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第八章
3.魔物達の飢えの原因【5】
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「ほら、ね」
勝ち誇ったようなベンダーツさんでしたが、ヴォルは眉を寄せて何だか苦しそうです。
それを見て、もしかしてあまり聞かれたくないのかもと思いました。私の興味本位な部分は仕方がないのですが、仮に自分へ置き換えてみると──ダメです、恥ずかしいです。
「まぁ、今のところはここまでにしておこうかな。俺もヴォルを苛めたい訳じゃないし?」
ベンダーツさんが明るく終わりを宣言してくれました。
そうですよね、聞かれたくない事もありますよね。
本当は物凄く色々と聞きたいのですけど、私もここは我慢でした。
「けどさ、メルも素直に聞けば良いんだよ。あ~、でもメルも感情を……と言うか、言いたい事を抑えてる節があるからなぁ。二人はお互い様ってやつ?魔物達が魔力に飢えるのと同じように、人間だって欲しい感情を得られなくて飢える事もあるんだけどねぇ」
「煩い、マーク。そろそろ出発するぞ」
言われ放題なのは気に入らないのか、ムスッとしたままヴォルが立ち上がります。
ベンダーツさんの剣は既にメンテナンスを終えていたので、実質今は休憩の時間でした。
ヴォルの表情があまり変わらなくても、私には──恐らくベンダーツさんにも伝わっているのでしょう。クスクス声を抑えて笑っているベンダーツさんは、私と目が合うと首を竦めて見せましたから。
とは言え、出発しても一度に長く移動出来る訳ではありませんでした。
魔物とのエンカウントが多く、攻撃を受ける頻度は前回の旅と比べようもありません。中型や小型の──数と俊敏さを備えた魔物に襲われて、すぐに足を止めざるを得なかったからでした。
「本当にもう、いい加減にして欲しいなっ」
剣を降り下ろし、ベンダーツさんが一体の魔物を討ちます。その横ではヴォルが天の剣を振るい、また別の魔物を討ちました。
当たり前ですけど、魔物討伐も楽ではないのです。私は見学のみですが、彼等が毎回無傷で済まない事もあるので薬草を準備していました。とはいっても調合は無理なので、私は薬草を純粋に擂り潰すくらいです。
「キリがない」
「あ~っと、魔法はダメだからねっ」
ヴォルが左手に拳を作ったのを、ベンダーツさんは見逃しませんでした。
義手であるその左手も、今では上手く魔法の操作が出来るようになっています。初めの頃のように、義手を焦がしたりする事がなくなっていました。
でもベンダーツさん止めた理由は勿論それではありません。
「結界以外の魔力を使うなって言ったよね?」
「……魔力よりお前の体力が尽きる」
僅かに眉を寄せるヴォルは、ベンダーツさんの呼吸が乱れてきている事に気付いていました。
元々事務職というか政務補佐が主な仕事だったベンダーツさんは、騎士や衛兵のような肉体派ではありません。この旅へ出てからは冒険者を装っていますが、線の細い文官タイプでした。
「俺はまだ大丈夫だからさ。とにかくこの魔物討伐が終わったら、一休みしたいな~ってくらいで」
にっこりと愛想の良い笑みを返したベンダーツさんです。
でも明らかにくたびれている感じが私にも分かりましたし、あまりの魔物との遭遇率に剣の保全作業をする暇もない程でした。
「…………了承した」
それ以上の言葉を綴れず、ヴォルは左手に闇の剣を握ってベンダーツさんに背を向けます。
右手の天の剣とで二降りの剣を持つ事で、ヴォルが魔物の注意を全て自分に向けさせる為の攻撃方法でした。
「ありがとうね」
少しだけ苦い顔をしたベンダーツさんが呟きます。
そのベンダーツさんの言葉が届いたのかは分かりませんが、ヴォルはただでさえ自分に攻撃が集中する中へ再び飛び込んでいったのでした。
勝ち誇ったようなベンダーツさんでしたが、ヴォルは眉を寄せて何だか苦しそうです。
それを見て、もしかしてあまり聞かれたくないのかもと思いました。私の興味本位な部分は仕方がないのですが、仮に自分へ置き換えてみると──ダメです、恥ずかしいです。
「まぁ、今のところはここまでにしておこうかな。俺もヴォルを苛めたい訳じゃないし?」
ベンダーツさんが明るく終わりを宣言してくれました。
そうですよね、聞かれたくない事もありますよね。
本当は物凄く色々と聞きたいのですけど、私もここは我慢でした。
「けどさ、メルも素直に聞けば良いんだよ。あ~、でもメルも感情を……と言うか、言いたい事を抑えてる節があるからなぁ。二人はお互い様ってやつ?魔物達が魔力に飢えるのと同じように、人間だって欲しい感情を得られなくて飢える事もあるんだけどねぇ」
「煩い、マーク。そろそろ出発するぞ」
言われ放題なのは気に入らないのか、ムスッとしたままヴォルが立ち上がります。
ベンダーツさんの剣は既にメンテナンスを終えていたので、実質今は休憩の時間でした。
ヴォルの表情があまり変わらなくても、私には──恐らくベンダーツさんにも伝わっているのでしょう。クスクス声を抑えて笑っているベンダーツさんは、私と目が合うと首を竦めて見せましたから。
とは言え、出発しても一度に長く移動出来る訳ではありませんでした。
魔物とのエンカウントが多く、攻撃を受ける頻度は前回の旅と比べようもありません。中型や小型の──数と俊敏さを備えた魔物に襲われて、すぐに足を止めざるを得なかったからでした。
「本当にもう、いい加減にして欲しいなっ」
剣を降り下ろし、ベンダーツさんが一体の魔物を討ちます。その横ではヴォルが天の剣を振るい、また別の魔物を討ちました。
当たり前ですけど、魔物討伐も楽ではないのです。私は見学のみですが、彼等が毎回無傷で済まない事もあるので薬草を準備していました。とはいっても調合は無理なので、私は薬草を純粋に擂り潰すくらいです。
「キリがない」
「あ~っと、魔法はダメだからねっ」
ヴォルが左手に拳を作ったのを、ベンダーツさんは見逃しませんでした。
義手であるその左手も、今では上手く魔法の操作が出来るようになっています。初めの頃のように、義手を焦がしたりする事がなくなっていました。
でもベンダーツさん止めた理由は勿論それではありません。
「結界以外の魔力を使うなって言ったよね?」
「……魔力よりお前の体力が尽きる」
僅かに眉を寄せるヴォルは、ベンダーツさんの呼吸が乱れてきている事に気付いていました。
元々事務職というか政務補佐が主な仕事だったベンダーツさんは、騎士や衛兵のような肉体派ではありません。この旅へ出てからは冒険者を装っていますが、線の細い文官タイプでした。
「俺はまだ大丈夫だからさ。とにかくこの魔物討伐が終わったら、一休みしたいな~ってくらいで」
にっこりと愛想の良い笑みを返したベンダーツさんです。
でも明らかにくたびれている感じが私にも分かりましたし、あまりの魔物との遭遇率に剣の保全作業をする暇もない程でした。
「…………了承した」
それ以上の言葉を綴れず、ヴォルは左手に闇の剣を握ってベンダーツさんに背を向けます。
右手の天の剣とで二降りの剣を持つ事で、ヴォルが魔物の注意を全て自分に向けさせる為の攻撃方法でした。
「ありがとうね」
少しだけ苦い顔をしたベンダーツさんが呟きます。
そのベンダーツさんの言葉が届いたのかは分かりませんが、ヴォルはただでさえ自分に攻撃が集中する中へ再び飛び込んでいったのでした。
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