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第六章
4.貴族だろうが俺には関係がない【3】
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「……ここ……は……?」
突然聞こえた綺麗な声に振り向くと、ベンダーツさんが連れてきた綺麗なお姉さんが身体を起こしているところでした。
見たところ怪我などはしていなさそうですが、意識を失っていたので安心は出来ません。
「おはようございます。あの、痛いところとかはないですか?」
「……誰、貴女」
お客様とかではない初対面の方とお話しするのは得意ではありませんが、そうも言っていられないので私は頑張って笑顔で問い掛けます。
ですが一瞬の間の後、綺麗なお姉さんの綺麗な声で告げられた冷たい言葉でした。
はい、綺麗なお姉さん方は総じて私に対して態度がキツいようです。──もう慣れましたよ、お城で散々言われてきましたし。
「私はメルです。お姉さんはどちら様ですか?」
「……何で貴女なんかに名乗らなくてはならないの」
遠い目をしそうになりましたが、とにかく彼女からの誰何に答えました。そしてついでとばかりに新たな問いを投げ掛け、玉砕します。
アハハ──、私はどうしたら良いですか?
「そ、そうですね……」
「あの人達は何なのよ」
何を言ってもダメなのかと曖昧な笑みで返せば、今度はお姉さんからの問い掛けでした。
ま、また彼女からの質問ターンですか?しかしながら私の質問には答えてくれないという事のようです。
「えっと……、ヴォルとマークさんです」
「どっちがどっちよ」
目の前にいる相手に対していつまでも口をつぐんでいる訳にもいかず、私は二人の冒険者仕様での名前を伝えました。
今度は意識していた為にベンダーツさんの名前を間違えないで言えたのですが、更なる彼女からの問い掛けです。
「濃紺の髪の双剣使いがヴォルで……」
「マトモな顔をしているじゃない」
「え……?」
エンドレスで一方的な質問攻めにめげそうになりつつも答えると、それまでとは違って口端を上げるお姉さんでした。
しかしながら、何だか嫌な予感しかしないのですけど。
「気に入ったわ。あれ、私がもらう」
独り言なのか私に対する宣言なのか、お姉さんは遠くで魔物と戦うヴォルを見て告げます。
はい?──えっと、今のって……。
思わず私は首を傾げてしまいました。
「呼んできなさい」
「えっと、あの……」
横座りになったままのお姉さんは、当たり前のように視線だけで私に命じます。
勿論私は当惑を隠せませんでした。
「聞こえなかったのかしら」
「き、聞こえましたけど……」
「それなら早くしなさい。私のものにするのだから」
高圧的な態度です。自分の言葉が拒否される事を知らない人のようでした。──で、でもこれは負けていられませんっ。
私はグッと両手を握り締め、震えそうになる身体を留めます。
「早く」
「嫌ですっ」
更に強い口調で命じられたのですが、私は意を決して拒絶しました。
叫ぶように告げた言葉は、情けない事に少しだけ震えてしまいましたが。
「何言って……」
「ヴォルはダメですっ。絶対にダメです!」
拒絶に戸惑いを見せたお姉さんに、私は拳を握り締めたまま勢い良く立ち上がって拒否する言葉を続けます。
「何を……」
「ヴォルは私のですっ」
綺麗な顔の整った眉根を寄せ、お姉さんが不快感を顕にしました。それでも私にここで撤退する意思はありません。
更に興奮して叫んでいる私は、何を口走っているのか分かってなかったのでした。
「そうだ。俺はメルのものだ」
突然割って入ってきた声が私の言葉に続きます。
ドキリとしました。反射的にビクッと跳ねる身体を大きな腕に抱き留められ、その匂いと温度で安心に包まれます。
「あ……あの……、ヴォル?」
首筋に顔を埋められ、心臓が一人駆け足を始めました。
私はその動揺を可能な限り抑え、自分の肩から垂れる普段は届かない位置にあるヴォルの濃紺の髪を撫でます。
サラサラと絹のような柔らかな手触りをその手に感じながら、先程までの状況を思い返しました。──私、綺麗なお姉さんに噛み付いてしまったようです。
思い出したと同時に視線を向けると、やはりというか歪んだ顔をされていました。
「あ、あのっ!?」
「貴方とどういう関係?」
慌てて声を上げるも、私の言葉は引き続き完全スルーです。剣呑な雰囲気を纏ったままではありますが、彼女はヴォルに問い掛けました。
そもそも私の質問に答える気はなかったですね。でもそんなに怖い顔をされていたら、折角の綺麗なお顔が勿体ないです。
突然聞こえた綺麗な声に振り向くと、ベンダーツさんが連れてきた綺麗なお姉さんが身体を起こしているところでした。
見たところ怪我などはしていなさそうですが、意識を失っていたので安心は出来ません。
「おはようございます。あの、痛いところとかはないですか?」
「……誰、貴女」
お客様とかではない初対面の方とお話しするのは得意ではありませんが、そうも言っていられないので私は頑張って笑顔で問い掛けます。
ですが一瞬の間の後、綺麗なお姉さんの綺麗な声で告げられた冷たい言葉でした。
はい、綺麗なお姉さん方は総じて私に対して態度がキツいようです。──もう慣れましたよ、お城で散々言われてきましたし。
「私はメルです。お姉さんはどちら様ですか?」
「……何で貴女なんかに名乗らなくてはならないの」
遠い目をしそうになりましたが、とにかく彼女からの誰何に答えました。そしてついでとばかりに新たな問いを投げ掛け、玉砕します。
アハハ──、私はどうしたら良いですか?
