320 / 515
第七章
4.何をやっている【2】
しおりを挟む
「ヴォル、頭……痛いです」
ガッチリと腕の中に固定された頭の解放を願い、私は彼の服を軽く引っ張りました。ですが中々腕の力を緩めてくれません。
──お、怒っています?
「……勘弁してくれ」
「え……?」
その声に怖々と視線を上げると、酷く疲れたようなヴォルがいました。
でも目が合ったかと思うと、逸らすように私の肩に頭を埋めてしまいます。
──えっと……。
痛そうな苦しそうな辛そうな悲しそうなそんな、そんな色々な感情が肌を通して伝わってきました。私も何故だか気持ちが沈みます。
「大丈夫、ですか?」
怒っているのではないのだと思い、それならば何が理由なのかと心配になりました。
そして私は戸惑いつつも、腕を伸ばして彼の頭を撫でます。ちょうど項垂れているので、いつもは届かない私の手が届きました。──うん、サラサラの濃紺の髪が心地よいです。
「……心配した」
「はい?」
ボソリと呟かれ、再びギュッと身体を抱き締められます。
ちょっと苦しいですけど、全身にヴォルの体温が伝わって心地好いので良い事にしました。そしてそのままヴォルの頭を撫で続けます。
彼の傍は凄く安心出来て、心が温かく穏やかになりました。先程までの恐怖は何処へやらの、とても現金な私です。
「あ~……ごめんね、良い雰囲気のところ申し訳ないんだけど……。あの、降ろしてくれない?」
髪の感触にうっとりと瞳を閉じていた私ですが、その声の聞こえた方向が上からだった事に違和感を感じて相手を捜しました。
そして見つけたのですが、──何故でしょう、とても不思議です。
「どうしたのですか、マークさん」
思わず声を掛けました。そう、彼がいる場所が思ったより高いところだったからです。
勿論ヴォルの結界の内側ではありますが彼の足は地面に着く事なく、町長さんのお屋敷の壁の一部──何故かそこだけ壁がありました──に引っ掛かるようにしてぶら下がっていました。
あの嵐のような風に飛ばされた結果なのでしょうが、こんなに上手く引っ掛かるものでしょうか。
「いやぁ、俺にも良く分からないんだけどさぁ……」
苦笑いのベンダーツさんですが、上手く引っ掛かっているようで揺すったりしても取れないようなのです。
でもそこは床からヴォルの身長以上の高さがある場所でした。下手に落ちたりしては、怪我では済まないかもしれません。
「あ、あの……ヴォル?」
お願いしようとヴォルに声を掛けますが、全く反応してくれませんでした。
私の肩に顔を埋めたままのヴォルは、いっこうに動こうとしないのです。私自身も強く抱き締められているので動けませんし、一体どうしたら良いのか軽く混乱してしまいました。
「……放っておけ」
暫くして、そんな私に抑揚なく答えたヴォルです。
──あれ、ベンダーツさんに怒っています?
などと思うが早いか、そのまま私はベッドに押し倒されました。このベッドは私がいた事もあり、先程の風では吹き飛ばされなかったようです。
「ヴォル~、ごめんっ。本当にごめん!俺が悪かった、本当にごめんっ」
全くヴォルが助ける気配がないのを察したようで、ベンダーツさんは必死に謝り始めました。
先程のベンダーツさんのじゃれ合いが怒りの原因なのですね。ここで漸く気付く私もなんですが、あれは本気ではなかったと思いました。とりあえず私で遊びすぎたのですよ──怖かったですけど。
「ヴォル、本当にごめんってばぁ。……こっち向いてくれないかなぁ?」
これ程必死にヴォルへ声を掛けるベンダーツさんを初めて見ました。
ところで、ヴォルは大丈夫だったのでしょうか。とても普通にここにいますけど、ゼブルさんを捜して交渉をしていたのではなかったですか?
私はそんな事を考えながらも、抱き枕状態のままヴォルの髪を撫で続けていました。
彼が落ち着くのを待とうと思います。
ガッチリと腕の中に固定された頭の解放を願い、私は彼の服を軽く引っ張りました。ですが中々腕の力を緩めてくれません。
──お、怒っています?
「……勘弁してくれ」
「え……?」
その声に怖々と視線を上げると、酷く疲れたようなヴォルがいました。
でも目が合ったかと思うと、逸らすように私の肩に頭を埋めてしまいます。
──えっと……。
痛そうな苦しそうな辛そうな悲しそうなそんな、そんな色々な感情が肌を通して伝わってきました。私も何故だか気持ちが沈みます。
「大丈夫、ですか?」
怒っているのではないのだと思い、それならば何が理由なのかと心配になりました。
そして私は戸惑いつつも、腕を伸ばして彼の頭を撫でます。ちょうど項垂れているので、いつもは届かない私の手が届きました。──うん、サラサラの濃紺の髪が心地よいです。
「……心配した」
「はい?」
ボソリと呟かれ、再びギュッと身体を抱き締められます。
ちょっと苦しいですけど、全身にヴォルの体温が伝わって心地好いので良い事にしました。そしてそのままヴォルの頭を撫で続けます。
彼の傍は凄く安心出来て、心が温かく穏やかになりました。先程までの恐怖は何処へやらの、とても現金な私です。
「あ~……ごめんね、良い雰囲気のところ申し訳ないんだけど……。あの、降ろしてくれない?」
髪の感触にうっとりと瞳を閉じていた私ですが、その声の聞こえた方向が上からだった事に違和感を感じて相手を捜しました。
そして見つけたのですが、──何故でしょう、とても不思議です。
「どうしたのですか、マークさん」
思わず声を掛けました。そう、彼がいる場所が思ったより高いところだったからです。
勿論ヴォルの結界の内側ではありますが彼の足は地面に着く事なく、町長さんのお屋敷の壁の一部──何故かそこだけ壁がありました──に引っ掛かるようにしてぶら下がっていました。
あの嵐のような風に飛ばされた結果なのでしょうが、こんなに上手く引っ掛かるものでしょうか。
「いやぁ、俺にも良く分からないんだけどさぁ……」
苦笑いのベンダーツさんですが、上手く引っ掛かっているようで揺すったりしても取れないようなのです。
でもそこは床からヴォルの身長以上の高さがある場所でした。下手に落ちたりしては、怪我では済まないかもしれません。
「あ、あの……ヴォル?」
お願いしようとヴォルに声を掛けますが、全く反応してくれませんでした。
私の肩に顔を埋めたままのヴォルは、いっこうに動こうとしないのです。私自身も強く抱き締められているので動けませんし、一体どうしたら良いのか軽く混乱してしまいました。
「……放っておけ」
暫くして、そんな私に抑揚なく答えたヴォルです。
──あれ、ベンダーツさんに怒っています?
などと思うが早いか、そのまま私はベッドに押し倒されました。このベッドは私がいた事もあり、先程の風では吹き飛ばされなかったようです。
「ヴォル~、ごめんっ。本当にごめん!俺が悪かった、本当にごめんっ」
全くヴォルが助ける気配がないのを察したようで、ベンダーツさんは必死に謝り始めました。
先程のベンダーツさんのじゃれ合いが怒りの原因なのですね。ここで漸く気付く私もなんですが、あれは本気ではなかったと思いました。とりあえず私で遊びすぎたのですよ──怖かったですけど。
「ヴォル、本当にごめんってばぁ。……こっち向いてくれないかなぁ?」
これ程必死にヴォルへ声を掛けるベンダーツさんを初めて見ました。
ところで、ヴォルは大丈夫だったのでしょうか。とても普通にここにいますけど、ゼブルさんを捜して交渉をしていたのではなかったですか?
私はそんな事を考えながらも、抱き枕状態のままヴォルの髪を撫で続けていました。
彼が落ち着くのを待とうと思います。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる