「結婚しよう」

まひる

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第七章

10.契約を破棄している【2】

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「待ってくださいっ」

 突然、制止の声が上がりました。
 私は反射的に辺りを見回し、その声の主を捜します。見つけました──が、何と静止結界の中からでした。
 ヴォルが魔物と混合で動けなくさせていた結界です。正直存在を忘れかけていました。

「彼女を許して頂く事は出来ないでしょうか」

 それは若い男の人で、ユーニキュアさんの商団にもいた人です。
 御自分の状況が分かっていない筈はないと思いますが、彼はユーニキュアさんの減刑を何よりも先に求めていました。

「それは聞けない相談だねぇ。だいたい、おたく等も騙されていたんだぜ?何を今更かばい立てするんだか、マジで意味不明なんだけど」

 ベンダーツさんが少し怒ったように告げます。
 男性は先程までと変わらずに足を氷付けされたままでしたが、こちらに向かって声を張り上げていました。──って言うかこちらの声もあちらの声も、何気に良く届きますよね。何とか顔が判別出来る程度の距離ですよ?

「何で……アイツが口を挟んでくるのよ」

 次に呟かれた言葉はユーニキュアさんのものです。
 それにしても今更ですが、結界の内と外にいる私達でした。本来ならば呟き声まで聞こえる訳がないのです。

「ヴォル?何か声を通す魔法とか使っています?」

「俺ではない。だが、音の精霊が俺の魔力を使っている」

 不思議に思ってヴォルに問い掛ければ、頷きと共に返答が返ってきました。
 でもそれって、間接的にヴォルがしているものと同じです。だって止めなかったのですから。

「皆さんに聞かせたかったのですかね」

「聞こえないよりは問題ないだろ」

 精霊さんの意図が分からず首をかしげる私に、ヴォルは事も無げに答えました。
 あちらの声が聞こえる──というかユーニキュアさん擁護の声があったという事は、こちらのやり取りまでも伝わっていたと推測出来ます。
 そして振り向いた私の視界に、ベンダーツさんの苦い表情が映りました。どうやら問題があったようです。

「精霊に契約を破棄され、町にももういられない……」

 急にユーニキュアさんが力なく座り込みました。

「私にはもう……、何も残っていないのね」

 俯いたまま呟かれた言葉は痛く、苦しいものでした。

「な、何故魔物を呼んだのですか?」

 この際なので、私は唯一に落ちなかった事を問います。
 それ程後悔するのなら、何故先の事を考えなかったのかと不思議でなりませんでした。

「……あの人が……、ゼブル伯爵が言ったのよ。魔物を集めて町を壊せば、私はここから逃げ出せるって。もう嫌だったのよっ。いつもいつも周りから見られて、自分のやりたい事も出来ないで……しかも好きでもない人と結婚させられるなんて、嫌だったのよっ!」

 問い掛けに対するユーニキュアさんの返答は私の予想外です。
 何でしょうか──確定ではありませんが
やっぱりユーニキュアさん、好きな人がいるようでした。

「だからって、君のしようとした事は間違っている。こうなったらキチンと反省して、今度こそやり直すんだ」

 向こうの結界から、先程の男性が声を掛けてきます。

「も、もう遅いのよっ。それに貴方になんか関係ないでしょ?!」

「関係あるさっ。幼馴染みだろ?キュアのした事を俺も一緒に謝るから、諦めんなよっ」

「キュアなんて、馴れ馴れしく呼ばないでよっ。私は貴族の娘、貴方は……ドガは使用人の息子じゃない!」

 後ろを振り返って叫んだユーニキュアさんでした。
 えっと──、幼馴染みのようです。
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