいそうな程の小さな人が見えました。
輝く銀色の長い髪は腰まであり、その背には特徴的な透明な羽が二対存在しています。こちらを不安そうに見るその瞳は、それは綺麗な青色だという事まで認識出来ました。
「……綺麗な子ですね」
「何、精霊?ってか、メルも見えるの?」
驚きを隠せない様子のベンダーツさんでしたが、その言葉通りであれば彼は見えないと言う事です。
私が光として認識していたのは結界に入る前までなのですが、ヴォルの結界に入った途端にそれが精霊さんの形を取る様子まで確認出来たのでした。
「マークさんは見えないのですか?銀色の長い髪の子なのですけど……」
とりあえず控え目に確認をしておきます。
ですがやはり視認出来ないらしく、ベンダーツさんから嫌な顔を返されました。言葉にして確認してほしくはなかった──と言う事のようです。すみませんでした。
「そうだよ……。俺には単なる青い光にしか見えない」
「日頃の行いだな」
悔しげに呟かれたベンダーツさんの言葉に、ヴォルが嘲る様に告げます。
これはいつもの軽口の応酬なのでしょうが、からかいの一種なのかもと思いました。でも見たくても見えない側にとっては、結構ダメージなのです。
「んだよ、何の条件があるってんだ?ヴォルはともかく、何でメルまで見える訳?」
ベンダーツさんは右に左にと首を傾げていました。そしてムッとしたままベンダーツさんは精霊さん──光の玉に顔を近付けます。
急なその行動に驚いたのか、精霊さんが抵抗するように強い光を放ちました。けれどもそれが眩しくてベンダーツさんが怯んだその拍子に、精霊さんは勢い良くヴォルの頭の後ろに隠れます。
「っ……くそ、目眩ましかよ……」
強烈な光を無防備な目に当てられた為、ベンダーツさんは両目を瞑ったまま悔しそうに呟きました。
多少の自業自得感はありますが、反撃に転じた精霊さんも凄いです。
「弱い精霊の護身法だ」
「そんなの知るかよぉ。……う~、まだ見えん」
「視力が一時的に焼けているだけだ。暫くすれば元に戻る。無闇に顔を近付けるな」
ベンダーツさんが片手で顔を覆って大変そうでした。けれどもヴォルも私も全く影響はありません。
大して離れていないのにも関わらず、何故なのか不思議に思いました。
「あの、ヴォルも私も大丈夫だったのは何故でしょうか?」
「あぁ。精霊自体が目を眩ませたい相手を選ぶ」
素朴な私の質問に、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
精霊さんは綺麗で可愛いだけでなく、凄い能力も持っているようでした。
──そう言えば、何故精霊さんなのでしょうか。
「あの……この精霊さんは、ヴォルの精霊さんではないですよね?」
「そうだ。ケストニアからやって来た。仲間を救ってほしいとの依頼だ」
疑問をぶつければ、ヴォルの淡々とした説明が返ってきました。
しかしながら人外からの──精霊さんからの依頼ですか。
「何~?仕事の依頼をしに来て、その大切な仕事仲間に手を出す訳?」
漸く視界が回復してきたのか、目を細めた状態のベンダーツさんが低い声で問い掛けてきました。
いえ──先程のは精霊さんが悪い訳ではないです。
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