「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
344 / 515
第七章

≪Ⅸ≫偽(イツワ)りを告げるのか【1】

しおりを挟む

「あ、貴殿方あなたがたの考えは分かりました。ですが、それだけでは私が魔力所持者である証拠になりませんわ」

 わずかに震えた声でユーニキュアさんが訴えます。

「だから証拠になるでしょ、魔法石に触れれば分かる事だから。別に君の謝罪を聞きたい訳じゃないし、こっちとしては自警団に突き出すだけだからね。はっきり言って面倒だから、早く白黒つけたいし」

「わ、私はこのサガルットの町長代理です。それに私に魔法石は反応しません」

「魔物を操るげんの魔法使いがいつわりを告げるのか」

 ヴォルが突然顔を上げてユーニキュアさんを見ます。それに対し、ビクリと彼女の肩が跳ねました。
 ──その気持ちは分かりますよ。
 この綺麗な顔に真っ直ぐ視線を向けられると、どうしたら良いのか分からなくなってしまいます。更に表情の変化が薄いので、怒っていなくても怒っていると思えるのでした。

「私は……」

「ゼブルきょうとは違うが、音を操る者だろ。お前の精霊が訴え掛けている。音に魔力を乗せて響かせる事が出来ると」

 口ごもるユーニキュアさんです。それでも更に追い詰めるようにヴォルは言葉を続けました。
 ヴォルの精霊さんは他の魔力所持者に姿を見せないと聞いた気がします。しかも彼は当たり前のように他者の精霊さんが見えて会話が出来るでした。

「何、見えるだけじゃなくて声も聞けるの?本当に便利だねぇ、ヴォルの魔力は」

「いちいち茶化すな。精霊が言うには言の葉の音韻に魔力を乗せるらしい。ゆえに魔物へも届くらしいぞ」

 楽しそうに口を挟むベンダーツさんに眉を寄せつつも、ヴォルは精霊さんの言葉を通訳してくれます。
 言葉自体ではなく、発する音に魔力を含めて周囲に影響を与えられるとは凄い事でした。結果的に言葉の通じない筈の魔物を操れるなんて、使い方を間違えなければとても画期的な防衛が可能です。

「でも……他の人の精霊さんとお話が出来るなら、ヴォルには鑑定用の魔法石がいらなくないですか?」

 私は思わず口に出してしまいました。

「……マジでそうじゃん。えっ、何?俺の努力は無駄な訳?」

「常には見えない。魔力所持者と契約していても、力の弱い精霊でないと普通は黙視不可だ。身を隠す事の出来る強い精霊力を持っているなら簡単には見えない。まぁ、今の場合は偽りを繰り返したからの精霊の反抗かもしれないがな」

 愕然とするベンダーツさんに淡々とヴォルが答えます。
 そうでした。常に見えているのなら、目の前の人工率が高すぎです。それに精霊さんは言葉を大切にすると前に聞いていました。
 嘘ばかり言っていると信頼されなくなって、魔法を使わせてもらえなくなるそうです。そして精霊さんはヴォルいわく、自己アピールが強いとの事でした。

「……何故私の邪魔をするの?」

 低い声音で呟くユーニキュアさんです。
 今度は開き直りですか──と思ったら、あらぬ方を見ていました。どうやら精霊さんに直訴のようです。

「己の見解を精霊に当てめる事は出来ない。あくまでも誠実な言葉を使わなかったお前に非がある」

 そのヴォルの言葉に、ユーニキュアさんが完全に口をつぐみました。
 精霊さんとの約束も言葉なので、言語が違うにしても真偽が伝わるようです。

 でも音に魔力を乗せるって、ゼブルさんとどう違うのか分かりませんでした。彼の言葉は、聞いているとそれが本当のような気がしてきてしまうものでしたが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...