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第六章
9.見なくて良い【2】
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「あ、あの……先程の言い方で大丈夫なのでしょうか」
スタスタと町長さんの屋敷を出て町を歩くベンダーツさんを、ただ後から追うだけのヴォルと私です。
ヴォルの隣で歩く私は、たまに後ろを振り返ったりしていました。勿論前方確認はヴォルです。
「何、大した事はないさ。それよりも買い出しだ。ここに来るまでに随分手持ちが心細くなったからな」
「……お前とは別行動をする」
気分の切り替えが早いベンダーツさんらしく、もう私達に向ける表情は穏やかでした。でもヴォルの反応は異なるもので──私は立ち止まった彼につられて足を止め、その顔を見上げます。
ヴォルの表情はあまり変化がありませんでしたが、怒っている訳ではなさそうでした。何か思い付いた事があるのでしょうか。
「あぁ、それでも構わないぜ?メルを連れて少し息抜きでもしてくると良いさ。俺はその間に必要な品物を購入してくるから。あ、あまりところ構わずいちゃつくなよなっ」
既に私達は商店の前にいたので、別行動を宣言したヴォルにベンダーツさんはにこやかに返しました。──い、いちゃつくとか言わないでくださいよ。
あちらこちら崩れかけているとはいえ、商店は頑張って営業を行っているようでした。
「行こう、メル」
「は、はい……」
ヴォルが戸惑う私の手を繋ぎます。そしてベンダーツさんの後ろを歩いてた私達は、行く先が変わりました。
お二人が別行動をとる事に私は口を出せないのですけど──何やら腑に落ちないのは考えすぎでしょうか。心配というか……、何やら言葉に出来ないもやもやが残ります。
「んじゃ、また後でな」
片手を上げて去っていくベンダーツさんの背中に心無しか不安を覚えつつ、彼も一人になりたい時があるかもしれないと無理矢理思い込もうとしました。
「メル」
「あ、はい」
私はヴォルと共に商店を軽く散策した後、町の防御壁を見に移動します。
商店は本当に見て回っただけなので、どうやらヴォルは何か気になるところがあるようでした。
「……どうかされたのですか?」
崩壊した辺りを重点的に調べていたヴォルですが、私にはサッパリ分かりません。
今の場所は一応町の中に位置する筈ですが、壁が大きく崩れているので正確な場所は不明です。でもヴォルが魔法で町を覆ってくれているので、現在地は彼の結界の中と同じで危険は感じませんでした。
「これを見て何か感じないか」
ヴォルが指し示した場所は、壁を支える大地──つまり地面です。
昨夜は闇が深かったので気付きませんでしたが、何だかその辺りだけ色が違いました。普通の土色ではなく、黒い──濡れた感じに見えます。
「ここ、何故濡れているのでしょうか。他の場所は乾いているのに、おかしいですね」
「……魔物の体液だ」
単純に疑問を口にした私ですが、ヴォルは瞳を細めて告げました。──え?
私は思わずヴォルを見上げます。
「この辺り一帯が魔物の体液で汚されている。染み込んだ体液が結界壁を侵食し、僅かな衝撃で崩壊するようになっていたのだ」
ヴォルが拾い上げた壁の一部を指先で押すと、それは易々と砂に変わりました。
でも体液と言うと、人の血液的なものですよね。それが何故、町の壁を変色させる程に振り撒かれているのですか?
