303 / 515
第六章
10.何故だか落ち着かない【5】
しおりを挟む
今は夜ですが、あの朝食後からずっと部屋でゴロゴロしていました。
そしてお昼も夜も、ベンダーツさんがご飯を作ってくれます。今思うと、この前買い出しをしておいて正解でしたね。
ヴォルはというと──ずっと眠っていました。勿論、椅子からベッドに移動はしましたけど。
そして私は抱き枕。
何でも、魔力を回復させる為に睡眠が必要なのだそうです。初めは何処か具合が悪いのではないかと心配になったのですが、ベンダーツさんに教えてもらいました。
──しかしながら、正直いって退屈です。
ヴォルの寝顔を見ているのも、一日中見ていればさすがに変化が乏しいので飽きてきました。
結界のおかげか、外の音は全く聞こえてきません。辛うじて食事による時間の区別がつくくらいでした。
というか、ベンダーツさんはその辺りしっかりしています。そして食事の準備をする前にヴォルを起こし、当初のお願い通りに水と火の魔法を用意させていました。
「さすがに一日横になっているのも苦痛ですね」
隣でベンダーツさんが呟きます。
話そうが料理を作っていようが、ヴォルは深く眠っている為に起きません。──起こそうとしないかぎり起きないのです。
それほどに深く寝入っていても寝起きが良くて、起こせばすぐに意思疎通が出来ました。食事準備で魔法を提供した後にすぐ寝てしまいますが、食べる時に再度起こすとちゃんと自分で食べます。
私はこんなに切り替え良く出来ない自信がありますね。
「はい……。このままでは丸々太ってしまいそうですよ」
「ブータンは太っている方が美味しいですからね」
「わ、私はブータンではありませんよ。……でもそれくらい丸くなったらどうしましょう」
唇を尖らせてみますが、実際そう思う程に身体を動かさないので不安を感じてしまいました。
「大丈夫ですよ。ヴォルティ様に頼めば、一日中でも運動させてくれるでしょうから」
「……それ、ヴォルに言ったら怒られそうな言葉ではありません?」
「おや、貴女も少しはしっかりしてきましたね。まぁさすがに私と致しましても、ところ構わずでは困りますがね」
ベンダーツさんと軽口を言い合えるなんて、本当に私も強くなったものです。それだけ彼に慣れたのもあるのでしょうけど。
私はヴォルが寝ているので必然的に抱き枕なのですが、ベンダーツさんも食事の準備以外はもう一つのベッドで横になっていました。彼の身体も体力回復の為に休養を求めているようです。
「これからどうするのですか?」
「そうですね。あちら側の出方にもよりますが、我々はまだセントラルに戻る訳にはまいりません。せめてこのグレセシオ大陸南部の調査を終えてからでないと、再度北上する意味はないですからね」
さすがに一日中寝ていたので、食後もなかなか睡魔が訪れません。
ベンダーツさんも同じなのか、私の会話に付き合ってくれました。
魔力の坩堝を探すというのが、今回の旅の趣旨です。
最南端はまだ少し先ですから、そこの調査もせずに戻ってしまえば、何の為にここまで来たのか分からない結果になってしまうのでした。
「その為にも、まずはヴォルティ様の回復を待たなければなりません。あちら側がこのまま大人しくしていてくれれば良いのですが」
片眼鏡がなくても、丁寧語のベンダーツさんに違和感を感じなくなっています。毎回、彼の切り替えの良さには驚きますが。
そして都度出てくる『あちら側』とは、サガルットの人達でした。ベンダーツさんは直接見ていないと言っていましたが、彼を拉致したのもサガルットの町長さんとユーニキュアさんのお父様かもです。
分からないのは理由ですね。
町長さんはユーニキュアさんのお父様に強く言われての事かも知れませんが、彼等の本来の目的は町の復興だった筈でした。
しかし冒険者と言えども人です。集団で襲えば何とかなるかもと思ったのでしょうか。
ベンダーツさんを説得しようとしたのか亡き者にしようとしたのかは不明ですが、そんな事をしたってヴォルがあの人達に従う訳がありませんでした。
