286 / 515
第六章
7.もう使えんな【3】
しおりを挟む
「しっかし、思っていたよりも凄まじい力だったなぁ」
いつの間にか口調が戻っていると思っていたが、あれは本人の動揺から現れたものか。逆に今は砕けた言い回しで、それが却ってわざとらしくも思えた。
あぐらをかいて大地に座っている格好は変わらず、グルリと首を回すようにベンダーツが周囲を見渡す。
しかしこの馴れ馴れしい話し方は、年齢差を考えるならば妥当かもしれないが初めから気に入らなかった。いつにもましてベンダーツの腹の中は中々読めない。
「鬱陶しかったからな。大半の魔力を練り込んだ」
事も無げに答えると、僅かにベンダーツが目を見開いた。
自分でも平時にはやらない珍しい行動だと思う。本当に地形を変える程の魔法が使えるなど笑止にも程があるが、周りに何もないこの場所だから出来ただけの事だ。
しかもその後、急激な魔力消耗による意識消失とは些か体裁が悪い。
「しかし…………、もう使えんな」
俺は動かない左腕を見やった。つられるようにベンダーツの視線も感じる。
「……急に倒れるから俺も心臓が止まったぜ。ヴォルが強いのはマジで良く分かったから、もう二度としないでくれよ。ただでさえストレス溜まる仕事をしてきたんだから、これ以上俺の寿命を縮めさせないでくれないか?」
「ふん。お前の寿命など知った事ではないが、目の前でショック死されても寝覚めが悪いからな。考慮してやる事にする」
本気か軽口かは分からないが、ベンダーツの言葉にのってやった。どちらにしても今はすぐに動けない。
僅かに和んだところで、精霊が慌ただしく飛び回っている事に気付いた。──何だ?
「……メルが?」
「何だ、どうした?」
ベンダーツが問い掛けてくるが、複数の精霊の声を聞き分けるのに忙しい。
普段から言いたい事を口にする性質の精霊だが、今は酷く慌てている様子で更に要領を得なかった。
「聞き取れない。落ち着いて話せないか」
俺の言葉に漸く精霊達が静まる。そうこうしている間に、いつも取りまとめをしている力のある精霊が出てきた。
人間の声とは違い、実際に声帯を震わせて音を出す訳ではない生命である。それでも俺に声として届くのは偏にこれ等精霊との繋がりでもあるのだと感謝したくなった。
「……分かった。ありがとう」
「な、何だよ……」
「メルに危険が迫っている」
精霊達に礼を告げる。すると即座にベンダーツが問い掛けてきた。
俺の様子から吉報ではない事が伝わったのだろうが、あまり口にもしたくない内容である。──精霊の情報では、何とかサガルットには到着したらしい事は分かった。だが、現地の方がダメだったとは。
「サガルットに着かなかったのか?」
「着いたようだが、サガルット自体が魔物に襲われていた」
「は?あの大きな町が、崩れたって言うのか?」
驚くベンダーツだが、俺も精霊からの情報なので詳しくは分からないのだ。
それでもメルの安全だけは、俺が魔法を施した腕輪の力もあって心配はしていない。だがそれ以外の人間は保障出来ないし、そもそも俺にとって重要ですらなかった。
「……戻れるのか?」
「すぐには難しい」
渋い顔で問い掛けてくる。俺は不本意ではあるが即答した。
行けない。
そうだ。行けるならすぐにでも飛んでいる。だが実際、今の俺の魔力残量ではこれ程離れてしまったメルの場所まで飛べなかった。
「すまない、ヴォル。俺にもっと力があれば良かったのに……」
「バカな事を言うな。俺がお前に求めているのはそんなものではない。更にこれに関する謝罪は受け付けない。あれは俺が自らの意思で行った事だ」
頭を下げるベンダーツの言葉を妨げる。
それに、悔やむ事など許されないのだ。メルに何かあってはならない。
「でもあの時魔法を使わなければ……」
「煩い。お前が危険だからあの魔法を放った訳ではないぞ、調子に乗るな。単に魔物の数が煩わしかっただけだ。それ以上グダグダ言うと、お前を吹き飛ばすぞ」
俺はベンダーツのそれ以上の言葉を封じた。
今は魔力の回復に専念しなくてはならない。一刻も早くメルの傍に行かなくてはならないのだ。
考えれば考える程、俺の精神を蝕む。あぁ、気が狂いそうだ。
