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第七章
1.鎮まるまで待つか【5】
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「ほら、そんな事をしている間に……」
ベンダーツさんが耳をすましたのにつられ、私も周囲の音に意識を向けます。
──あれ?何だか静かになっていますね。
先程までは壊れる事はないでしょうが、結界を揺るがす程の衝撃を外部から受けていました。
「ほら、町民は帰宅のようだよ?」
「Eizou wo Miseru.」
ヴォルが結界の外を見えるようにしてくれます。しかもいつの間にか夜になっていました。
あ、本当ですね。誰もいないです。って言うか、お屋敷が大変な事になっていました。嵐の後のようにボロボロです。
これ、後で請求なんてされないですよね?
「んじゃ、俺は行っても良いね?とりあえず首謀者を見つけてくるからさ」
「待て。不可視の魔法もかけてやる」
「あ……、ありがとうな。本当に俺、愛されちゃってるねぇ」
軽く受け流していますが、実際にはかなり恐縮しているのでしょうか。言葉の割りに何だか表情が固いです。
「マークさん、気を付けてくださいね?」
「んじゃ、行ってくるねぇ」
元気に片手を振りながら部屋の扉を開けて退室するベンダーツさんでした。どうやら扉を開ける事で結界外に出られるようです。
しかしながら、本当に捜してくるだけですよね?──私はそれを聞けないまま、結界を通過して出ていくベンダーツさんの背中を見送りました。
ヴォルが彼のリングと彼自身に魔法をかけていたので、大丈夫だとは思うのです。けれども心配はなくならないわけで。
「心配か」
「……はい」
ヴォルの腕に抱き包まれながら、私はいつも誰かを見送る事しか出来ないのだと心が痛くなりました。
ただ待つというのは、とても辛い事だと私は知っています。帰ってこないかもだなんて思いたくないのに、不安は不安を呼んで増えるばかりなのでした。
「アイツの隠密技術は中々のものだ。それに今回はマーキングもしておいた。何かあればすぐ飛べる」
「え……、転移が出来るのですか?」
「不本意だがな。捜し回るより都合が良い」
不機嫌そうな声音で返してくるヴォルです。
でも本心は違うのだと思いました。彼もベンダーツさんの事が心配なのでしょうから。
素直ではないヴォルの反応に、私は小さく笑みを浮かべてしまいます。
「そういえばこの結界って、人が通り抜ける事が出来るのですね」
「俺が認識しているからな。不用意に触れば弾かれる」
「あ、そうなんですか……。でもユーニキュアさんの時は大丈夫でした。これはいつものシャボン玉のような薄い膜ではないので、少し不思議な感じです」
「結界の初期設定にもよる。今回は悪意を弾くよう強固にした。前回はメルを軸に結界を張ったのだ。中からの刺激が激しいものでない限り消失しない、柔軟性の高い結界にしていた。多くの人間もいたからな」
私の疑問にきちんと答えてくれるヴォルでした。
少し気になったので聞いてみたのですが、何だか結界一つにも色々と種類がありそうです。そしてそれだけ使いこなせているヴォルは凄いのだと、今更のように感心しました。
「そうなんですね、ありがとうございます。ヴォルは色々な魔法が使えるのですね」
「その分精霊と契約しているからな」
絶賛する私に対して、ヴォルは事も無げに答えます。
そうでした。彼いわく、人間が魔法を使えるのは精霊さんが使わせてくれるからとの事らしいのです。でもそれだけ魔法が使えたら普通、自らが強いのだと勘違いしてしまいそうでした。
「どの魔法使いも、契約した精霊さんに魔力を与えているのですか?」
「そうだ。精霊に報酬が必要だからだ。魔法を使う者は例外なく、魔法に必要な魔力とは別に精霊へ与える魔力を消耗する」
魔法を使う者の当然の知識みたいです。マージンみたいなものだと考えました。
何だか、精霊さんとの関係も単純ではなさそうです。その分、たくさん精霊さんを連れているヴォルの消耗は激しいのだと思ってしまいました。
ベンダーツさんが耳をすましたのにつられ、私も周囲の音に意識を向けます。
──あれ?何だか静かになっていますね。
先程までは壊れる事はないでしょうが、結界を揺るがす程の衝撃を外部から受けていました。
「ほら、町民は帰宅のようだよ?」
「Eizou wo Miseru.」
ヴォルが結界の外を見えるようにしてくれます。しかもいつの間にか夜になっていました。
あ、本当ですね。誰もいないです。って言うか、お屋敷が大変な事になっていました。嵐の後のようにボロボロです。
これ、後で請求なんてされないですよね?
