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第八章
≪Ⅳ≫何者かの意図【1】
しおりを挟む「あ~もう、疲れた~。暫く動きたくない~」
結界の中で座り込んでいるベンダーツさんです。
あちらこちらに細かい怪我をしているものの、あの魔物討伐でも大きな負傷を負っていませんでした。それらも私の擂り潰した薬草をベンダーツさんが調合して、塗り薬として使用済みなので回復が早い筈です。
ちなみにヴォルは傷一つありませんでした。精霊さんの守護が関係しているかもです。
「足止めばかりで、全くと言って良い程先に進めないじゃん。何、わざと?わざとなの?」
愚痴るベンダーツさんの横で、私は薬草を潰した擂り鉢を洗浄していました。
勿論水の供給源はヴォルの魔法ですが、私にはそれくらいしかやれる事がないので任せて貰えて逆に感謝です。
「本当に、まるでこの先に誰も進めたくないような感じだよねぇ。大体さ、違う種類の魔物が揃って毎回のように襲ってくる?あんなにも仲良いもん?」
身ぶり手振りを加えて、ベンダーツさんは大袈裟に訴えていました。
でもそれは私も不思議に思っていたのです。
前回の旅では、群で行動する魔物以外は単体で──更に言えば種類ごとに登場していました。
「魔物同士も結託する様になったって事?まっさかねぇ~?」
「……何者かの意図か」
ベンダーツさんの言葉に、ヴォルも訝し気に目を細めます。
意図──魔物を使って何かを狙っている、もしくは何かさせようとしている存在がいるのではないかとの考えのようでした。
「魔力の流れを乱して、魔物を統括している何かって事?それ、明らかに人間技じゃないよね。ってか、それをするにはどれだけの魔力が必要なのよ。ヴォル以外に今のところ精霊に好かれる程の魔力所持者はいないんだけど?」
「セントラルの握っている情報が全てとは限らない。それにゼブル卿やブルーべ令嬢の例もある。見落としがないとは言えない」
「そりゃ、そうだけど。でも魔力協会が魔力所持者の発生から行動まで把握している訳で……、って。マジ?」
今までに分かってきた内容を口にしながら、ベンダーツさんがヴォルと話し合っています。
そしてそんな中で急に言葉を止めたベンダーツさんは、とても驚いた顔をヴォルに向けました。
何が思い付いたようです。
「さぁな。俺はその被験者側だ。……だが魔法省との因果関係が全くないとは言えない」
ヴォルはそれを受け、言葉にしないながらも半ば肯定したようなものでした。
私も魔法省というのは以前に聞いた事があります。それでも詳しい内容は分かりませんでした。
「あ、メルが分かってないね。えっと……魔法省ってのはセントラル皇帝の直轄なんだけど、その魔法省の直轄組織に魔力協会があるのさ。魔力協会は各地に散らばってるから、さすがに目が行き届かなくて皇帝が直接指揮出来ないだろう?それでセントラルの中では魔法省、外では魔力協会が魔力所持者に目を光らせているって訳」
「魔力を持った人に印をつけたり……ですか?」
「そうそう。基本、魔力協会が魔力所持者を保護。あ、捕獲とも言えるけど。これ、本人に拒否権はないからさ。で、能力診断の後に魔法省の判断で印つけ。ここで僅かに逃れる隙はあるんだけど、四元素魔力所持者は力量によらずほぼ確実に印をつけられるね」
ベンダーツさんが詳しく教えてくれます。
魔法省や魔力協会が行える強制力との事でした。それが魔力所持者に対する束縛です。
確かに大きな魔力を持っている人相手では、魔力を持たない人は束になっても敵わないかもしれませんでした。
魔法省などの機関は、そんな恐怖心から作られたみたいに思えます。
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