いつの間にか口調が戻っていると思っていたが、あれは本人の動揺から現れたものか。逆に今は砕けた言い回しで、それが却ってわざとらしくも思えた。
あぐらをかいて大地に座っている格好は変わらず、グルリと首を回すようにベンダーツが周囲を見渡す。
しかしこの馴れ馴れしい話し方は、年齢差を考えるならば妥当かもしれないが初めから気に入らなかった。いつにもましてベンダーツの腹の中は中々読めない。
「鬱陶しかったからな。大半の魔力を練り込んだ」
事も無げに答えると、僅かにベンダーツが目を見開いた。
自分でも平時にはやらない珍しい行動だと思う。本当に地形を変える程の魔法が使えるなど笑止にも程があるが、周りに何もないこの場所だから出来ただけの事だ。
しかもその後、急激な魔力消耗による意識消失とは些か体裁が悪い。
「しかし…………、もう使えんな」
俺は動かない左腕を見やった。つられるようにベンダーツの視線も感じる。
「……急に倒れるから俺も心臓が止まったぜ。ヴォルが強いのはマジで良く分かったから、もう二度としないでくれよ。ただでさえストレス溜まる仕事をしてきたんだから、これ以上俺の寿命を縮めさせないでくれないか?」
「ふん。お前の寿命など知った事ではないが、目の前でショック死されても寝覚めが悪いからな。考慮してやる事にする」
本気か軽口かは分からないが、ベンダーツの言葉にのってやった。どちらにしても今はすぐに動けない。
僅かに和んだところで、精霊が慌ただしく飛び回っている事に気付いた。──何だ?
「……メルが?」
「何だ、どうした?」
ベンダーツが問い掛けてくるが、複数の精霊の声を聞き分けるのに忙しい。
普段から言いたい事を口にする性質の精霊だが、今は酷く慌てている様子で更に要領を得なかった。
「聞き取れない。落ち着いて話せないか」
俺の言葉に漸く精霊達が静まる。そうこうしている間に、いつも取りまとめをしている力のある精霊が出てきた。
人間の声とは違い、実際に声帯を震わせて音を出す訳ではない生命である。それでも俺に声として届くのは偏にこれ等精霊との繋がりでもあるのだと感謝したくなった。
「……分かった。ありがとう」
「な、何だよ……」
「メルに危険が迫っている」
精霊達に礼を告げる。すると即座にベンダーツが問い掛けてきた。
俺の様子から吉報ではない事が伝わったのだろうが、あまり口にもしたくない内容である。──精霊の情報では、何とかサガルットには到着したらしい事は分かった。だが、現地の方がダメだったとは。
「サガルットに着かなかったのか?」
「着いたようだが、サガルット自体が魔物に襲われていた」
「は?あの大きな町が、崩れたって言うのか?」
驚くベンダーツだが、俺も精霊からの情報なので詳しくは分からないのだ。
それでもメルの安全だけは、俺が魔法を施した腕輪の力もあって心配はしていない。だがそれ以外の人間は保障出来ないし、そもそも俺にとって重要ですらなかった。
「……戻れるのか?」
「すぐには難しい」
渋い顔で問い掛けてくる。俺は不本意ではあるが即答した。
行けない。
そうだ。行けるならすぐにでも飛んでいる。だが実際、今の俺の魔力残量ではこれ程離れてしまったメルの場所まで飛べなかった。
「すまない、ヴォル。俺にもっと力があれば良かったのに……」
「バカな事を言うな。俺がお前に求めているのはそんなものではない。更にこれに関する謝罪は受け付けない。あれは俺が自らの意思で行った事だ」
頭を下げるベンダーツの言葉を妨げる。
それに、悔やむ事など許されないのだ。メルに何かあってはならない。
「でもあの時魔法を使わなければ……」
「煩い。お前が危険だからあの魔法を放った訳ではないぞ、調子に乗るな。単に魔物の数が煩わしかっただけだ。それ以上グダグダ言うと、お前を吹き飛ばすぞ」
俺はベンダーツのそれ以上の言葉を封じた。
今は魔力の回復に専念しなくてはならない。一刻も早くメルの傍に行かなくてはならないのだ。
考えれば考える程、俺の精神を蝕む。あぁ、気が狂いそうだ。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる