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第六章
≪Ⅷ≫……嫌だったのか?【1】
しおりを挟む「……嫌だったのか?」
不思議そうな、でも痛そうな視線をヴォルに向けられてしまいました。
──そ、そんな筈がある訳ないじゃないですか!
恥ずかしかったのだと気付いてくださいって内心で叫びながら、嬉しかったのだと感じている自分に驚いています。
「ち、違いますっ!……でも本当に……すみません」
心の声に戸惑いながらも、私は再度頭を下げました。
真っ赤になった私を見て、漸くヴォルは何かに気付いたようです。今度は静かに私を抱き締め、ソッと髪に口付けを落としました。
──いえいえ、これも十分に恥ずかしいのですけれど。
「あ……、ユーニキュアさんがっ!」
突然思い出しました。照れている場合ではありません。
私はヴォルの腕の中から頭をあげ、彼に救出を依頼すべく口を──開けられませんでした。
「……っ!」
幾度もくっついては離れ、次第に深くなる口付け。何故こうなるのでしょう。
私は大して抵抗も出来ず唇をヴォルに塞がれ、そしているうちに息も絶え絶えになってしまいました。
「おいおい、ヴォル。それくらいにしないと、メルに嫌われるぞ」
隣からベンダーツさんの呆れた声音が投げ掛けられます。ベンダーツさんの助言に、漸くヴォルが私を解放してくれました。
──もぅ、勘弁してください。
脳内真っ白の私は魚になってしまったかのようで、パクパクと口を開閉するだけです。そしてまたそこに一度、軽く唇が触れました。
「行ってくる」
そしてその一言を告げます。すぐに反応出来ない私の頭を撫で、背を向けました。
しかしながらヴォルは私の言わんとする事が分かっていたようで、真っ直ぐ町の方へ進んで行きます。
──私、無駄にからかわれました?
「ったく、素直じゃねぇな。悪いな、メル。アイツ、燃料切れしてたんだ。メル切れ?初めて見たぞ、あの機嫌の悪さ。……俺としては人前での口付けは断固反対なんだが、さっきのヴォルには必要な事だったからな。嫌わないでやってくれ」
苦笑いのベンダーツさんでした。
もしかしてヴォルも私と同じ様に、会えない事を寂しく思ってくれたのでしょうか。
「き、嫌いになんて……なる訳ないです……」
小さく返した言葉は、ベンダーツさんに向けてではありませんでした。
だって私、ヴォルの事が好きです──とっても大切です。彼の事なら何でも許せてしまうと言っても過言ではありませんでした。
いえ、ご自分を大切にしてくれないところは怒りますけれど。
「そうか、良かったよ。さて、俺も手伝って来るかな。まだ魔力が完全に回復した訳じゃないから、無理もさせられないしな」
「えっ?!」
安心したような口調のベンダーツさんでしたが、続けられた内容に驚きます。
──魔力がって、どういう事ですか?
質問する気満々の私の視線に、ベンダーツさんが先に釘をさしました。
「あ~、俺に聞くなよ?ヴォルの事は、ヴォルに聞いてくれ。俺が勝手に話すと後で怒るんだよな、アイツ。あ、俺がアイツ呼ばわりしてるのも内緒な」
そう言って、軽く片手を振って背を向けたベンダーツさんです。
内緒?──本来はお付きの立場だからでしょうか。でも結構お互いに言い合っていますよね、いつも。
とにかく彼等が来てくれた事により、現状はかなり好転しそうでした。
町から見える大きな魔物は威圧感たっぷりなんですけどね。──って今更ですが、周囲にいた商団の方々から違う意味での圧力を感じます。
忘れていましたっ。
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