そしてお昼も夜も、ベンダーツさんがご飯を作ってくれます。今思うと、この前買い出しをしておいて正解でしたね。
ヴォルはというと──ずっと眠っていました。勿論、椅子からベッドに移動はしましたけど。
そして私は抱き枕。
何でも、魔力を回復させる為に睡眠が必要なのだそうです。初めは何処か具合が悪いのではないかと心配になったのですが、ベンダーツさんに教えてもらいました。
──しかしながら、正直いって退屈です。
ヴォルの寝顔を見ているのも、一日中見ていればさすがに変化が乏しいので飽きてきました。
結界のおかげか、外の音は全く聞こえてきません。辛うじて食事による時間の区別がつくくらいでした。
というか、ベンダーツさんはその辺りしっかりしています。そして食事の準備をする前にヴォルを起こし、当初のお願い通りに水と火の魔法を用意させていました。
「さすがに一日横になっているのも苦痛ですね」
隣でベンダーツさんが呟きます。
話そうが料理を作っていようが、ヴォルは深く眠っている為に起きません。──起こそうとしないかぎり起きないのです。
それほどに深く寝入っていても寝起きが良くて、起こせばすぐに意思疎通が出来ました。食事準備で魔法を提供した後にすぐ寝てしまいますが、食べる時に再度起こすとちゃんと自分で食べます。
私はこんなに切り替え良く出来ない自信がありますね。
「はい……。このままでは丸々太ってしまいそうですよ」
「ブータンは太っている方が美味しいですからね」
「わ、私はブータンではありませんよ。……でもそれくらい丸くなったらどうしましょう」
唇を尖らせてみますが、実際そう思う程に身体を動かさないので不安を感じてしまいました。
「大丈夫ですよ。ヴォルティ様に頼めば、一日中でも運動させてくれるでしょうから」
「……それ、ヴォルに言ったら怒られそうな言葉ではありません?」
「おや、貴女も少しはしっかりしてきましたね。まぁさすがに私と致しましても、ところ構わずでは困りますがね」
ベンダーツさんと軽口を言い合えるなんて、本当に私も強くなったものです。それだけ彼に慣れたのもあるのでしょうけど。
私はヴォルが寝ているので必然的に抱き枕なのですが、ベンダーツさんも食事の準備以外はもう一つのベッドで横になっていました。彼の身体も体力回復の為に休養を求めているようです。
「これからどうするのですか?」
「そうですね。あちら側の出方にもよりますが、我々はまだセントラルに戻る訳にはまいりません。せめてこのグレセシオ大陸南部の調査を終えてからでないと、再度北上する意味はないですからね」
さすがに一日中寝ていたので、食後もなかなか睡魔が訪れません。
ベンダーツさんも同じなのか、私の会話に付き合ってくれました。
魔力の坩堝を探すというのが、今回の旅の趣旨です。
最南端はまだ少し先ですから、そこの調査もせずに戻ってしまえば、何の為にここまで来たのか分からない結果になってしまうのでした。
「その為にも、まずはヴォルティ様の回復を待たなければなりません。あちら側がこのまま大人しくしていてくれれば良いのですが」
片眼鏡がなくても、丁寧語のベンダーツさんに違和感を感じなくなっています。毎回、彼の切り替えの良さには驚きますが。
そして都度出てくる『あちら側』とは、サガルットの人達でした。ベンダーツさんは直接見ていないと言っていましたが、彼を拉致したのもサガルットの町長さんとユーニキュアさんのお父様かもです。
分からないのは理由ですね。
町長さんはユーニキュアさんのお父様に強く言われての事かも知れませんが、彼等の本来の目的は町の復興だった筈でした。
しかし冒険者と言えども人です。集団で襲えば何とかなるかもと思ったのでしょうか。
ベンダーツさんを説得しようとしたのか亡き者にしようとしたのかは不明ですが、そんな事をしたってヴォルがあの人達に従う訳がありませんでした。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる