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第七章
7.コレとは何の事だ【3】
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教会の外に出てからも無言で歩き続けるヴォルでした。
しかしながら現状の私は会話自体が不可能なので、話し掛けられても──何故か先程は私の思いが通じた感がありましたけど──困るのです。ただ救出された安堵感はあるので、私は良く分からないながらもフワフワとついていきました。
それにしても町が静かです。やはりというか、戦闘は終了したようでした。あの時響き渡っていた、騒々しい程の魔物の咆哮などが今は聞こえません。
そう思っていたのですが、町の出口が見えてきて思い違いである事に気付きました。
だって、人も魔物もそのままいるのです。しかも動いて──ますよね?
さすがに残っている魔物は小型のものばかりでしたが、足下が固定されているだけでとても元気そうでした。町の人達に怪我がなさそうなのはホッとしたのですが、こちらも小型の魔物同様に足下を固定されています。
けれどもヴォルはそれらを気にする様子もなく、真っ直ぐ町の外に設置した結界へ歩いていきました。勿論小心者の私はオドオドしながらついていきます。
しかしながら町の人も魔物も動いてはいるものの、妙に大人しくはないかと思いました。疑問には思いましたが、ヴォルの魔法でどうにかなっているのだという事にします。
「……入れ」
──え?
掛けられたヴォルの声に振り向くと、やはり宙に浮かぶ私を見ています。
今の自分は霊的な感じで何だか透けているのですが、それでもヴォルは疑う事なく私を私だと分かってくれているようでした。
──あ、ありがとうございます。
私はペコリと頭を下げて結界を通ります。
片腕で私の身体を抱えているヴォルは、私が通るまで結界の壁に触れていました。これは恐らく、現状の私を招き入れる為に必要な行為なのでしょう。
「メル」
完全に私達が結界の中に入ると同時に、何故か周囲の景色が霞がかって見えなくなりました。
──はい?
首を傾げながらヴォルの方を振り向くと、突然強く抱き締められます。
「っ?!」
苦しさに息を呑んだ私ですが、とても熱い身体に抱き締められている事に気付きました。──熱い?
突然のように感じられた感覚を疑問に思い、私はパチパチと瞬きを繰り返します。
「あれ……?身体が……」
「…………俺を殺す気か」
無事に自分の身体へ戻れた事に戸惑っていた私ですが、ヴォルの低い声にビクッと身体が震えました。
殺すって──誰が誰をですか?!
少しだけ身体を離し、恐る恐る彼の瞳を覗き込みます。でも、何故か不安に瞳を揺らしているのはヴォルの方でした。
「頼むから……、危ない事はしないでくれ」
不安定に揺れる声音で告げられます。
危ない事──というのが思い浮かびませんでした。私はすぐに返答が出来ず、混乱しています。
「返事は」
「は、はいっ」
追求するように訴えられ、条件反射で答える私でした。
言われればしますよ、勿論。『返事は』って聞かれて、咄嗟に『はい』以外の違う言葉が出る人を見てみたいものです。
「何故結界から出た」
「あ……、ゼブルさんを捜そうと思って……ですね?」
改めてされた質問に対し口を開いたのですが、ヴォルの瞳が鋭い光を帯びました。
あぁ──この答えは失敗のようです。
「ご、ごめんなさい……」
「………………すまない、メルに謝罪させたい訳ではない。ただ……、俺は己の弱さが憎らしい」
ヴォルの怒りを感じて慌てて頭を下げましたが、反対に苦し気に息を吐き出して私の首筋に顔を埋めるヴォルがそう告げました。
どうしましょう。彼を苦しめているのは私のようです。
「私は……」
「俺はお前がいないとダメだと言っただろ。俺の傍にいろ……、いてくれ」
何か言わねばと口を開きましたが、更なる懇願をされて頭の中が真っ白になってしまいました。
うぅ──、どうやったら今のヴォルの苦しみを退けられるのでしょうか。私はただヴォルに抱き締められているばかりでした。
本当に──、私は彼に何が出来るのでしょう。
自らの無力感に苛まされ、浮かび上がる息苦しさを耐えるようにヴォルの頭部を抱き締めました。
しかしながら現状の私は会話自体が不可能なので、話し掛けられても──何故か先程は私の思いが通じた感がありましたけど──困るのです。ただ救出された安堵感はあるので、私は良く分からないながらもフワフワとついていきました。
それにしても町が静かです。やはりというか、戦闘は終了したようでした。あの時響き渡っていた、騒々しい程の魔物の咆哮などが今は聞こえません。
そう思っていたのですが、町の出口が見えてきて思い違いである事に気付きました。
だって、人も魔物もそのままいるのです。しかも動いて──ますよね?
