「結婚しよう」

まひる

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第八章

6.魔力以外を感じられない【3】

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「大声を出すな、メルが怖がる」

「はあぁ?これが落ち着いていられるかっての!町があるだろうが、町がっ。人がいるだろう?!」

 ヴォルの制止も物ともせず、怒り最高潮のベンダーツさんは止まりません。
 かばうようにヴォルの腕で囲まれた私は、食卓に隣同士で良かったと安堵しました。

「はっ……まさかケストニアの町を吹き飛ばしたとかっ?!」

「落ち着いてください、マークさん。ヴォルがそんな事をする筈がないでしょう?」

 けれどもヒートアップしているベンダーツさんは止まりません。事もあろうに、ヴォルの先程の魔法まで疑ってかかりました。
 仮にそうであるならば私は我慢が出来ません。思わず強くベンダーツさんに言ってしまいました。そしてすぐに、しまったと思って口に手を当てます。
 考えればそんな筈がないのだと分かるのに、感情に任せて言い返してしまったのでした。ベンダーツさんは誰よりもヴォルの事を思っているのにです。

「あ……」

「まぁな、そりゃそうなんだけどさ」

 急に態度を変えたベンダーツさんから発せられた気の抜けたような言葉に、私は間の抜けた顔をしてしまいました。
 そして徐々に私の中の冷静な部分が現れます。過去何らかの原因があってベンダーツさんがヴォルを悪く言う時は、その全てがあおり行為であった事に思考が到達したのでした。

「ぷっ……面白いね、メル」

「なっ!?あのですねぇっ」

 一時の感情に負けてしまった私は、既に表情を取り繕う事が出来ません。
 怒りと困惑を同時に顔に出した私を、ベンダーツさんはクスクスとからかい混じりに告げました。私は彼等のようにすぐに感情を落ち着かせる事が出来ません。
 あの切り替えの早さは見習いたいと切実に思いました。

「いやぁ、ねぇ……。メルはヴォルには怒らないのに、俺には怒れるんだなぁって思って」

 妙に感慨深く告げられます。
 確かにベンダーツさんには──って言うか、ヴォルはそんな風に私が思わずカッとなってしまうような事をしませんでした。
 思わず納得しそうになって、不意に違うと心が訴えてきます。

「マーク、メルで遊ぶな」

「は~い。って、ヴォルはいつから気付いてたのさ」

「やけに突っ掛かってくると思ってからだ。そもそもお前にお前・・と言われる筋合いはない」

 なだめるように私の頭を撫でていたヴォルでしたが、ベンダーツさんの問いに事も無げに答えました。
 そういう些細な部分で分かり合ってしまえる二人が羨ましいです。

「なぁんだ、つまんねぇの。それ、始めっから分かってたって事じゃん。……で、マジでこの後どうするのさ。」

「魔力を回復させてから向かう」

「つまりは、危険って事ね」

「だろうな」

 ちょっとそこまでお買い物的な口調でした。
 しかしながら現実はとてもそんな状態ではない筈です。魔力回復を必要とするのはいざという時の為でしょうが、ヴォルが先程生命力を感じられないと言っていました。

「あの、次は私も連れていってくれるのですよね?」

「……だってさ。勿論、俺もね?」

 私の話に便乗するように、ベンダーツさんもヴォルに問い掛けます。
 毎回お留守番は辛いのでした。何も出来なくとも、守られているだけは嫌なのです。

「そうだな。マークを連れていくと俺の負担が増えるが」

「えぇ?俺だけっ?!」

「メルは俺の生命線だ。お前は荷物にならないようにしろ」

 プイッと顔をそむけるヴォルですが、怒っている訳ではないのは分かりました。
 それどころか言葉の裏にベンダーツさんへの気遣いが見えます。
 可愛い──と思いました。口には出せませんが。

「本当に可愛くないねぇ。どう思う?メル」

「えっ、可愛いですよ?」

 何気にベンダーツさんから問い掛けられ、私は特に深く考える事もなく答えます。
 ──あれ?
 今、私は何と言ったのでしょうか。ヴォルとベンダーツさんの様子がおかしいように──って、思い切りベンダーツさんに笑われました。

「な、何ですか?」

「いやぁ、本当にそれがで言ってるんだもんね。参ったわ、凄いよ」

 言いながらもベンダーツさんは苦しそうにお腹を押さえて笑っています。
 何がそれ程面白かったのか分かりませんでした。そしてヴォルは固まっています。
 ──まぁ、楽しそうなベンダーツさんは良いのでしょうがね。
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