「そ、そうですね……」
「あの人達は何なのよ」
何を言ってもダメなのかと曖昧な笑みで返せば、今度はお姉さんからの問い掛けでした。
ま、また彼女からの質問ターンですか?しかしながら私の質問には答えてくれないという事のようです。
「えっと……、ヴォルとマークさんです」
「どっちがどっちよ」
目の前にいる相手に対していつまでも口をつぐんでいる訳にもいかず、私は二人の冒険者仕様での名前を伝えました。
今度は意識していた為にベンダーツさんの名前を間違えないで言えたのですが、更なる彼女からの問い掛けです。
「濃紺の髪の双剣使いがヴォルで……」
「マトモな顔をしているじゃない」
「え……?」
エンドレスで一方的な質問攻めにめげそうになりつつも答えると、それまでとは違って口端を上げるお姉さんでした。
しかしながら、何だか嫌な予感しかしないのですけど。
「気に入ったわ。あれ、私がもらう」
独り言なのか私に対する宣言なのか、お姉さんは遠くで魔物と戦うヴォルを見て告げます。
はい?──えっと、今のって……。
思わず私は首を傾げてしまいました。
「呼んできなさい」
「えっと、あの……」
横座りになったままのお姉さんは、当たり前のように視線だけで私に命じます。
勿論私は当惑を隠せませんでした。
「聞こえなかったのかしら」
「き、聞こえましたけど……」
「それなら早くしなさい。私のものにするのだから」
高圧的な態度です。自分の言葉が拒否される事を知らない人のようでした。──で、でもこれは負けていられませんっ。
私はグッと両手を握り締め、震えそうになる身体を留めます。
「早く」
「嫌ですっ」
更に強い口調で命じられたのですが、私は意を決して拒絶しました。
叫ぶように告げた言葉は、情けない事に少しだけ震えてしまいましたが。
「何言って……」
「ヴォルはダメですっ。絶対にダメです!」
拒絶に戸惑いを見せたお姉さんに、私は拳を握り締めたまま勢い良く立ち上がって拒否する言葉を続けます。
「何を……」
「ヴォルは私のですっ」
綺麗な顔の整った眉根を寄せ、お姉さんが不快感を顕にしました。それでも私にここで撤退する意思はありません。
更に興奮して叫んでいる私は、何を口走っているのか分かってなかったのでした。
「そうだ。俺はメルのものだ」
突然割って入ってきた声が私の言葉に続きます。
ドキリとしました。反射的にビクッと跳ねる身体を大きな腕に抱き留められ、その匂いと温度で安心に包まれます。
「あ……あの……、ヴォル?」
首筋に顔を埋められ、心臓が一人駆け足を始めました。
私はその動揺を可能な限り抑え、自分の肩から垂れる普段は届かない位置にあるヴォルの濃紺の髪を撫でます。
サラサラと絹のような柔らかな手触りをその手に感じながら、先程までの状況を思い返しました。──私、綺麗なお姉さんに噛み付いてしまったようです。
思い出したと同時に視線を向けると、やはりというか歪んだ顔をされていました。
「あ、あのっ!?」
「貴方とどういう関係?」
慌てて声を上げるも、私の言葉は引き続き完全スルーです。剣呑な雰囲気を纏ったままではありますが、彼女はヴォルに問い掛けました。
そもそも私の質問に答える気はなかったですね。でもそんなに怖い顔をされていたら、折角の綺麗なお顔が勿体ないです。
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