さすがに残っている魔物は小型のものばかりでしたが、足下が固定されているだけでとても元気そうでした。町の人達に怪我がなさそうなのはホッとしたのですが、こちらも小型の魔物同様に足下を固定されています。
けれどもヴォルはそれらを気にする様子もなく、真っ直ぐ町の外に設置した結界へ歩いていきました。勿論小心者の私はオドオドしながらついていきます。
しかしながら町の人も魔物も動いてはいるものの、妙に大人しくはないかと思いました。疑問には思いましたが、ヴォルの魔法でどうにかなっているのだという事にします。
「……入れ」
──え?
掛けられたヴォルの声に振り向くと、やはり宙に浮かぶ私を見ています。
今の自分は霊的な感じで何だか透けているのですが、それでもヴォルは疑う事なく私を私だと分かってくれているようでした。
──あ、ありがとうございます。
私はペコリと頭を下げて結界を通ります。
片腕で私の身体を抱えているヴォルは、私が通るまで結界の壁に触れていました。これは恐らく、現状の私を招き入れる為に必要な行為なのでしょう。
「メル」
完全に私達が結界の中に入ると同時に、何故か周囲の景色が霞がかって見えなくなりました。
──はい?
首を傾げながらヴォルの方を振り向くと、突然強く抱き締められます。
「っ?!」
苦しさに息を呑んだ私ですが、とても熱い身体に抱き締められている事に気付きました。──熱い?
突然のように感じられた感覚を疑問に思い、私はパチパチと瞬きを繰り返します。
「あれ……?身体が……」
「…………俺を殺す気か」
無事に自分の身体へ戻れた事に戸惑っていた私ですが、ヴォルの低い声にビクッと身体が震えました。
殺すって──誰が誰をですか?!
少しだけ身体を離し、恐る恐る彼の瞳を覗き込みます。でも、何故か不安に瞳を揺らしているのはヴォルの方でした。
「頼むから……、危ない事はしないでくれ」
不安定に揺れる声音で告げられます。
危ない事──というのが思い浮かびませんでした。私はすぐに返答が出来ず、混乱しています。
「返事は」
「は、はいっ」
追求するように訴えられ、条件反射で答える私でした。
言われればしますよ、勿論。『返事は』って聞かれて、咄嗟に『はい』以外の違う言葉が出る人を見てみたいものです。
「何故結界から出た」
「あ……、ゼブルさんを捜そうと思って……ですね?」
改めてされた質問に対し口を開いたのですが、ヴォルの瞳が鋭い光を帯びました。
あぁ──この答えは失敗のようです。
「ご、ごめんなさい……」
「………………すまない、メルに謝罪させたい訳ではない。ただ……、俺は己の弱さが憎らしい」
ヴォルの怒りを感じて慌てて頭を下げましたが、反対に苦し気に息を吐き出して私の首筋に顔を埋めるヴォルがそう告げました。
どうしましょう。彼を苦しめているのは私のようです。
「私は……」
「俺はお前がいないとダメだと言っただろ。俺の傍にいろ……、いてくれ」
何か言わねばと口を開きましたが、更なる懇願をされて頭の中が真っ白になってしまいました。
うぅ──、どうやったら今のヴォルの苦しみを退けられるのでしょうか。私はただヴォルに抱き締められているばかりでした。
本当に──、私は彼に何が出来るのでしょう。
自らの無力感に苛まされ、浮かび上がる息苦しさを耐えるようにヴォルの頭部を抱き締めました。
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