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第七章
9.偽(イツワ)りを告げるのか【2】
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「……それでも、私に魔法石は反応しません」
再びユーニキュアさんが告げました。今度は先程よりも力強くです。
真っ直ぐベンダーツさんへ視線を向け、その瞳にも強い意思が見えました。
「もしかして、それ自体が魔法?」
ベンダーツさんが目を細めたまま、ユーニキュアさんに手に持った魔法石を近付けます。
通常は魔力所持者に反応し、本来ならばここで石の色が変化して光を放つとの事でした。
でも──、青い石は変化の兆しを見せません。
ベンダーツさんがヴォルの方に視線を向け、無言で問い掛けました。
「……精霊は魔法を与えてはいない」
静かに事実を告げるヴォルです。
ベンダーツさんには見えない精霊さん情報ですが、ヴォルにその関連事項での偽りは通用しませんでした。
そう言えばヴォルのお城の研究室では私も精霊さんが見えるのに、ここはヴォルの結界という同じ条件下の筈ですが何故見えないのでしょう。それ以外にも条件があるのでしょうか。
「それなら、どうして魔法石が反応しないのかねぇ」
ベンダーツさんは訝しげな表情を隠しもせずに浮かべていました。
結界の中にいる私達三人と、結界の外にいるユーニキュアさん。違いはそれくらいで、魔法石の反応を奪う程の障害は見当たりませんでした。
「だから先程から言っているではありませんか。私には魔法石は反応しないのだと」
直立不動のまま、ユーニキュアさんがこちらを見据えます。その姿は自信に溢れていました。
「そんな事ってあるのかなぁ。魔法石は魔力に必ず反応して光るものの筈なんだけど……。ねぇヴォル、本当にこのブルーべ家ご令嬢に魔力があるんだよね?いや待って怒らないで、疑っている訳じゃなくて彼女がここにいる時点でそうなんだろうけどさ。でもこんな事、今までに魔法石が反応しなかった例なんかあるのか?」
どうやらベンダーツさんが混乱しているようです。自問自答を繰返し、何度も首を捻っていました。
今までにない事例だからでしょうか。
「魔力はある。契約の精霊もついている」
「あの……魔力を持っていて精霊さんと契約していると、必ずその精霊さんが傍にいるのですか?」
不意に浮かんだ私の問い掛けに、何故かヴォルが驚いたような瞳を向けました。
私、何かおかしな事を言ったのでしょうか。
「いや……、いない」
ポツリと呟くヴォルです。
考えるように顎に手を当てる彼は、僅かに眉根を寄せていました。
「魔力所持者と契約している精霊は、詠唱によって都度繋がると考えてくれ。通常精霊は、魔法使用時に使用者の魔力を対価としてその者に魔法を使わせ、得た魔力を己の糧とする。潜在的に魔力値の低い人間は、常に魔力を削られると生命維持自体が難しいからだ」
考えを纏めたようで、ヴォルが分かりやすい説明をしてくれます。
お城で魔法関連の研究者として活動していたらしい彼は、精霊さん付きの自分と周りの魔力所持者の違いを知っていました。
ヴォルの場合は常に周囲に精霊さんがいて、溢れ出す魔力を精霊さんがもらっているのです。だからこそ、ヴォルの使う魔法は他の魔力所持者と比べ物にならない程強力な効果を持っていました。
「何、マジで精霊つきって事?」
ベンダーツさんが驚きの声をあげます。
そう言えば、ヴォルの他に精霊さんがついている人はいないって言われていました。先程のヴォルの説明では、普通精霊さんは魔力所持者の傍にいない事になります。
「……傍にいる精霊さんが、ユーニキュアさんの魔力を外に漏れないようにしているのですか?」
これは私の思い付きでした。
でも魔力が外に溢れないから、魔法石に反応しないのではないかとの推測をしたのです。
「なるほど、それは興味深いね」
何故だか楽しそうなベンダーツさんです。そしてユーニキュアさんは固い表情をしていました。
