「結婚しよう」

まひる

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第八章

5.お前はついでだ【4】

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 そんな私達の向こう、遠く南の方で爆発音が聞こえました。
 振り向くと地平の向こうから黒煙が立ち上っているのが確認出来ます。

「派手にやってるねぇ。最近魔法を禁止していたから、鬱憤うっぷんが溜まってたんかなぁ」

 内容の割りにはノンビリとした口調のベンダーツさんでした。
 勿論魔法を使っているのはヴォルでしょうし、あの数の魔物を討伐しようと思ったら両手剣だけでは足りません。そんな理由もあって魔法を使う事が分かっている為か、ベンダーツさんは今までのようにピリピリとはしていませんでした。

「ヴォルは他の魔力を持った他のかたよりも、全体量が多いのですよね?」

「あぁ、潜在魔力値ね。多いってものじゃないよ、それこそ比べるのが可哀想になるくらいだ。……それでも魔力は半永久的に湧き出ない」

 私の問い掛けに、わずかに固い表情でベンダーツさんが答えてくれます。
 人の力なのですから、半永久的になんてある筈がない事は分かりました。

「だがら消費が多ければ枯渇だってする可能性がある。……まぁ、どう考えたってアイツが一番最後まで残る口だろうけどさ」

「どういう意味ですか?」

「そりゃ、そのままの……ってこれ、怒られる?」

 私の感じたままの問い掛けに、ベンダーツさんが首をかしげます。
 誰に怒られるというのでしょうか。けれども話の流れ的にヴォルなのかもしれないと、意味が分からずとも推測されました。

「まぁ、良いや。話のだし?」

 ニヤリと悪そうに笑みを浮かべたベンダーツさんです。
 やっぱり根に持っているようだと、私は苦笑いを返しました。

「ほら、それはこの世界でヴォルが一番の魔力所持者だからだよ」

 ベンダーツさんはニッコリと笑顔のままに告げます。
 しかしながらその突然の言葉に、私はまばたきを繰り返す事しか出来ませんでした。
 世界で一番の魔力所持者とは、どういう意味なのでしょう。精霊さんに好かれる程、強い魔力を持っていると事は知っていました。でも私の知識はそれくらいです。

「あれだけの力があれば、世界征服だって出来ちゃうのにねぇ。人間だって好きじゃないし、魔物だって魔法でアッと言う間に消滅させる事が出来るじゃん?……それを大人しく言われるまま魔法石になる未来を選ぶだなんて馬鹿げてるよ、本当」

 吐き捨てるような言葉でした。明らかに怒っています。
 良く分かりませんが──ベンダーツさんがいきどおりを感じている事は理解出来ました。それでも内容が何やら殺伐としています。

「あの……、マークさんはヴォルの監視役でもあるのですよね?」

「そうだよ」

「それなのに、反逆心をあおってどうするのですか」

 思わず説教モードに入ってしまいました。
 いったい、この人は何がしたいのでしょうか。

「……そうだなぁ。あまりにも馬鹿正直に生きてるから、き乱したくなった?みたいな」

 ニッコリと良い笑顔を向けてくるベンダーツさんです。
 そんな物騒な意見が通ってしまうようではとても困るのですけど、これが本音なのかもしれないと思ってしまいました。

「俺はさ……家系的に中央の補佐を多数排出してる出自ではあるんだけど、個人的には思うところが色々あったりするんよ」

「はぁ……」

 小さく溜め息をいたベンダーツさんは、ヴォルのいるであろう南の方角へ視線を向けました。
 私も少しだけ聞いた事がありますが、ベンダーツさんの御実家は貴族であるらしいのです。確かに魔力所持者だからといって、皇帝様の御子息に平民を従属させはしないと今なら理解出来ました。

「いっそのこと、独立国を作ったり?」

 ポツリと返される言葉は、ベンダーツさんの独り言のように思うがまま綴られます。
 しかしながら独立とは──そんなだいそれた事をそんなに簡単に言われてもと、私は反応に困ってしまいました。

「ほら、俺は優秀だからさ。宰相もこなせると思うんだよね。どう?……ほら、何なら料理長も出来ちゃうし」

 今度は爽やか系笑顔のベンダーツさんです。
 聞きながらもコトリとお皿を置く音に手元を見ると、いつの間にかたくさんの食事がテーブルの上に並んでいました。
 何だか色々と驚きです。そして私の出来た手伝いはパンを運んだだけに終わっていました。
 話しながらこれだけの手際の良さ──素晴らしいです、その能力を少しでも分けてほしいです。
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