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第七章
≪Ⅰ≫鎮まるまで待つか【1】
しおりを挟む「騒がしいな」
不意に目を覚ましたヴォルです。
寝ている彼の抱き枕になっている状態で普通にベンダーツさんと会話していたので、後頭部から突然の音声が聞こえてビックリしました。
「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」
身体を起こすヴォルにつられ、私もベッドから起き上がります。というか、一緒に抱き起こされた感じですね。
ベンダーツさんもヴォルが目を覚ました事で既に起き上がっていました。
「いや、メルの声は心地好い」
頭に顎をすり付けるようにしてヴォルが呟きます。
こ、この人って──時たまドキッとする言葉を告げるのでした。毎回の不意打ちを受け、私は赤面してしまいます。
「すみませんね、私の声は不愉快ですよ」
「お前のはどうでも良い」
不貞腐れてみせたベンダーツさんに、ヴォルは容赦のない言葉でした。
でも、からかっているという訳ではなさそうです。ヴォルの視線──意識は、どうやら結界の外に向いているようなのでした。
「……動き出しましたか」
「そうだな」
ヴォルの言葉と時を同じくして、軽い振動が結界壁を揺らしました。
思わず顔を上げて部屋を見渡しますが、結界自体は部屋より外側を包んでいるので確認出来ません。
「無謀な事をしていますね。ヴォルティ様の結界が、そうも易々と破れる筈もないでしょうが」
まさかとは思いましたが、何者かが結界を壊そうとしているようです。
自信に溢れたベンダーツさんが呆れたように小さく首を振りますが、私は何故この様な事態になったのかすら不明で不安でした。
大型の魔物を討伐した冒険者で魔力持ちで、とても普通の人達が敵わないと分かりきっているヴォルへ攻撃しにきているのです。
正気ですよね?って言うか、私達って分かっていますよね?──でも何だか、そこまで敵視されているのだとしたらとても悲しく感じました。
だってサガルットには、少しの間とはいえ一緒に旅をしてきた人達もいるのですから。
「どうしますか、ヴォルティ様」
静かにヴォルに問い掛けてくるベンダーツさんに視線を向けた私は、思わず目を見開いてしまいます。
なんだってベンダーツさん、既に剣の柄を持っているのですかっ?!
「ここから脱するのは容易だが」
対してヴォルは淡々と告げます。
そうでした、彼には転移という魔法があったのでした。でも、この場合──それだけではダメなような気がします。
「こちらからの説得は少々骨が折れますね」
鞘から抜き始めていた剣を元に納め、ベンダーツさんが小さく溜め息をつきました。
はい、この場合の交渉人は貴方しかいません。あ、口がうまいからって理由ではないです。決して──いえ、たぶん。
「ともかく、あちら側からの攻撃をやめていただかなくてはなりませんが」
そう言いながら、ベンダーツさんは未だに軽い衝撃が伝わってくる部屋の天井を見上げました。
そうなんですよね。だいたい今はまだ夜ですよ?そんな時間に人様のお宅を襲撃だなんて、常識的にダメダメです。あ、ここは町長さんの屋敷でした。
「鎮まるまで待つか」
そう呟いてゴロリとベッドに横になるヴォルです。
そんな悠長な事を言っていられるヴォルの強さが私も欲しいと思いました。あまりにもドギマギしすぎて、ヴォルにベッド上で後ろから抱き締められて倒されているのに気付かなかったくらいですから。
「外の景色って見られないのですか?」
そして私は思い付きます。
そうですよ。見えないから余計に不安になるのですから、現状の把握は大切だという考えに至ったのでした。
「見ない方が……」
「良いと思いますけれどねぇ」
ヴォルに続けるようにしてベンダーツさんも告げ、二人の意見が揃います。
──え?そんなものなのですか?
理由が分からず、私は首を傾げました。
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