精霊付きと呼ばれる魔力所持者の詳しい事情は分かりませんが、ヴォルのように際限ない魔力を持っているのでなければ可能なのかもしれません。
再びユーニキュアさんが告げました。今度は先程よりも力強くです。
真っ直ぐベンダーツさんへ視線を向け、その瞳にも強い意思が見えました。
「もしかして、それ自体が魔法?」
ベンダーツさんが目を細めたまま、ユーニキュアさんに手に持った魔法石を近付けます。
通常は魔力所持者に反応し、本来ならばここで石の色が変化して光を放つとの事でした。
でも──、青い石は変化の兆しを見せません。
ベンダーツさんがヴォルの方に視線を向け、無言で問い掛けました。
「……精霊は魔法を与えてはいない」
静かに事実を告げるヴォルです。
ベンダーツさんには見えない精霊さん情報ですが、ヴォルにその関連事項での偽りは通用しませんでした。
そう言えばヴォルのお城の研究室では私も精霊さんが見えるのに、ここはヴォルの結界という同じ条件下の筈ですが何故見えないのでしょう。それ以外にも条件があるのでしょうか。
「それなら、どうして魔法石が反応しないのかねぇ」
ベンダーツさんは訝しげな表情を隠しもせずに浮かべていました。
結界の中にいる私達三人と、結界の外にいるユーニキュアさん。違いはそれくらいで、魔法石の反応を奪う程の障害は見当たりませんでした。
「だから先程から言っているではありませんか。私には魔法石は反応しないのだと」
直立不動のまま、ユーニキュアさんがこちらを見据えます。その姿は自信に溢れていました。
「そんな事ってあるのかなぁ。魔法石は魔力に必ず反応して光るものの筈なんだけど……。ねぇヴォル、本当にこのブルーべ家ご令嬢に魔力があるんだよね?いや待って怒らないで、疑っている訳じゃなくて彼女がここにいる時点でそうなんだろうけどさ。でもこんな事、今までに魔法石が反応しなかった例なんかあるのか?」
どうやらベンダーツさんが混乱しているようです。自問自答を繰返し、何度も首を捻っていました。
今までにない事例だからでしょうか。
「魔力はある。契約の精霊もついている」
「あの……魔力を持っていて精霊さんと契約していると、必ずその精霊さんが傍にいるのですか?」
不意に浮かんだ私の問い掛けに、何故かヴォルが驚いたような瞳を向けました。
私、何かおかしな事を言ったのでしょうか。
「いや……、いない」
ポツリと呟くヴォルです。
考えるように顎に手を当てる彼は、僅かに眉根を寄せていました。
「魔力所持者と契約している精霊は、詠唱によって都度繋がると考えてくれ。通常精霊は、魔法使用時に使用者の魔力を対価としてその者に魔法を使わせ、得た魔力を己の糧とする。潜在的に魔力値の低い人間は、常に魔力を削られると生命維持自体が難しいからだ」
考えを纏めたようで、ヴォルが分かりやすい説明をしてくれます。
お城で魔法関連の研究者として活動していたらしい彼は、精霊さん付きの自分と周りの魔力所持者の違いを知っていました。
ヴォルの場合は常に周囲に精霊さんがいて、溢れ出す魔力を精霊さんがもらっているのです。だからこそ、ヴォルの使う魔法は他の魔力所持者と比べ物にならない程強力な効果を持っていました。
「何、マジで精霊つきって事?」
ベンダーツさんが驚きの声をあげます。
そう言えば、ヴォルの他に精霊さんがついている人はいないって言われていました。先程のヴォルの説明では、普通精霊さんは魔力所持者の傍にいない事になります。
「……傍にいる精霊さんが、ユーニキュアさんの魔力を外に漏れないようにしているのですか?」
これは私の思い付きでした。
でも魔力が外に溢れないから、魔法石に反応しないのではないかとの推測をしたのです。
「なるほど、それは興味深いね」
何故だか楽しそうなベンダーツさんです。そしてユーニキュアさんは固い表情をしていました。
精霊付きと呼ばれる魔力所持者の詳しい事情は分かりませんが、ヴォルのように際限ない魔力を持っているのでなければ可能なのかもしれません。
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