「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
349 / 515
第七章

≪Ⅹ≫契約を破棄している【1】

しおりを挟む

「それ、体面上だから。当たり前でしょ?国の次期権力者とも言われる者に対して、悪い噂を流す事を許せる訳ないよね」

 楽しそうにベンダーツさんが笑いました。
 それはそれは悪そうな笑みです。ヴォルの実情を知っている私としては、ベンダーツさんの言わんとする事が分かりました。

「な……にを……言っているのかしら」

 ユーニキュアさんは酷く動揺しているようでした。
 でもこの楽しそうなベンダーツさんに勝てる人は中々いません。ちなみに私は無理でした。絶対に負ける自信があります。

「無駄に脅すな、マーク。面倒だ。不要ならば魔力器官を破壊した後に飛ばせ」

「わ、私には精霊が……っ」

「俺と敵対した時点で、既に精霊はお前との契約を破棄している」

 相変わらず淡々と大切な事を告げるヴォルでした。
 ──と言うか、精霊さんが勝手に契約破棄とか出来るのですか。その前に、『面倒』とか『不要』とか不穏な言葉が並んでいました。

「そんな……っ」

 ヴォルの言葉を受け、ユーニキュアさんが自分の両掌を見つめて愕然がくぜんとしています。
 私には勿論見えないのですが、彼女には魔力の放出的なものが見える筈だったのでしょうか。

「そんな……、何でよっ?!」

「精霊は基本、人間を下等生物と見ている。魔力を持っていてもみずからでは魔法すら使えない、程度の低い生命体。精霊は精霊神を中心として独自の文化と知識を持っている。長命ゆえたわむれに人の周囲に現れるだけだ。そしてその魔力を吸収し、次の命の糧とする。精霊の力で魔力を得ているのであれば尚更だ」

 何だか不思議な精霊さん情報でした。
 ──ん?次の命の糧?

「あの、ヴォル?お話の途中、すみません。聞いても良いですか?」

「問題ない。メルが最優先だ」

 疑問に思い、話を中断させてしまう事に謝罪する私です。でもヴォルの直球な御言葉に赤面してしまいました。
 恥ずかしい言葉を惜し気もなく披露です。心の準備が出来ていないと心臓に悪いですが、今は質問を忘れてしまう前に聞かなくではなりませんでした。

「あの……精霊さんは、人の魔力から子供を……新しい命を作るのですか?」

「そうだ。人間だけとは限らないが、精霊族以外の生命体から魔力を吸収する事で新たな精霊を成す。繁殖とは違うが、これには魔力が多く溜まっている場所があればそれすら必要ない。要は必要なのは魔力なのだから」

 ヴォルに言われて思い出します。
 そうでした──以前ヴォルの研究室で、存在が消えてしまったと言われていた生命の精霊さんが誕生したのでした。あの時は研究中の魔法液が精霊さんの存在に変わったのです。
 その精霊さんは今でもヴォルのそばにいる筈なのですが、残念ながら私は見える目を持たないのでした。

「私は……っ。精霊にその様な事を聞いていません!」

 ユーニキュアさんが再び開き直ったかのように怒鳴ります。
 でも、先程の様な強い意思は感じられませんでした。心のり所である精霊さんに見放されてしまったかもしれないからでしょうか。

「分かってるんだろ?もうどうにもならないところまで来てるんだよ。諦めて捕縛されるんだな」

 ベンダーツさんは、両掌を上に上げた状態で告げます。──お手上げ、と言う事でしょうか。
 ヴォルはそれ以上何も言いませんでした。ユーニキュアさんから魔力を感じなくなったのか、既に興味を失ったようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...