「外を見てくる。メルはここに……」
「私も行きます」
その場に置いていかれそうな気配を察し、ヴォルの言葉に被せるように告げました。──嫌ですよ、こんなところで留守番なんて。
ヴォルと私は暫く無言で見つめ合います。いえ、言葉なき応酬でした。
「……そうか。行こう、メル」
そして根負けしたのか、小さく溜め息を吐いたヴォルに手を差し伸べられます。
勿論私は迷いなくその手をとりました。そして崩壊した元壁の瓦礫を飛び越え、町の外へ出ます。──あ、飛び越えたのは勿論ヴォルですけど。
私は当たり前のように彼に抱き上げられていました。ヴォルは私の重さプラスで軽々と跳躍するのですよ、本当に凄いです。
スタスタと町長さんの屋敷を出て町を歩くベンダーツさんを、ただ後から追うだけのヴォルと私です。
ヴォルの隣で歩く私は、たまに後ろを振り返ったりしていました。勿論前方確認はヴォルです。
「何、大した事はないさ。それよりも買い出しだ。ここに来るまでに随分手持ちが心細くなったからな」
「……お前とは別行動をする」
気分の切り替えが早いベンダーツさんらしく、もう私達に向ける表情は穏やかでした。でもヴォルの反応は異なるもので──私は立ち止まった彼につられて足を止め、その顔を見上げます。
ヴォルの表情はあまり変化がありませんでしたが、怒っている訳ではなさそうでした。何か思い付いた事があるのでしょうか。
「あぁ、それでも構わないぜ?メルを連れて少し息抜きでもしてくると良いさ。俺はその間に必要な品物を購入してくるから。あ、あまりところ構わずいちゃつくなよなっ」
既に私達は商店の前にいたので、別行動を宣言したヴォルにベンダーツさんはにこやかに返しました。──い、いちゃつくとか言わないでくださいよ。
あちらこちら崩れかけているとはいえ、商店は頑張って営業を行っているようでした。
「行こう、メル」
「は、はい……」
ヴォルが戸惑う私の手を繋ぎます。そしてベンダーツさんの後ろを歩いてた私達は、行く先が変わりました。
お二人が別行動をとる事に私は口を出せないのですけど──何やら腑に落ちないのは考えすぎでしょうか。心配というか……、何やら言葉に出来ないもやもやが残ります。
「んじゃ、また後でな」
片手を上げて去っていくベンダーツさんの背中に心無しか不安を覚えつつ、彼も一人になりたい時があるかもしれないと無理矢理思い込もうとしました。
「メル」
「あ、はい」
私はヴォルと共に商店を軽く散策した後、町の防御壁を見に移動します。
商店は本当に見て回っただけなので、どうやらヴォルは何か気になるところがあるようでした。
「……どうかされたのですか?」
崩壊した辺りを重点的に調べていたヴォルですが、私にはサッパリ分かりません。
今の場所は一応町の中に位置する筈ですが、壁が大きく崩れているので正確な場所は不明です。でもヴォルが魔法で町を覆ってくれているので、現在地は彼の結界の中と同じで危険は感じませんでした。
「これを見て何か感じないか」
ヴォルが指し示した場所は、壁を支える大地──つまり地面です。
昨夜は闇が深かったので気付きませんでしたが、何だかその辺りだけ色が違いました。普通の土色ではなく、黒い──濡れた感じに見えます。
「ここ、何故濡れているのでしょうか。他の場所は乾いているのに、おかしいですね」
「……魔物の体液だ」
単純に疑問を口にした私ですが、ヴォルは瞳を細めて告げました。──え?
私は思わずヴォルを見上げます。
「この辺り一帯が魔物の体液で汚されている。染み込んだ体液が結界壁を侵食し、僅かな衝撃で崩壊するようになっていたのだ」
ヴォルが拾い上げた壁の一部を指先で押すと、それは易々と砂に変わりました。
でも体液と言うと、人の血液的なものですよね。それが何故、町の壁を変色させる程に振り撒かれているのですか?
「外を見てくる。メルはここに……」
「私も行きます」
その場に置いていかれそうな気配を察し、ヴォルの言葉に被せるように告げました。──嫌ですよ、こんなところで留守番なんて。
ヴォルと私は暫く無言で見つめ合います。いえ、言葉なき応酬でした。
「……そうか。行こう、メル」
そして根負けしたのか、小さく溜め息を吐いたヴォルに手を差し伸べられます。
勿論私は迷いなくその手をとりました。そして崩壊した元壁の瓦礫を飛び越え、町の外へ出ます。──あ、飛び越えたのは勿論ヴォルですけど。
私は当たり前のように彼に抱き上げられていました。ヴォルは私の重さプラスで軽々と跳躍するのですよ、本当に凄いです。
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