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第七章
≪Ⅸ≫偽(イツワ)りを告げるのか【1】
しおりを挟む「あ、貴殿方の考えは分かりました。ですが、それだけでは私が魔力所持者である証拠になりませんわ」
僅かに震えた声でユーニキュアさんが訴えます。
「だから証拠になるでしょ、魔法石に触れれば分かる事だから。別に君の謝罪を聞きたい訳じゃないし、こっちとしては自警団に突き出すだけだからね。はっきり言って面倒だから、早く白黒つけたいし」
「わ、私はこのサガルットの町長代理です。それに私に魔法石は反応しません」
「魔物を操る言の魔法使いが偽りを告げるのか」
ヴォルが突然顔を上げてユーニキュアさんを見ます。それに対し、ビクリと彼女の肩が跳ねました。
──その気持ちは分かりますよ。
この綺麗な顔に真っ直ぐ視線を向けられると、どうしたら良いのか分からなくなってしまいます。更に表情の変化が薄いので、怒っていなくても怒っていると思えるのでした。
「私は……」
「ゼブル卿とは違うが、音を操る者だろ。お前の精霊が訴え掛けている。音に魔力を乗せて響かせる事が出来ると」
口ごもるユーニキュアさんです。それでも更に追い詰めるようにヴォルは言葉を続けました。
ヴォルの精霊さんは他の魔力所持者に姿を見せないと聞いた気がします。しかも彼は当たり前のように他者の精霊さんが見えて会話が出来るでした。
「何、見えるだけじゃなくて声も聞けるの?本当に便利だねぇ、ヴォルの魔力は」
「いちいち茶化すな。精霊が言うには言の葉の音韻に魔力を乗せるらしい。故に魔物へも届くらしいぞ」
楽しそうに口を挟むベンダーツさんに眉を寄せつつも、ヴォルは精霊さんの言葉を通訳してくれます。
言葉自体ではなく、発する音に魔力を含めて周囲に影響を与えられるとは凄い事でした。結果的に言葉の通じない筈の魔物を操れるなんて、使い方を間違えなければとても画期的な防衛が可能です。
「でも……他の人の精霊さんとお話が出来るなら、ヴォルには鑑定用の魔法石がいらなくないですか?」
私は思わず口に出してしまいました。
「……マジでそうじゃん。えっ、何?俺の努力は無駄な訳?」
「常には見えない。魔力所持者と契約していても、力の弱い精霊でないと普通は黙視不可だ。身を隠す事の出来る強い精霊力を持っているなら簡単には見えない。まぁ、今の場合は偽りを繰り返したからの精霊の反抗かもしれないがな」
愕然とするベンダーツさんに淡々とヴォルが答えます。
そうでした。常に見えているのなら、目の前の人工率が高すぎです。それに精霊さんは言葉を大切にすると前に聞いていました。
嘘ばかり言っていると信頼されなくなって、魔法を使わせてもらえなくなるそうです。そして精霊さんはヴォルいわく、自己アピールが強いとの事でした。
「……何故私の邪魔をするの?」
低い声音で呟くユーニキュアさんです。
今度は開き直りですか──と思ったら、あらぬ方を見ていました。どうやら精霊さんに直訴のようです。
「己の見解を精霊に当て嵌める事は出来ない。あくまでも誠実な言葉を使わなかったお前に非がある」
そのヴォルの言葉に、ユーニキュアさんが完全に口をつぐみました。
精霊さんとの約束も言葉なので、言語が違うにしても真偽が伝わるようです。
でも音に魔力を乗せるって、ゼブルさんとどう違うのか分かりませんでした。彼の言葉は、聞いているとそれが本当のような気がしてきてしまうものでしたが。
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