「んじゃ、俺は行っても良いね?とりあえず首謀者を見つけてくるからさ」
「待て。不可視の魔法もかけてやる」
「あ……、ありがとうな。本当に俺、愛されちゃってるねぇ」
軽く受け流していますが、実際にはかなり恐縮しているのでしょうか。言葉の割りに何だか表情が固いです。
「マークさん、気を付けてくださいね?」
「んじゃ、行ってくるねぇ」
元気に片手を振りながら部屋の扉を開けて退室するベンダーツさんでした。どうやら扉を開ける事で結界外に出られるようです。
しかしながら、本当に捜してくるだけですよね?──私はそれを聞けないまま、結界を通過して出ていくベンダーツさんの背中を見送りました。
ヴォルが彼のリングと彼自身に魔法をかけていたので、大丈夫だとは思うのです。けれども心配はなくならないわけで。
「心配か」
「……はい」
ヴォルの腕に抱き包まれながら、私はいつも誰かを見送る事しか出来ないのだと心が痛くなりました。
ただ待つというのは、とても辛い事だと私は知っています。帰ってこないかもだなんて思いたくないのに、不安は不安を呼んで増えるばかりなのでした。
「アイツの隠密技術は中々のものだ。それに今回はマーキングもしておいた。何かあればすぐ飛べる」
「え……、転移が出来るのですか?」
「不本意だがな。捜し回るより都合が良い」
不機嫌そうな声音で返してくるヴォルです。
でも本心は違うのだと思いました。彼もベンダーツさんの事が心配なのでしょうから。
素直ではないヴォルの反応に、私は小さく笑みを浮かべてしまいます。
「そういえばこの結界って、人が通り抜ける事が出来るのですね」
「俺が認識しているからな。不用意に触れば弾かれる」
「あ、そうなんですか……。でもユーニキュアさんの時は大丈夫でした。これはいつものシャボン玉のような薄い膜ではないので、少し不思議な感じです」
「結界の初期設定にもよる。今回は悪意を弾くよう強固にした。前回はメルを軸に結界を張ったのだ。中からの刺激が激しいものでない限り消失しない、柔軟性の高い結界にしていた。多くの人間もいたからな」
私の疑問にきちんと答えてくれるヴォルでした。
少し気になったので聞いてみたのですが、何だか結界一つにも色々と種類がありそうです。そしてそれだけ使いこなせているヴォルは凄いのだと、今更のように感心しました。
「そうなんですね、ありがとうございます。ヴォルは色々な魔法が使えるのですね」
「その分精霊と契約しているからな」
絶賛する私に対して、ヴォルは事も無げに答えます。
そうでした。彼いわく、人間が魔法を使えるのは精霊さんが使わせてくれるからとの事らしいのです。でもそれだけ魔法が使えたら普通、自らが強いのだと勘違いしてしまいそうでした。
「どの魔法使いも、契約した精霊さんに魔力を与えているのですか?」
「そうだ。精霊に報酬が必要だからだ。魔法を使う者は例外なく、魔法に必要な魔力とは別に精霊へ与える魔力を消耗する」
魔法を使う者の当然の知識みたいです。マージンみたいなものだと考えました。
何だか、精霊さんとの関係も単純ではなさそうです。その分、たくさん精霊さんを連れているヴォルの消耗は激しいのだと思ってしまいました。
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