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第七章
4.何をやっている【5】
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「アデッ!」
ドガッというような壁が破壊される音と、微妙なベンダーツさんの苦痛を告げる声が響きます。いえ、響いたように聞こえました。
何と、ヴォルはベンダーツさんの引っ掛かっていた壁を何の対策もせずに魔法で撃ち抜いたのです。
「って、何をしてるのですかっ?!」
思わずヴォルに怒ってしまいました。ですがヴォルは、何もなかった風に視線を逸らしてしまったのです。
いえ──視線を逸らしたという事は、多少は悪いと思っての事ですよね?
「そんな酷い事をしたらダメですっ。怪我をしたらどうするのですかっ」
「……アイツはメルに手を出した」
「そ、それはそうですけど……未遂ですっ」
「当たり前だ。何かあってたまるかっ」
見たところベンダーツさんは腰の辺りを擦っているくらいで、痛みに顔を歪めているという感じではありませんでした。
それでも危険であった事には変わりがなく、私は子供に叱るような言葉をヴォルに向けます。そして互いの言い合いの後、ヴォルがまた視線を逸らしました。
でも今度は、僅かに頬が赤いです。
「大丈夫ですよ。だって、ヴォルの魔法がありますから」
そんな様子を嬉しく思い、私は自然と表情が綻んでしまいました。
「俺の……魔法」
「はい、ヴォルの守りの魔法です。現に先程も腕輪が熱くなって、風が私を守ってくれました」
呟きを返すヴォルですが、私は笑みを浮かべながら言葉を続けます。
目にした時は驚きましたが、私はその現象が怖いものではないと感じられたのでした。私を傷付ける事なく周りを囲み、外側からの砂塵を全て風が吹き飛ばしてくれていたのです。
でもこれは私以外の全てを排除してしまうので、改良の余地があるように思いました。
「……そうだな」
「でもこれ、少し改良出来ませんか?周囲全てを飛ばしてしまうと、周りに危険ではない人がいた場合にも同じ影響がありますよね?」
「ある」
「それだと危なくないですか?」
「問題ない。発動条件はメルの拒絶だ。周囲からの救いを得られない場所でだからこそ、魔法の条件を満たすものとなる」
さらりと答えてくれるヴォルです。──そんなものですか?
でも魔法をかけた本人が言うのですから大丈夫なのだと思いました。今回はベンダーツさんは飛んでしまいましたけど──。あ、あれはベンダーツさんを妨げるものだったです。
ん~、難しいです。
「メルの拒絶を受けたものは、同時に俺からの攻撃対象にもなる。そう深く考えなくとも問題ない」
「いや、結構問題あるんじゃないかな?」
言い切ったヴォルの言葉に続けるようにガラガラと重い物が崩れる音がして、砂埃にまみれたベンダーツさんが顔を出しました。
「良かったです、マークさん。怪我はしていませんか?」
「まぁね、壁を崩されて落ちただけだから。さすがに受け身は取れなかったけど、怪我をする高さでもなかったし?」
砂埃を叩きながら立ち上がったベンダーツさんは、言葉通り怪我などをしていないようです。
でもヴォルは彼に鋭い視線を向けていました。
「おいおい、まだ怒っているのか?さすがにこれ以上は勘弁なんだけど。ったく、冗談か本気かの区別くらい出来ないのかよ」
「次はない」
ヴォルを呼ぶ為とはいえ、ベンダーツさんの行動は無謀だったようです。
冗談を言う時は、相手の反応を考えなくてはなりません。やって良い事と悪い事があるのも当然でした。
呆れたようなベンダーツさんに比べ、ヴォルは未だに固い表情をしているのですから。
ドガッというような壁が破壊される音と、微妙なベンダーツさんの苦痛を告げる声が響きます。いえ、響いたように聞こえました。
何と、ヴォルはベンダーツさんの引っ掛かっていた壁を何の対策もせずに魔法で撃ち抜いたのです。
「って、何をしてるのですかっ?!」
思わずヴォルに怒ってしまいました。ですがヴォルは、何もなかった風に視線を逸らしてしまったのです。
いえ──視線を逸らしたという事は、多少は悪いと思っての事ですよね?
「そんな酷い事をしたらダメですっ。怪我をしたらどうするのですかっ」
「……アイツはメルに手を出した」
「そ、それはそうですけど……未遂ですっ」
「当たり前だ。何かあってたまるかっ」
見たところベンダーツさんは腰の辺りを擦っているくらいで、痛みに顔を歪めているという感じではありませんでした。
それでも危険であった事には変わりがなく、私は子供に叱るような言葉をヴォルに向けます。そして互いの言い合いの後、ヴォルがまた視線を逸らしました。
でも今度は、僅かに頬が赤いです。
「大丈夫ですよ。だって、ヴォルの魔法がありますから」
そんな様子を嬉しく思い、私は自然と表情が綻んでしまいました。
「俺の……魔法」
「はい、ヴォルの守りの魔法です。現に先程も腕輪が熱くなって、風が私を守ってくれました」
呟きを返すヴォルですが、私は笑みを浮かべながら言葉を続けます。
目にした時は驚きましたが、私はその現象が怖いものではないと感じられたのでした。私を傷付ける事なく周りを囲み、外側からの砂塵を全て風が吹き飛ばしてくれていたのです。
でもこれは私以外の全てを排除してしまうので、改良の余地があるように思いました。
「……そうだな」
「でもこれ、少し改良出来ませんか?周囲全てを飛ばしてしまうと、周りに危険ではない人がいた場合にも同じ影響がありますよね?」
「ある」
「それだと危なくないですか?」
「問題ない。発動条件はメルの拒絶だ。周囲からの救いを得られない場所でだからこそ、魔法の条件を満たすものとなる」
さらりと答えてくれるヴォルです。──そんなものですか?
でも魔法をかけた本人が言うのですから大丈夫なのだと思いました。今回はベンダーツさんは飛んでしまいましたけど──。あ、あれはベンダーツさんを妨げるものだったです。
ん~、難しいです。
「メルの拒絶を受けたものは、同時に俺からの攻撃対象にもなる。そう深く考えなくとも問題ない」
「いや、結構問題あるんじゃないかな?」
言い切ったヴォルの言葉に続けるようにガラガラと重い物が崩れる音がして、砂埃にまみれたベンダーツさんが顔を出しました。
「良かったです、マークさん。怪我はしていませんか?」
「まぁね、壁を崩されて落ちただけだから。さすがに受け身は取れなかったけど、怪我をする高さでもなかったし?」
砂埃を叩きながら立ち上がったベンダーツさんは、言葉通り怪我などをしていないようです。
でもヴォルは彼に鋭い視線を向けていました。
「おいおい、まだ怒っているのか?さすがにこれ以上は勘弁なんだけど。ったく、冗談か本気かの区別くらい出来ないのかよ」
「次はない」
ヴォルを呼ぶ為とはいえ、ベンダーツさんの行動は無謀だったようです。
冗談を言う時は、相手の反応を考えなくてはなりません。やって良い事と悪い事があるのも当然でした。
呆れたようなベンダーツさんに比べ、ヴォルは未だに固い表情をしているのですから。
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