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第七章
8.お前の教育方針には従わない【2】
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「お前の教育方針には従わない」
ヴォルが再び私を強く抱き締めます。
何でしょうか。
小さい子が自分の玩具を取られないように胸に抱えて隠す──みたいな印象を受けました。
「ったく……、今度は独占欲?メルの選択はメル自身にさせるべきだよ」
「…………煩い」
何だか二人のやり取りを聞いていると可笑しくなってきます。
本当に仲が良くて、ヴォルとベンダーツさんは実の兄弟でも不思議ではありませんでした。いえ、本当の兄弟なら逆に不仲だったりするかもです。私は兄弟姉妹がいないので分かりませんが、とてもお二人が主従には見えませんでした。
「何を笑っている」
クスクスと一人で笑っていると、後ろからヴォルに顔を覗き込まれます。
それでも私は楽しくて、笑いが止まりませんでした。
「うふふ……、だって……」
笑い続ける私に、ヴォルもベンダーツさんも呆気にとられています。
その為なのか、二人の空気が和らぎました。
「何だかメルにしてやられた感があるなぁ。でも……」
「「悪くない」」
揃って同じ事を言われます。──声を揃えてだなんて、余程気が合うのでしょうね。
そうして和んだところで、こちらに近付いてくる人に気が付きました。
「あ、ユーニキュアさんです」
私が声をあげますが、ヴォルとベンダーツさんはその前から気付いていたのか特に驚きもしません。
そう言えば、いつの間にか結界の透明度が戻っていました。そして町の前に固まっている人達と小型の魔物が見えます。
ベンダーツさんが来た時はまだ外の様子は見えなかったような気がしますが、ヴォルがユーニキュアさんの接近で結界を操作したのだろうと推測しました。
「あの……色々とご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
結界の外で深く頭を下げたユーニキュアさんからは、彼女を包む緊張がはっきりと読み取れます。
どうやら完全にゼブルさんの魔法は解除され、普通に戻っているようでした。
「ユーニキュアさん、大丈夫でしたか?」
「は、はい。あの……今までの無礼の数々をお許し下さい」
私の問い掛けにも、彼女は頭を下げたままです。
『無礼』とは何の事を指しているのか分かりませんでした。そして態度があまりにも違い過ぎます。
私は疑問を言葉に出来ず、ヴォルを見上げました。と言うか、未だに私はヴォルの足の間に座っています。この状態でユーニキュアさんと話すのは、非常に恥ずかしいのだと今更気付きました。
「俺達の事を聞いたの?」
ベンダーツさんの声が少しだけ鋭くなります。
「はい……。貴方様にも大変失礼な事をしてしまいました」
不安や恐れが見えました。
疑問には思いますが、それに至らない程この二人と共にいる時間は短くはありません。彼等の血筋や地位を考えれば、普通はこのような対応になってしまうものです。
「別に……良くはないけど、君には怒ってないよ。俺達も素性を隠して旅をしているからさ。分かってくれるよね、あまり公表されたくないんだ。……それより親父さんはどうしたのさ。あと、町長とか」
「は、はい。町長は解職となり、私が当面の間という条件で仮の役をさせていただく事になりました。父は……、心労で倒れましたが休んでいれば問題がないそうです」
ベンダーツさんの問いに答えるユーニキュアさんは、固い表情のまま応答していました。
何やら大変な事になっているようです。お父様が倒れられたって、大丈夫なのでしょうか。
それに町長さんが解職とか、ユーニキュアさんが仮とはいえ町長職に就いたとか──ゼブルさんの引き起こした後始末があるとはいえ、物凄い事だと思いました。
私達の素性が知られているのには驚きましたが、ヴォルもベンダーツさんも見目が良いので何もしていなくても普通に目立ちます。更に今回は人心を魔法で操る貴族を捕らえている事もあり、普通の冒険者という立場では不可能でした。
ヴォルが再び私を強く抱き締めます。
何でしょうか。
小さい子が自分の玩具を取られないように胸に抱えて隠す──みたいな印象を受けました。
「ったく……、今度は独占欲?メルの選択はメル自身にさせるべきだよ」
「…………煩い」
何だか二人のやり取りを聞いていると可笑しくなってきます。
本当に仲が良くて、ヴォルとベンダーツさんは実の兄弟でも不思議ではありませんでした。いえ、本当の兄弟なら逆に不仲だったりするかもです。私は兄弟姉妹がいないので分かりませんが、とてもお二人が主従には見えませんでした。
「何を笑っている」
クスクスと一人で笑っていると、後ろからヴォルに顔を覗き込まれます。
それでも私は楽しくて、笑いが止まりませんでした。
「うふふ……、だって……」
笑い続ける私に、ヴォルもベンダーツさんも呆気にとられています。
その為なのか、二人の空気が和らぎました。
「何だかメルにしてやられた感があるなぁ。でも……」
「「悪くない」」
揃って同じ事を言われます。──声を揃えてだなんて、余程気が合うのでしょうね。
そうして和んだところで、こちらに近付いてくる人に気が付きました。
「あ、ユーニキュアさんです」
私が声をあげますが、ヴォルとベンダーツさんはその前から気付いていたのか特に驚きもしません。
そう言えば、いつの間にか結界の透明度が戻っていました。そして町の前に固まっている人達と小型の魔物が見えます。
ベンダーツさんが来た時はまだ外の様子は見えなかったような気がしますが、ヴォルがユーニキュアさんの接近で結界を操作したのだろうと推測しました。
「あの……色々とご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
結界の外で深く頭を下げたユーニキュアさんからは、彼女を包む緊張がはっきりと読み取れます。
どうやら完全にゼブルさんの魔法は解除され、普通に戻っているようでした。
「ユーニキュアさん、大丈夫でしたか?」
「は、はい。あの……今までの無礼の数々をお許し下さい」
私の問い掛けにも、彼女は頭を下げたままです。
『無礼』とは何の事を指しているのか分かりませんでした。そして態度があまりにも違い過ぎます。
私は疑問を言葉に出来ず、ヴォルを見上げました。と言うか、未だに私はヴォルの足の間に座っています。この状態でユーニキュアさんと話すのは、非常に恥ずかしいのだと今更気付きました。
「俺達の事を聞いたの?」
ベンダーツさんの声が少しだけ鋭くなります。
「はい……。貴方様にも大変失礼な事をしてしまいました」
不安や恐れが見えました。
疑問には思いますが、それに至らない程この二人と共にいる時間は短くはありません。彼等の血筋や地位を考えれば、普通はこのような対応になってしまうものです。
「別に……良くはないけど、君には怒ってないよ。俺達も素性を隠して旅をしているからさ。分かってくれるよね、あまり公表されたくないんだ。……それより親父さんはどうしたのさ。あと、町長とか」
「は、はい。町長は解職となり、私が当面の間という条件で仮の役をさせていただく事になりました。父は……、心労で倒れましたが休んでいれば問題がないそうです」
ベンダーツさんの問いに答えるユーニキュアさんは、固い表情のまま応答していました。
何やら大変な事になっているようです。お父様が倒れられたって、大丈夫なのでしょうか。
それに町長さんが解職とか、ユーニキュアさんが仮とはいえ町長職に就いたとか──ゼブルさんの引き起こした後始末があるとはいえ、物凄い事だと思いました。
私達の素性が知られているのには驚きましたが、ヴォルもベンダーツさんも見目が良いので何もしていなくても普通に目立ちます。更に今回は人心を魔法で操る貴族を捕らえている事もあり、普通の冒険者という立場では不可能でした。
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