「結婚しよう」

まひる

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第八章

4.何者かの意図【5】

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「それなら……」

「ここでやめても仕方がない。現時点でも魔力感知を使う事で魔物との遭遇率を下げている。結果的に必要以上の魔力消費も抑える事に繋がる」

 私の言葉をさえぎる様に告げたヴォルは、当然のように感知能力を使っていたようです。
 普段から私に結界を使い、移動中は魔力を感知する為に更なる魔法を行使している事がおおやけになりました。

「使い続ける事で、範囲は広くなってきているのか?」

「少しはな」

「魔力の残量と言うのは、ヴォル自身で分かるものなのですか?無理しすぎて力が尽きてしまうなんて言う事はないですよね?」

 ベンダーツさんの問いに曖昧に答えたヴォルに、私は疑問も含めた質問をします。いくらなんでも数値などの目に見える形で表されている訳でないと思ったからでした。
 一つの魔法にどれだけの魔力を必要とするのかは分かりませんが、普段以上に流出する分と合わせての消耗を考えなくてはならない訳です。いくらヴォルの魔力量が普通の人達より多くても、底無しではないでしょうから。

「問題ない」

 いつものように事も無げに答えるヴォルでした。
 これだから心配なのですよ、私もベンダーツさんも。その一言だけで、どれだけの情報が含まれているのか逆に問い返したいです。

「とりあえずケストニアの町に向かう事は変わらずで良いな?」

「あの……魔物を避けつつも転移魔法を使わず、ケストニアに行く最短の道とかありますか?」

「ある」

「あ、あるのかよっ」

 ベンダーツさんの確認に私はダメ元で聞いてみたのですが、ヴォルは普通に返してきました。驚きのあまりか、ベンダーツさんの珍しい突っ込みです。
 でも、そう言いたくなる気持ちは分からなくもありませんでした。それまで一度も行程について口を出さなかったからです。

「お前が素直に南下しているからだ」

「いや、俺のせい?ってか言ってよ」

 ヴォルの指摘に困ったような表情で訴えてくるベンダーツさんですが、私に問い掛けて来られても逆に困ってしまいます。
 南にあるという町に向かうのは、普通なら南に進む筈でした。街道に添って馬車を走らせるベンダーツさんが悪い訳ではありません。
 そもそもはっきり言って私では、『南』自体が分からず迷子になる事は確実でした。

「俺に御者をさせるのか」

「いやいや、何で喧嘩腰?」

「ヴォル、お願いしたいです」

 何だか面白い二人のやり取りです。
 それでもあまりに放置はベンダーツさんが可哀想──かもでした。なのでここは私が助け船です。
 ヴォルの魔力消費も合わせて抑えられるなら、協力は尚更でした。

「……メルが言うなら」

「ありがとうございます、ヴォル」

 渋々といった様子のヴォルです。
 それでも私はニッコリと笑顔でお礼を告げました。
 わずかに視線をらしてしまったヴォルが何だか可愛いです。これは不愉快を表しているのではなく、照れているようでした。

「お、俺は……?後ろに乗って良いの?」

 ベンダーツさんは自身を指差して、ヴォルと私の顔を見比べています。
 まさか走って着いてくるようになどとは言われないでしょう。

「お前は後ろだ。仕方がないから代わってやる。メルは俺の隣に来い」

「はいっ」

 立ち上がったヴォルがベンダーツさんを一瞥いちべつしました。
 馬車の中でベンダーツさんと一緒にさせる事が嫌なのか、サッと御者台に乗り込んだヴォルが自分の隣を叩きます。
 私は込み上げる笑いを隠しきれないまま、ヴォルの隣に座ってからも笑みを浮かべていました。
 御者台に乗るのは初めてです。でも直接乗るウマウマさんと違って位置が低くて足場もついているので、私一人でも乗る事が出来るのでした。
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