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第八章
≪Ⅵ≫魔力以外を感じられない【1】
しおりを挟むその後片付けが終わっても移動せず、何だかまったりとしていました。──勿論、私はヴォルの腕の中です。
あの大規模系魔法で消費した魔力は私が思った以上に大きいようで、夜でもないのにヴォルの抱き枕状態なのでした。
「あの……、今日はこのままここにいるのですか?」
背中から抱き締められているので、私は背後を見上げるようにヴォルに問い掛けます。
何だか行動を急かすような言い方になってしまいました。別にヴォルの腕の中が嫌と言う訳ではないのです。
「休憩だ」
相変わらずの応対でした。
ですがその一言では真意が分からないのです。疲れ具合とか回復具合とか、理由や説明って大切だと思いました。
「もう、素直じゃないんだからなぁ。魔力を使いすぎて疲れたから、メルに癒してもらいたいだけだろう?そう言うの、ハッキリ言わないと誤解を受けるって前にも言ったじゃん」
ベンダーツさんに言われ、私はつられるように何度も首肯しました。
そうです。ただの抱き枕ではなく、私と一緒にいるとヴォルは魔力を回復出来るのでした。ベンダーツさんいわく、精神安定剤的なヴォル専用の魔力回復アイテムなのです。
「……動く事は出来る」
「ったく、そんなの分かってるっての。実際にここまで魔法を使って帰ってきたんだからな。そもそもが完全な魔力欠乏状態なら、動く事はおろか倒れて意識なくなってるって。前にそんな状態になったから、こっちは心配してるんでしょうが」
言い訳のように視線を逸らして答えたヴォルに、ベンダーツさんが説教モードになりました。
いつにも増してベンダーツさんが熱いです。
なんだかんだ言いますが、全てヴォルの事を本当に大切に思っているからこその言葉のように思えました。
「……こら、メル。そう言う、第三者的な生暖かい視線をこっちに向けないの。ここはメルが説教しないといけないんだからね?分かってるのかなぁ」
「あ、え……私が……ですか?」
心穏やかに二人を見つめていた私ですが、ベンダーツさんは違う解釈で受け取ったようです。
けれども突然そんな事を言われても、私はどうすれば良いのか困って瞬きを繰り返しました。
それに私がヴォルを怒るのなんて、自己犠牲精神で彼が暴走した時くらいかと思います。
「当たり前でしょ。旦那でしょうが、本物のっ」
「はぁ……、それはそうなのですけど……っ」
そう口ごもる私は、突然視界からベンダーツさんが隠されました。──逆です。
私がベンダーツさんからヴォルによって隠されたのでした。素早く動けるようです。体力の方は充実しているようでした。
「何、隠してんのさ。別にとって食おうとしてないでしょ」
「近付きすぎだ」
「はぁ~……ったく、やってらんないなぁ。また俺が悪者?」
大きな溜め息をついたベンダーツさんでしたが、怒っている訳ではなさそうです。
私の目の前はヴォルの胸ですが、彼からもピリピリ感は伝わってきませんでした。言葉ほど警戒している訳ではなさそうです。
「あの、魔力の状態はどうなのですか?」
とりあえず私は、ヴォルに一番気になっている事を問い掛けました。
消費度合いも分からないながら、回復に必要な時間も不明なのです。
「問題ない」
「またその返答かよ。あのさぁ、ヴォル。それって俺等を拒絶して言ってる?」
いつもの端的な返答をしたヴォルに、眉根を寄せるベンダーツさんでした。
ここで言う俺等とは勿論、ベンダーツさんと私だと分かります。
「そんな筈はない。……そう聞こえるのか」
「あぁ、聞こえるね。心配もさせない、自分の状態も教えない。……どう考えてるのか知らねぇけど、それは他者への拒絶の言葉だぜ」
口調が酷く荒くなったベンダーツさんは、かなり御立腹のようでした。
でもベンダーツさんの言いたい事が痛い程分かります。私もたくさん心配していて、少しでもヴォルの役に立ちたいと思っているからでした。
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