「結婚しよう」

まひる

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第七章

8.お前の教育方針には従わない【3】

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「メル……様も、色々とありがとうございました」

 ユーニキュアさんから次に掛けられた言葉に、私はフリーズします。
 思わずキョトンと間が抜けた顔をしてしまいました。私の事ですよね──でも、『様』だなんて敬称は不要なのです。

「お名前は伏せられているとの事なので、こちらの呼び方にさせていただきたいと存じます。ですがまさか貴女様のようなお方が……その、ヴォル様の奥様とは……正直驚きました」

 固い表情での苦笑いを浮かべるユーニキュアさんでした。
 何だか状況が良く分かりません。でもヴォルと比較されて容姿や能力をざまに言われる事はお城では良くありました。それこそ何度も言われましたが、これって互いの価値観の問題なので仕方のない事なのです。
 それでも私は自然と俯いてしまっていました。

「あ、ごめんなさい。嫌な意味ではないのです。メル様とお話しして分かりました。外見だけ着飾っていても、本当に美しいとは言えないのですわね。私もメル様のような内面の美しさを身に付けられるよう精進いたします」

 続けられたユーニキュアさんの言葉に私は目を見開きます。
 思わず顔を上げて、それでも真意が分からなくて小さく首をかしげてしまいました。

「メルが良いのは当たり前だ」

「っ?!」

 突然のヴォルの声が鼓膜を揺らします。耳元でささやかないでくださいと言いたかったのですが、今の私は混乱中で脳内真っ白の状態でした。
 それに恐らく真っ赤になっているでしょうから、怒ったところで効果はないです。ヴォルのその低い甘い声は聞くだけで背筋がゾクゾクしてしまうのですから、無防備の状態で受けるには本当に要注意なのでした。

「クククッ、面白いねぇ。メルはいつまで経ってもその反応かい?あぁ……耳なんか押さえたって意味がないよ、ヴォルとぴったりくっついているんだから身体を通して伝わってくるし。良かったなヴォル、メルがお前の声だけで感じるってさ。それにしても良いよなぁ、マジで俺も相手が欲しい。本当、ヴォルがついでに俺の相手も見つけて来てくれれば良かったのにぃ」

「知らん。お前は一人で何とかしろ」

 ベンダーツさんのからかいを含んだ言葉に、ヴォルはフイッと顔をそむけます。

 確かにヴォルは一人旅をして、大陸すら違う場所に住んでいた私と出会いました。でもベンダーツさんのお相手も捜すとなると、貴族の方でなくとも良いのでょうか。

「あの失礼ですが、メル様は貴族ではないと伺いましたが……」

「あ、はい。私はマグドリア大陸出身で……」

「出自などはどうでも良い。メルはメルだ」

 ユーニキュアさんの問いに答えかけた私ですが、ヴォルに途中で止められてしまいました。
 もしかしてこれ、重要機密事項的な何かでしたか。

「いかな貴族であろうと……、例えサガルットのブルーべ家令嬢とて同じ事。素性を隠していると聞いただろ。詮索は無用だ」

「はいはい、ヴォルはそう怒らないの。でもブルーべ令嬢?好奇心が強いのは悪い事ではないけど、相手を見ないと身を滅ぼすよ?俺達はここを潰したい訳じゃないからね。出来れば静かに旅をさせてほしいんだよなぁ」

 愛想が良いはずのベンダーツさんですが、何故だか威圧感を感じます。
 元々ユーニキュアさん達の商団をサガルットまで護衛する事は請け負いましたが、それ以上の拘束は予定外の事でした。ただでさえ足止めを受けていて、更なる身バレ──追加質問は禁止の合図です。

「わ、分かりました。申し訳ございませんでした。あの……最後に、旅のご準備をさせていただきたいのですけれども」

 笑顔でありながら目が笑っていないというベンダーツさんの態度を受けても、ユーニキュアさんは言葉を続けました。
 これはどうしても話をしたいようです。時間を掛けて、いったいどうするつもりなのかと不思議でした。
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