「結婚しよう」

まひる

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第七章

6.胸の辺りが重い【5】

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 何故だか石の台の上に寝かされているです。──正確には私の身体でした。
 そして現在それを見ている私自身は、何故だか少し斜め上から見下ろしている感じです。

 神父さん(仮)は教会の奥深くへと続く道を突き当たりまでやって来て、今はもう一つ扉を越えた先にいました。
 あの秘密の扉の奥から繋がったここは通路を下ってきたので地下だと推測されますが、教会の筈なのに何故か別の場所のようです。空気が違うというか、居心地がとても悪く感じました。

「せっかく神聖な乙女が手に入ったのだ。ここでやらねば勿体ない」

 神父さん(仮)はぶつぶつ呟きながら燭台しょくだいに火を灯します。
 何が勿体ないのかは分かりませんが、の身体はもう少し柔らかい場所に寝かせてほしいと思いました。

 そうしているうちに神父さん(仮)は蝋燭を幾つかけ終わり、不意にに向き直ります。
 室内がある程度明るくなった今、斜め上から見ている私は観客のような立ち位置でした。でも実際に彼と対しているのは私の身体で、何でしょうか非常に嫌な感じがします。

「偶然かも知れないが、『これ』はここの魔法石の波長と同調したようだしな。今ならこの神聖な乙女の身体を包み込む清浄を壊す事で、この町の封印を破壊する事が出来るだろう」

 ニヤリと笑みを浮かべた神父さん(仮)ですが、その瞳は全く笑っていませんでした。
 ──ちょっと待ってください。私はそんな特別能力なんて持っていませんっ。
 清浄を破壊するとか意味不明ですし、実際にはその意味も分かりたくありませんでした。でも慌てる私は完全に蚊帳かやの外です。

 いまほのかに腕輪は光っていますが、身体に戻れない私の意識もそのままなのでした。抵抗も出来ず、声を上げる事も不可能な私の身体です。
 ──嫌です、怖いですっ。私に触らないでくださいっ。

「……っ。またれる事が出来なくなった?」

 その声に神父さん(仮)を見ると、再び私を包み込むように透明の壁が存在しているようでした。そしてそれを確認するかのように、神父さん(仮)の手が私の身体の周囲を撫で回しています。

 これは視覚的にも気持ちが悪く感じました。実際にさわられるよりはマシかも知れませんが、はたから見ている分にはあまり変わりません。

「しまったな、名前を先に聞いておけば良かった。そうすれば名で縛る事が出来るのに」

 思考を巡らせるかのように呟く神父さん(仮)でした。
 教会の神父さんはそんな事が出来るのでしょうか。──と言うかですね、何だかこの人は神父さんではないような気がしてきました。
 そういえば私、何故この人が神父さんだと思っていたのか今更ながらに疑問が浮かびます。

「ここにヴォルティ様がいたのには驚いたが、他の騎士や護衛の姿が見えないのだ。国外追放されたとか奥方を伴って逃亡したとかの噂があるが、案外本当なのかもしれないな。……あのかたの見目は、あのように布を頭へ巻いたところで隠せはしないからな。私とて数度言葉を交わした事があるだけだが、見忘れる作りでもないのだ。城から遠く離れたこのような町に単身で顔を出したということは、噂を信じても良いかも知れぬ」

 一人で納得したように頷いていました。
 しかしながら内容はヴォルの事を言われているようです。そして『噂』の部分は気になりますが、それよりもこの人の正体が分かった気がしました。
 でも私の状況って、かなり厳しくありませんか?
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