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第七章
≪Ⅶ≫コレとは何の事だ【1】
しおりを挟む「しかし、何故この娘に触れる事が出来ないのだ。私の言葉が届かない?言葉……魔力?……既婚の腕輪」
何だか考えを巡らせているようでした。
ところでこの人、神父さん(仮)ではなく多分ゼブルさん(仮)です。一人でこんなところにいますし、何やら色々と知ってそうですから。
「守護魔法……、ヴォルティ様?いや、まさか……っ。だが、これ程までの守護魔法は見た事がない。あの方の婚儀には参加させて頂いたが、奥方の素性やお顔を拝見した事はない。ベールで隠されていたし、何故か出自は秘匿とされていたからな。寵愛されている噂は事実あった……が、けれどもそれは側室の話が出る前の事」
自分の考察に入っているらしく、一人で呟いているゼブルさん(仮)でした。
しかしながら──面と向かって自分関連の噂を聞くのは恥ずかしいです。それよりも彼の独り言から、婚儀に参加したと言われていました。ゼブルさん確定です。
私はこの方を捜しに来たのですけれど、まさかの現状──肉体のみが囚われの身──でした。後でヴォルとベンダーツさんに怒られそうです。
──うぅ……、不可抗力なのですが。
「偽り……?寵愛が失われたとされた噂も、奥方を隠す為だとしたら……。確かに官僚達の動きが妙に活発だったからな。婚儀の後、ヴォルティ様派とペルニギュート様派との争いが激しくなったのも事実」
誰も聞いていないと思っているらしく、考えを纏める為の独り言が盛大でした。
大半が初耳の私にとっては、『そうだったのですか。さすが、政治に深く関わっている方と聞いただけの事はありますね』的な情報でした。
「いや、かといってこの娘がヴォルティ様の奥方かどうかは別としよう……。と言うか、この貧相な娘がか?顔立ちも容姿も並以下ではないか。立ち並んで見劣りがするにも程がある」
マジマジと私の顔を覗き込んだ後、軽く鼻で笑われます。
──今、物凄くバカにされました。
ヴォルと比べられれば私なんて、見目が普通で何の取り柄もないってのは認めますけどねっ。
「少し話しただけだが、人を疑う事を知らない田舎臭い天然娘ではないか。……この天然さが良いのか?……おぼこだからか?……貴族の令嬢方を無視し続けてきた男が選んだのが、コレ?」
ドカーン!!
ゼブルさんの嘲笑と大きな音が重なりました。
その前触れもなく大きな爆音に、身体がない今の私も思い切りビクッと肩を跳ねさせてしまいます。
「コレとは誰の事だ」
聞き覚えのある声でした。そしてそれは、静かですけど物凄く怒っているヴォルの声です。
ゼブルさんも相手が分かったのか、顔色が悪くなっているように見えました。
「ま……さか……っ」
驚愕に顔を歪ませるゼブルさんの目の前へ、砂埃を瞬時に風の魔力で吹き飛ばしたヴォルが現れます。勿論、当たり前のようにその後ろにはベンダーツさんが控えていました。
そう言えば、魔物討伐の方は終わったのでしょうか。──あ、私は勝手にヴォルの結界から出てきたのでした。
現在半ば囚われの身である私は、これが説教コースであると気付いてしまいます。しかも言い訳も出来ない今の私──幽体──でした。
「ったく、開いた扉の封印をご丁寧に再度閉めとくんじゃないっての。入り口が分からなくて手間取っちゃったじゃないか。オマケにヴォルに追い付かれて、俺の良いところなしって感じだし」
ブツブツと文句を続けるベンダーツさんですが、それよりもヴォルの纏う空気が怖いです。──そして何故か私と視線が合っていませんか?
気のせいだと思いたい私は、今は肉体がない幽霊の様な状態である事を改めて確認してしまいました。
見えない筈──と思いたい私は自分の身体の斜め上から、僅かに横へ移動します。
ダメです、確実に見えてます──ヴォルの視線が私から外れませんでした。
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