「結婚しよう」

まひる

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第六章

6.抑えが利(きか)なくなる【3】

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 やはり──魔物の数が前回の旅の時より多いような気がします。
 こちらの行軍が大所帯という事もありますが、進みが遅いのが一番の問題でした。ウマウマさんが足りず、徒歩での進行なのでやむを得ないのです。
 幾度も進む足を停められ、その都度ヴォルとベンダーツさんが討伐へ出向く事になっていました。

「進行が遅れているなぁ」

 地図を見て苦い顔をしながら、並走しているベンダーツさんが呟きます。つい先程も魔物が複数で襲い掛かって来たばかりでした。
 商団のみなさんはほとんど戦う力が残ってないのです。これ以上魔物の被害に合わないように、身を寄せ合うのが精一杯でした。

「旅慣れない徒歩がいるからなぁ。っうか、ウマウマが少なすぎる」

「煩い、マーク。愚痴ばかりこぼすのなら、先回りして魔物討伐でもしてきたらどうだ」

 小さくない呟きのベンダーツさんにヴォルが告げます。
 表情までは分かりませんが、ヴォルも苛立ちを隠せないようでした。

「俺は魔物避けかよ。だいたいヴォルこそ、魔物の気配が分かるんじゃないのか?けろよ」

「勿論分かっているな。事実を知りたいか」

「……知りたくないなぁ。どうせ、嫌と言う程いるんだろう?」

「お前も分かっているではないか。これでもけて移動している」

「うげ……マジか。冗談って事でいさせてほしいぜぇ。それなら結界を張りながら進めないのか?」

 うんざりとした表情のベンダーツさんです。軽口を叩くのは、現実逃避の意味があるようでした。
 しかしながら、そうですよね。このままでは、ヴォルとベンダーツさんがバテてしまいます。

「残念だ。これでも結界を張っている」

「えっ?!それでも襲われるのですか?」

 淡々と告げたヴォルの言葉に、私の方が驚いてしまいました。
 前回の二人旅では、結界を張っている時は安全だったと思います。

「今の状況は魔物の巣の中を縦断しているようなものだ。結界を張る事自体は相手から見えなくする訳ではない。魔物からは視認しにくくなるだけだ。ぶつかる程混雑した現状では、こちらの存在を隠すにも限度がある」

 私の驚きに、丁寧な説明をしてくれるヴォルでした。
 つまりは結界がなければ、周囲360°から魔物の総攻撃な感じでしょうか。──こ、怖すぎます。私、死にますか?

「こうなったらヴォル、魔法でドカッと一斉攻撃出来ないのか?」

「普段は魔法を嫌うお前がそれを言うとはな」

 皮肉ひにくるヴォルですが、ベンダーツさんは至って真顔でした。
 さすがのベンダーツさん自身も疲れが隠せないと言う事でしょうか。

「状況判断だよ。で、どうなんだよ」

「出来る。やろうと思えば、な」

 周囲を警戒しながらも、ベンダーツさんはヴォルに問い掛けます。ヴォルは小さく息を吐くと、半ば投げやりに聞こえる返答を返しました。
 えっと──やろうと思えばっていう事は、思えない事情があるのでしょう。

「なら……」

「地形が変わるぞ」

 その返答に賛同しようとしたベンダーツさんでしたが、続けられたヴォルの言葉に顔をひきつらせました。
 はい、理由が凄まじいです。でも、それほど強力な魔法を放たないとならないという事ですよね。

「……だよなぁ。過去に例を見ない程の精霊つきだ。強力な魔法を使えて当然か。だが、何もかも吹っ飛ばす訳にもいかないよなぁ。って言うか、魔力を抑えて戦っているのもそれが理由か?」

「気付いていたのか」

「何年一緒にいると思ってんの。義手に負担を掛けないようにって意図もあるんだろうけど、それ以上に周囲の影響を考えて魔法を使ってるよな」

 ベンダーツさんの指摘に、私は旅の始めの頃を思い出しました。
 確かに義手では魔力の流れが乱れるからという理由で、魔法を使う事を極力避けるように言われていたのです。特に、炎系の魔法を使わないようにと注意を受けていました。

「お前に分かられても気持ち悪いだけだ」

「ぅわ、酷いの~。メル、可哀想な俺を慰めてよ」

「ウフフ。軽口を言うベンダーツさんは、案外好きですね」

「案外……?」

 いつものやり取りにのって返した私の返答に、不機嫌そうなヴォルの声が続きます。

「やったね!とりあえず、好きって言われて気分良いや」

 わずかに眉を上げたヴォルにベンダーツさんが笑顔で答えてくれたのですが、ヴォルは後ろにいるので私は表情までは気付きませんでした。
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