「結婚しよう」

まひる

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第八章

4.何者かの意図【3】

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「そこまで魔力を高めてさせて……、最終目標は何になるのでしょうか」

 知りたくない感じがしましたが、やはり気になりました。
 例え自主的にでも、ただ強くなりたいだけで危険をおかすものでしょうか。
 それはになる見返りがあるからこその行動に思えました。

「聞いちゃう?……って、別に隠す程の事ではないよね。魔力所持者の行き先なんて、あいつらにとっては決まってるんだ。それは魔法石になるか、魔法省職員になるかの二者択一にしゃたくいつだよ。セントラル以外の町の結界保持に、魔力所持者がどうしても必要だからね。ある程度育成された後は、各地に派遣されていくよ。あ、勿論魔法省職員になったからって、魔法石にならない保証はないけどね」

 表情だけ楽しそうなベンダーツさんですが、その瞳は暗く沈んでいるようです。
 それはヴォルがいずれ魔法石にとらわれてしまうかもしれないと、ずっと前から知っているベンダーツさんだからこその闇なのかもしれませんでした。

 それにしても、また魔法石です。本当にこの世界は魔法石に頼りきっているようでした。──いえ、私もこうやって知る前はそれが当たり前だったのですけど。
 それでも、魔法省職員と言う立場がある事には驚きました。確かに魔力所持者を相手にする職員なのですから、魔法を使えないと抵抗された時に危ないです。

「ってかこのままケストニアまで行くにしても、後どれくらい掛かるのかなぁ。こんなにも足止めを受けてちゃ、見積もりも出来ないや。そりゃ、初めに道を間違えたのは俺だけどな」

 先程の話はもう終わりとばかりに、ベンダーツさんは思い切り伸びをしていました。
 長々と色々な説明を聞きましたが、肝心の『魔力の流れを乱して魔物を統括している何か』についての話は何処にいったのでしょうか。

「あの、魔物を統括している何かについてはどうなったのですか?」

「ん?分からないよ、そんなの。だからケストニアに行って調べるんじゃん。俺だって城から離れて逐一情報を得るのが難しくなってるし、基本的に魔法省は不可侵を突き通してるからね」

 私の問いに、何を言ってるの的な表情でベンダーツさんから返されました。
 そうなんですけどね。
 何かに落ちないものを感じつつも、魔力所持者に対する魔法省と魔力協会の知識を得られたので良いと思う事にしました。

「早くケストニアに着きたいのか」

「そりゃそうでしょ。いくら魔物討伐が旅の目的の一つだとしたって、こっちにも限度があるってぇの。……それに、ヴォルの魔力だって無尽蔵じゃないだろ」

 ぽつりとヴォルから告げられ、ベンダーツさんは当然のように口にします。
 何だかんだ言っても、ベンダーツさんはヴォルの事が心配のようでした。

「行こうと思えば行ける」

 そしてヴォルも当たり前のように返します。
 その言葉を受け、ベンダーツさんが珍しくきょとんとしました。

「……何、それ。また魔法?ってか、何でさ」

「ケストニアに魔力協会があるからだ」

 ヴォルの言葉に、ベンダーツさんと私が顔を見合わせます。
 勿論、お互いにヴォルの言っている意味が分かったのかという確認でした。

「あのさ、意味が分からないんだけど。魔力協会があると何なのさ」

「魔力協会には大きな魔法石がある。それを目印に飛べる」

 代表してベンダーツさんが質問を返した訳ですが、これにもヴォルは事も無げに続けます。
 驚きのあまりまばたきを繰り返すだけの私でしたが、ベンダーツさんも同じようでした。

「バカじゃないのかっ?!」

 そんな叫びが聞こえるまでに、少しばかり間がありましたから。

「本当に、何だろうねっ。魔力を使わないようにって言ってるこっちがバカみたいじゃないか?転移の魔法は魔力消費が高いんだろうっ?この状況でその話を持ち出すかっ?!」

 怒っています。
 ベンダーツさんの言いたい事は私にも分かりました。しかもこの話は、転移先へ安全の為にと結界を張れる訳ではないようです。
 ですが、次にヴォルが告げたのはそれ以上の衝撃がありました。

「このまま魔力が尽きるまで戦い続けるのか」

 熱くなるベンダーツさんに、ヴォルは静かに問います。
 その可能性を疑ってしまう程、この先にも魔物が立ち塞がっているのだという予想でした。
 勿論、ヴォルの魔力が尽きるまで──と言うのが現実になるかは分かりません。
 でも、大陸を南下すればする程に魔物が増えてきている様な気さえするのでした。
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