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第六章
≪Ⅶ≫もう使えんな【1】
しおりを挟む「サガルットだ……っ!」
「漸く町に……っ!」
背後の商団の方々から喜びの声が聞こえてきます。
そうなのです。私達は必死に進み続け、やっとの事でサガルットの町を目前にしたのでした。──はい、まだ到着してはいませんが。
「着いた……のですか?」
「えぇ、あの町がサガルットよ」
一人でウマウマさんに乗る事、一日半。
こんなにも一人でウマウマさんに乗っていた事は初めてで、これまでの旅でどれだけヴォルに支えていてもらったのかを痛感したのです。
そんな私は身体全体が鉛のように重く感じながらも、何とか目前に見えるサガルットの町へ視線を走らせました。
「おい……、何か変じゃないか?」
「……あの煙りは何だ?」
ですが、近付くにつれて見えてくる物が変わります。商団の方々の不安を乗せた声が、酷く大きく聞こえました。
視界に映るのは、明らかに平和な風景ではないのです。
違和感──それ以外の何物でもありませんでした。
「止まりましょう」
私の声に全体の歩みが止められます。
しかしながら、そんな私の背中に不満の声がぶつけられました。
「何よ。どうしたって言うの?行かなきゃ分からないじゃない。何かあったようなら、尚更行かないとっ」
「すみません、ユーニキュアさん。ですが私は、私自身を中心にこの商団を守る結界をヴォルに張ってもらっています。私にはこの商団を守る義務があります」
不安を逆に感じ、今すぐにでも走っていきそうなユーニキュアさんを止めます。
振り返って──馬上ではありますが──頭を深く下げました。
「そんな……事、ここまで来たらもう大丈夫よっ」
「……ユーニキュアさん。貴女も不安を感じているのではありませんか?私は不安です。このまま進んで良いのか。結界は術者から離れてどのくらいの強度を維持出来るのか。私の判断は間違っていないのか」
私は出来るだけ静かな声音で話すように心掛けます。真っ直ぐユーニキュアさんの目を見て、彼女の心に届くように言葉を続けました。
これ以上興奮させないように、言葉とは違って必死に自分の不安を隠します。
「何よ……、もう目の前なのよ?」
「だからこそ、です」
更なる進行を訴えるユーニキュアさんに、私は視線を逸らす事なく答えました。
言葉をいくら尽くしても、人の思いは簡単に変える事は出来ません。私は黙って彼女の判断に委ねました。
「……はぁ……、分かったわ。一旦ここで休息をとります」
どれだけ見つめ合ったのか、大きな溜め息を一つついてからユーニキュアさんが告げます。
渋々な感じは否めませんが、とりあえず立ち止まる事に同意をしていただけたようなので安心しました。さすがに多数決とかされると、アウェイの私には勝ち目がありませんから。
「ありがとうございます」
私は深く頭を下げ、ユーニキュアさんの判断に感謝しました。
焦りは禁物です。いえ、一番焦っているのは私なのでしょうけど。──そうなのです。ヴォル達がまだ戻ってきていませんでした。
戻ってきて──いないのです。
「メルも食事をした方が良いわ」
ユーニキュアさんがそう言って、私に食事の乗ったプレートを差し出してくれました。
「あ……、ありがとうございます」
プレートを受け取った私の声は、少なからず震えていました。
ここに来る迄にも何度か休憩を挟みましたが、私の食欲は全くといって良い程沈黙を貫いています。プレートの上に並んでいる携帯食料を見ている今も、全然食べたいと思えませんでした。
商団の皆さんは私からあまり離れず──それでも思い思いの場所で寛いでいるようで、それぞれが食事を口にしています。
もしくは、その不安を隠すように食事をしているのかもしれません。
「食べなきゃ、いざと言う時に立てないですものね」
「……そう……ですよね」
私が周りの人ばかり見ているのを気になったのか、ユーニキュアさんは独り言のようにポツリと呟きました。
勿論私だって皆さんの足手まといになる訳にはいきません。食欲は全くといって良い程ありませんが、無理にでも口に押し込めました。
ヴォルがいない不安に僅かな事で涙しそうになる今の私でしたが、それでも必死に食事と一緒に涙を飲み込んだのです。
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