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第八章
≪Ⅱ≫魔力の流れ【1】
しおりを挟む「世界の異変?何だよ、それ。しかも、らしいって何」
ベンダーツさんも不思議そうにヴォルに問い返します。
そう言いたくなる気持ちは私も十分に分かりました。そして何故かそれはマトトから始まりましたが、既に脈絡のない話になっているのです。
「精霊が言っていた。魔力の流れが乱れているそうだ」
「何だか俺には想像がつかないけど、実際問題どうなのよ。ヴォルが感じる事実としては?」
ベンダーツさんは私と同じく魔力を持っていないので、ヴォルの告げる『魔力の乱れ』が実感出来ないようでした。
「魔力消費が増している。回復は容易だが、大きな魔法を使い続けるのは多少疲れる」
「多少って……、ん?もしかしてヴォルの回復って……」
「メルに触れれば回復が早まる」
ベンダーツさんの問い掛けに事実のみを答えるヴォルです。
彼の言葉は簡潔で分かりやすいのですが、あまりにもそれを淡々と答えるので受け取る側の心積もりが必要なのでした。そして今回も例外ではなく、ベンダーツさんの表情が変わります。
「ヴォル。それ、メル本人に言ったでしょ」
「言った。それがどうした」
細めた視線でベンダーツさんから問われ、追求される意味が分からないといった様子のヴォルでした。
そしてその反応に、ベンダーツさんは大きく溜め息をつきます。
「あのさぁ……。良い?そこだけ聞いたら、勘違いしてもおかしくないでしょ。…………あ、分かってないな。だ~か~ら~、メル本人に、自分の回復アイテムだって、言ったのと同じなんだけど?」
呆れを滲ませつつも、ベンダーツさんはゆっくりと言い聞かせるように告げました。
「アイテム?……メルは物ではない」
「だからヴォルの言葉が足りないってのっ。…………魔力回復は精神状態に関わるんだろう?メルに触れる事で心が満たされるから、ヴォルの魔力回復が早まるんだ。それを言ったのか?そうでないとメルに伝わらないだろうがっ」
ベンダーツさんが口調を荒げましたが、ヴォルは表情なく聞いているだけです。
違いますね、もしかしてキョトンとしている感じかもしれませんでした。
「そう、なのかメル」
「あ……いえ……その……、はい」
幾度か瞬きをしていたヴォルから真顔で問い掛けられ、私もどう答えて良いのか戸惑ってしまいます。
それでもベンダーツさんがこうしてヴォルに伝える場を用意してくれたのですから、偽る訳にもいきませんでした。
「そうか……、すまない。断じて物的な意味ではない」
「あ……、その……私も勘違いして……すみません」
「何二人で謝ってるの、おかしいでしょ。………………ったく、それで納得したの?」
例のごとく二人で謝罪戦が始まったのですが、ベンダーツさんから指摘されてすぐに終わります。
そして苛々とした様子のベンダーツさんから更なる確認をされ、ヴォルも私も揃って頷いた事で大きな溜め息をつかれてしまいました。
「は~あ、やってらんないな。ったくもぅ……何だよ、このちちくりあい……。で、異変ってのは何さ。魔力消費が激しくなってるだけ?」
投げ遣りな言葉ですが、ベンダーツさんも気にはなっているのでしょう。
魔力を持っていないので、結局はヴォルに聞くしかないのが悔やまれるところでした。
「詳細は不明だ。精霊の感覚と人間のそれとでは違いがある。更に言えば、俺は潜在魔力値が高いから他の人間とも違う。故に現状では感じられる違和感と魔物の活性化くらいだ」
そうしてヴォルは、『今は警戒を怠るべきではない』と言葉を締めます。
「何だよ、結局何も分からないって事じゃん。……ま、良いや。そうそう、サガルットの方は早めに片付きそうだよ。ブルーべ家が町長になる事は洗脳とかではなく、町民も納得済みみたいだし。精霊がいなくなったのなら尚更、俺達がいなくても後は何とかするんじゃないかな」
半ば呆れつつも続けられたベンダーツさんの言葉を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろしました。
色々ありましたが、結局ユーニキュアさんが幸せになれたらそれで良いのです。
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