「結婚しよう」

まひる

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第六章

7.もう使えんな【3】

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「しっかし、思っていたよりも凄まじい力だったなぁ」

 いつの間にか口調が戻っていると思っていたが、あれは本人の動揺から現れたものか。逆に今は砕けた言い回しで、それがかえってわざとらしくも思えた。
 あぐらをかいて大地に座っている格好は変わらず、グルリと首を回すようにベンダーツが周囲を見渡す。
 しかしこの馴れ馴れしい話し方は、年齢差を考えるならば妥当かもしれないが初めから気に入らなかった。いつにもましてベンダーツの腹の中は中々読めない。

「鬱陶しかったからな。大半の魔力を練り込んだ」

 事も無げに答えると、わずかにベンダーツが目を見開いた。
 自分でも平時にはやらない珍しい行動だと思う。本当に地形を変える程の魔法が使えるなど笑止しょうしにも程があるが、周りに何もないこの場所だから出来ただけの事だ。
 しかもその後、急激な魔力消耗による意識消失とはいささ体裁ていさいが悪い。

「しかし…………、もう使えんな」

 俺は動かない左腕を見やった。つられるようにベンダーツの視線も感じる。

「……急に倒れるから俺も心臓が止まったぜ。ヴォルが強いのはマジで良く分かったから、もう二度としないでくれよ。ただでさえストレス溜まる仕事をしてきたんだから、これ以上俺の寿命を縮めさせないでくれないか?」

「ふん。お前の寿命など知った事ではないが、目の前でショック死されても寝覚めが悪いからな。考慮してやる事にする」

 本気か軽口かは分からないが、ベンダーツの言葉にのってやった。どちらにしても今はすぐに動けない。
 わずかになごんだところで、精霊が慌ただしく飛び回っている事に気付いた。──何だ?

「……メルが?」

「何だ、どうした?」

 ベンダーツが問い掛けてくるが、複数の精霊の声を聞き分けるのに忙しい。
 普段から言いたい事を口にする性質の精霊だが、今は酷く慌てている様子で更に要領を得なかった。

「聞き取れない。落ち着いて話せないか」

 俺の言葉にようやく精霊達が静まる。そうこうしている間に、いつも取りまとめをしている力のある精霊が出てきた。
 人間の声とは違い、実際に声帯を震わせて音を出す訳ではない生命である。それでも俺に声として届くのはひとえにこれ精霊との繋がりでもあるのだと感謝したくなった。

「……分かった。ありがとう」

「な、何だよ……」

「メルに危険が迫っている」

 精霊達に礼を告げる。すると即座にベンダーツが問い掛けてきた。
 俺の様子から吉報ではない事が伝わったのだろうが、あまり口にもしたくない内容である。──精霊の情報では、何とかサガルットには到着したらしい事は分かった。だが、現地の方がダメだったとは。

「サガルットに着かなかったのか?」

「着いたようだが、サガルット自体が魔物に襲われていた」

「は?あの大きな町が、崩れたって言うのか?」

 驚くベンダーツだが、俺も精霊からの情報なので詳しくは分からないのだ。
 それでもメルの安全だけは、俺が魔法をほどこした腕輪の力もあって心配はしていない。だがそれ以外の人間は保障出来ないし、そもそも俺にとって重要ですらなかった。

「……戻れるのか?」

「すぐには難しい」

 渋い顔で問い掛けてくる。俺は不本意ではあるが即答した。
 行けない。
 そうだ。行けるならすぐにでも飛んでいる。だが実際、今の俺の魔力残量ではこれ程離れてしまったメルの場所まで飛べなかった。

「すまない、ヴォル。俺にもっと力があれば良かったのに……」

「バカな事を言うな。俺がお前に求めているのはそんなものではない。更にこれに関する謝罪は受け付けない。あれは俺が自らの意思で行った事だ」

 頭を下げるベンダーツの言葉を妨げる。
 それに、悔やむ事など許されないのだ。メルに何かあってはならない。

「でもあの時魔法を使わなければ……」

うるさい。お前が危険だからあの魔法を放った訳ではないぞ、調子に乗るな。単に魔物の数がわずらわしかっただけだ。それ以上グダグダ言うと、お前を吹き飛ばすぞ」

 俺はベンダーツのそれ以上の言葉を封じた。
 今は魔力の回復に専念しなくてはならない。一刻も早くメルのそばに行かなくてはならないのだ。
 考えれば考える程、俺の精神をむしばむ。あぁ、気が狂いそうだ。
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