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第七章
2.今は……まだ……【2】
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部屋の中──浴室ではないです──で入浴って、さすがに初めてです。
勿論水が溢れてもヴォルの結界の中ですから心配ないですし、全く問題ないとヴォルが言っていましたけど──小心者の私は常にドキドキでした。
「ほら、キチンと乾かさないか」
魔法の温かい温風に全身を拭われつつも急いで服を着ようとしたら、しっかりと腕を掴まれて止められました。
今更ですけど、本当にヴォルって私に対して過保護なのです。
「だって……っ」
「濡れているとまた襲うぞ」
「っ!」
肌を曝したままでいる事が恥ずかしい私は、多少水分が残っていようとも服を着る気でした。それをヴォルに注意され、私は不満げに唇を尖らせたのです。
しかしながらそんな私の思惑など筒抜けのようで、更に返すヴォルの言葉にドキッとして動きを止めました。
「返事がないのは肯定か?」
「ち、違います……。もう……ダメで……すっ」
真っ赤になっているだろう顔を隠す為に俯く私に、追い打ちをかけるように表情を覗き込むヴォルの瞳が柔らかく細められます。
反論する私の声は、バクバクとうるさい胸を押さえるのに必死で消え入りそうになってしまいました。そして最後に言葉が跳ねたのは、ヴォルがこめかみにキスをしたからです。
「ならば、キチンと乾かせ」
「は……い……」
抵抗を止めた私の身体が完全に乾くまで、ヴォルはいつまでも私の髪を手ぐしでとかしてくれていました。
寝る支度を全て整えた私は、今はぼんやり机に向かっているヴォルの背をベッドの上から見つめています。
ふぅ……、何だかとても疲れました。精神的?肌を見られる事への羞恥と……か……色々です。
あぅ……、眠たくなってきてしまいました。
「我慢せずとも眠れば良い」
出していた作業中の道具を無造作に布袋に片付け、ヴォルはベッドに座っている私へ歩み寄ります。そしてベッドに腰掛け、当たり前のように背後から抱き締められました。
──って言うか、いつもヴォルは私を放してくれません。比喩ではなく、本当に肌を触れ合わせていました。
勿論嫌ではないのですけど──ずっとくっついていると、ヴォルの顔が見られないではないですか。口に出しては言えませんけどね。
「はい……、温かいので……つい……」
答えつつも、既に睡魔はすぐそこまで来ているようでした。
ウトウトして船をこぎはじめている私を、ヴォルは静かに横たわらせてくれます。
「まだ夜だ。日が昇るまでは時間がある。おやすみ、メル」
「おやすみ……なさい……、ヴォル……」
挨拶もそこそこの私でした。
しかしながら、本当に良く寝る私です。寝る子は育つと言いますが、もう何年も身長は伸びていません。
──これ、横に育ってしまいませんか?
安らかな寝息が聞こえる。いつものように俺が背を抱き締め、その腕の中でメルが眠っていた。
ベンダーツからの連絡は未だない。連絡方法は至って簡単。主従のリングを二度弾く事だ。不可視の魔法をかけ、更にリングには風の防御魔法をかけてある。先のような失態は犯さない筈。
とは言え、首謀者が魔力を持っているらしいのは引っ掛かる。この町の防御壁を破壊に導いた輩と同一人物ではないだろうか。
あのやり口、かなりの魔力を持っていると思われる。
魔物を呼び込む力。操る──か。人間の声音で魔物が反応するかは分からないが、魔力を持っているだけで魔物は反応する。己の糧とする為に近付くのだ。
──とはいえ、俺も少し休むか。次なる戦いに備えなくては。俺はメルを──、ついでにベンダーツも守ってやらなくてはならないからな。──アイツはついでだ。
勿論水が溢れてもヴォルの結界の中ですから心配ないですし、全く問題ないとヴォルが言っていましたけど──小心者の私は常にドキドキでした。
「ほら、キチンと乾かさないか」
魔法の温かい温風に全身を拭われつつも急いで服を着ようとしたら、しっかりと腕を掴まれて止められました。
今更ですけど、本当にヴォルって私に対して過保護なのです。
「だって……っ」
「濡れているとまた襲うぞ」
「っ!」
肌を曝したままでいる事が恥ずかしい私は、多少水分が残っていようとも服を着る気でした。それをヴォルに注意され、私は不満げに唇を尖らせたのです。
しかしながらそんな私の思惑など筒抜けのようで、更に返すヴォルの言葉にドキッとして動きを止めました。
「返事がないのは肯定か?」
「ち、違います……。もう……ダメで……すっ」
真っ赤になっているだろう顔を隠す為に俯く私に、追い打ちをかけるように表情を覗き込むヴォルの瞳が柔らかく細められます。
反論する私の声は、バクバクとうるさい胸を押さえるのに必死で消え入りそうになってしまいました。そして最後に言葉が跳ねたのは、ヴォルがこめかみにキスをしたからです。
「ならば、キチンと乾かせ」
「は……い……」
抵抗を止めた私の身体が完全に乾くまで、ヴォルはいつまでも私の髪を手ぐしでとかしてくれていました。
寝る支度を全て整えた私は、今はぼんやり机に向かっているヴォルの背をベッドの上から見つめています。
ふぅ……、何だかとても疲れました。精神的?肌を見られる事への羞恥と……か……色々です。
あぅ……、眠たくなってきてしまいました。
「我慢せずとも眠れば良い」
出していた作業中の道具を無造作に布袋に片付け、ヴォルはベッドに座っている私へ歩み寄ります。そしてベッドに腰掛け、当たり前のように背後から抱き締められました。
──って言うか、いつもヴォルは私を放してくれません。比喩ではなく、本当に肌を触れ合わせていました。
勿論嫌ではないのですけど──ずっとくっついていると、ヴォルの顔が見られないではないですか。口に出しては言えませんけどね。
「はい……、温かいので……つい……」
答えつつも、既に睡魔はすぐそこまで来ているようでした。
ウトウトして船をこぎはじめている私を、ヴォルは静かに横たわらせてくれます。
「まだ夜だ。日が昇るまでは時間がある。おやすみ、メル」
「おやすみ……なさい……、ヴォル……」
挨拶もそこそこの私でした。
しかしながら、本当に良く寝る私です。寝る子は育つと言いますが、もう何年も身長は伸びていません。
──これ、横に育ってしまいませんか?
安らかな寝息が聞こえる。いつものように俺が背を抱き締め、その腕の中でメルが眠っていた。
ベンダーツからの連絡は未だない。連絡方法は至って簡単。主従のリングを二度弾く事だ。不可視の魔法をかけ、更にリングには風の防御魔法をかけてある。先のような失態は犯さない筈。
とは言え、首謀者が魔力を持っているらしいのは引っ掛かる。この町の防御壁を破壊に導いた輩と同一人物ではないだろうか。
あのやり口、かなりの魔力を持っていると思われる。
魔物を呼び込む力。操る──か。人間の声音で魔物が反応するかは分からないが、魔力を持っているだけで魔物は反応する。己の糧とする為に近付くのだ。
──とはいえ、俺も少し休むか。次なる戦いに備えなくては。俺はメルを──、ついでにベンダーツも守ってやらなくてはならないからな。──アイツはついでだ。
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