「結婚しよう」

まひる

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第六章

6.抑えが利(きか)なくなる【2】

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 それにしても、あのまま眠ってしまう私ってどうなのでしょうか。──えぇ、気付いたら朝でしたよ。
 そうなのです。私はヴォルの腕の中で、一人だけ寝てました。

「すみません……」

「問題ない。俺も休んだ」

「本当ですか?」

 申し訳なく思い深く頭を下げると、妙にすっきりとした顔で返されます。
 しかしながら、私を抱き留めたままでしたよ?普通に考えてそんな体勢では寝られる筈がないと、私は疑わし気な問い掛けをしてしまいました。

「俺がメルに嘘を言った事はないだろ」

「はい、それはそうです……けど…………分かりました、はい」

 問い返すように小首をかしげられれば、首肯せざるを得ません。
 りとて納得した訳ではなく、ヴォルは私に『嘘』は言いませんが『隠し事』はしますよねと言いたくなりました。
 うぅ……っ、でもこれ以上の追求は良くありませんね。話を変えましょう。

「もうサガルットの町へ出発するのですか?」

「そうだ。アイツ等が先程灰を集めていたからな。そろそろ出られる頃だろ」

 私の話を変えよう作戦にすぐに同調してくれたヴォルでした。
 話ながらもウマウマさんの荷物を確認していたヴォルでしたが、不意に視線を向けた方を私も見ます。確かにそこにあったテントは片付けられ、修繕を施した馬車に怪我人が優先的に乗り込んでいるようでした。

「俺達はこのままウマウマで行く。単独行動の方が魔物との戦闘に利があるからな」

 それまであれこれと商団の世話を焼いていたベンダーツさんは、自らの荷物を肩に担いで歩み寄ってきます。
 そうでした。サガルットまではまだまだ距離があります。先程ベンダーツさんが後二日は掛かると言われていました。勿論魔物はそこらじゅうにいる訳で、全く戦闘なしでは町に辿り着く事が出来ないと思われます。

「ヴォル、行けるか?」

「あぁ」

 自分用のウマウマさんに荷をくくりつけたベンダーツさんの問いに答えたヴォルは、いつものように軽々と私をウマウマさんに乗せてくれました。
 その間にもサガルットの商団の方々は手際が良く、それぞれが馬車に乗り込んだり荷物を背負ったりしています。どうやら、馬車に乗れない人々は歩いて行くようでした。

「歩いて行く人もいるのですね」

 背後を振り返りながらヴォルに問い掛けます。既に手綱を握っているヴォルですが、周囲に警戒の視線を走らせていました。
 いまだ結界を解除してはいませんが、夜の間にも魔物は徘徊していたと聞いたので安心は出来ません。

「そのようだな。横にさせなければならない怪我人が多くいる為だろう。連れてきていたウマウマも多数逃げてしまったらしい。あの壱の姫とやらもさすがに歩くようだな」

 事も無げにヴォルが告げました。それを聞くと、荷馬車が幾つか修理出来ただけでも良かったのでしょう。
 ところで私は、ヴォルから『壱の姫』と言われて初めは首をかしげてしまいました。でもすぐにユーニキュアさんであると分かったと同時に驚きます。
 ──歩くのですか。

「ユーニキュアさんは大丈夫でしょうか」

 私は眉尻を下げ、商団の方々に視線を向けました。
 勿論女性の方は他にもいらっしゃいますが、彼女は貴族の方です。普段から長距離を自分の足で歩くなどした事がないでしょう事は、あの色白の肌を見ても分かりました。──と言うか、農村出身の私でも旅ではほとんどウマウマさんの上です。

「問題ない。俺達の受けた依頼はサガルットまでの護衛だ。他の事に気を回しやる必要はない」

 さらりと言って退けるヴォルでした。でもそうかと言って、こちら側もウマウマさんに余裕はありません。
 ──そんなものなのですかね。
 必要以上に気を回す事はしなくて良いでしょうが、二日は同行者なのでした。
 皆がそれぞれの役割をになって、この世界が成り立っているのです。
 私も可能な限りお手伝いをしたいと思います。
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