268 / 515
第六章
3.ないと困るのだろ【5】
しおりを挟む
「ヴォルはメルに後悔させたいのか?」
「有り得ない。俺はメルを守ると決めた。身も心も一片の傷も付けさせない」
嘲るような問い掛けをするベンダーツさんに、ヴォルは迷いなく断言しました。
──というかそれ、激しく恥ずかしい台詞なのではないでしょうか?
時折ヴォルはこういう物凄いストレートな言い方をするのですが、それが私の心臓に悪いって事はまさか知らないでしょうね。
「それだよ。……ってかそこまで言うか、ったく。ともかく、メルを守るならヴォル自身も守らなくてはならない。ヴォルが傷付けば当然メルが傷付く。分かれよ」
「…………」
ヴォルの視線が私に向けられているのが分かります。後頭部に突き刺さる視線を受け、先程の言葉によって熱を持った頬が今度はひきつりそうでした。
このまま無言で見つめられているとハゲそうです。私は意を決して振り返り、ヴォルを見上げました。
ウマウマさんに乗っているので真っ直ぐ向き合えないのが残念ですけれど、それでも彼の青緑の瞳を見つめます。ベンダーツさんの言わんとする事は、まさに私が常日頃から思っている事なのですから。
「っ!?」
不意打ちでした。
突然ヴォルの顔が降ってきたのです。──いえ、なんと言うか。
「おいこら、俺の目の前でナニするな!」
ベンダーツさんが並走するウマウマさんから叫びました。
はい。今のヴォルと私は唇と唇を重ねて──って真っ赤になっているであろう私は置いておいて、何故かベンダーツさんも赤面しています。
ヴォルはいつもの──感情があまり現れていない表情でしたが、瞳だけは熱いモノを滾らせているのでした。
えぇ、あまりの事に瞳を閉じる暇がなかったのですよ。
「く、口付けは神聖な……っ」
「お前は目の前に旨い物があって、手を出さない自信があるのか」
赤面したままで言い淀むベンダーツさんに、何故か偉そうなヴォルです。
だいたい、美味しそうな物って私の事ですか?
「何を……っ?」
「俺はメルと出会って知ったが……、甘美なる誘惑とは逃れがたいものだぞ」
意味が通じていないベンダーツさんですが、ヴォルは続けて煽りました。
しかしながら強くヴォルに抱き寄せられている私の思考は、現在進行形で停止中なのです。反論もツッコミもお休みでした。
「年のわりに子供なのはお前の欠点でもあるな」
「……貴方が大人しく帝位を継いていれば、私にも所帯を持つ余裕が出来た筈なのですけどね」
「それは残念だったな」
知らなかったですが、ベンダーツさんは思ったより初なようです。
そして彼等の間には何やら不思議な空気が流れていました。
ヴォルの腕の中でそれをボンヤリと感じていた私ですが、突然立ち止まったウマウマさんの嘶きで我に返りましたよ。
「っ?!」
「襲われているな」
前方に巻き上がる砂埃と共に怒号、悲鳴が聞こえます。
静かに告げたヴォルですが、そんなに落ち着いていても良いのですか?!
「おいおい。もう少し切羽詰まった状況だと思うが?」
ベンダーツさんまでもが、先程の動揺を見せない落ち着きぶりでした。──ってだから。
「助けないのですか?!」
思わず声に出してしまいましたが、そこは仕方がない事にしてください。
私は間違ってないですよね?だって、目の前──点のようにしか見えませんが──で魔物に襲われている商団がいるのですよ?
あ、商団であるだろうという判断はたくさんの荷馬車がありますからね。
「護衛がいる」
冷静なヴォルの声に、私も良く状況を見てみました。距離があって人の顔までは判別出来ませんが、大まかな状況判断は可能です。
確かに襲われている商団のあちこちで、鎧を装備した数人による魔法や武器を使っての戦闘が行われているようでした。
それでも見ている限り魔物の方が優勢で、倒れて動けなくなってしまっている人の数が多くなっています。
「ヴォル……」
私は深く考える事なく、視線をヴォルに向けていました。あの人達を助けて欲しいと、そう目で訴えたのです。
浅慮な私の、これは単なる我が儘でしかなかったのかもしれません。
「有り得ない。俺はメルを守ると決めた。身も心も一片の傷も付けさせない」
嘲るような問い掛けをするベンダーツさんに、ヴォルは迷いなく断言しました。
──というかそれ、激しく恥ずかしい台詞なのではないでしょうか?
時折ヴォルはこういう物凄いストレートな言い方をするのですが、それが私の心臓に悪いって事はまさか知らないでしょうね。
「それだよ。……ってかそこまで言うか、ったく。ともかく、メルを守るならヴォル自身も守らなくてはならない。ヴォルが傷付けば当然メルが傷付く。分かれよ」
「…………」
ヴォルの視線が私に向けられているのが分かります。後頭部に突き刺さる視線を受け、先程の言葉によって熱を持った頬が今度はひきつりそうでした。
このまま無言で見つめられているとハゲそうです。私は意を決して振り返り、ヴォルを見上げました。
ウマウマさんに乗っているので真っ直ぐ向き合えないのが残念ですけれど、それでも彼の青緑の瞳を見つめます。ベンダーツさんの言わんとする事は、まさに私が常日頃から思っている事なのですから。
「っ!?」
不意打ちでした。
突然ヴォルの顔が降ってきたのです。──いえ、なんと言うか。
「おいこら、俺の目の前でナニするな!」
ベンダーツさんが並走するウマウマさんから叫びました。
はい。今のヴォルと私は唇と唇を重ねて──って真っ赤になっているであろう私は置いておいて、何故かベンダーツさんも赤面しています。
ヴォルはいつもの──感情があまり現れていない表情でしたが、瞳だけは熱いモノを滾らせているのでした。
えぇ、あまりの事に瞳を閉じる暇がなかったのですよ。
「く、口付けは神聖な……っ」
「お前は目の前に旨い物があって、手を出さない自信があるのか」
赤面したままで言い淀むベンダーツさんに、何故か偉そうなヴォルです。
だいたい、美味しそうな物って私の事ですか?
「何を……っ?」
「俺はメルと出会って知ったが……、甘美なる誘惑とは逃れがたいものだぞ」
意味が通じていないベンダーツさんですが、ヴォルは続けて煽りました。
しかしながら強くヴォルに抱き寄せられている私の思考は、現在進行形で停止中なのです。反論もツッコミもお休みでした。
「年のわりに子供なのはお前の欠点でもあるな」
「……貴方が大人しく帝位を継いていれば、私にも所帯を持つ余裕が出来た筈なのですけどね」
「それは残念だったな」
知らなかったですが、ベンダーツさんは思ったより初なようです。
そして彼等の間には何やら不思議な空気が流れていました。
ヴォルの腕の中でそれをボンヤリと感じていた私ですが、突然立ち止まったウマウマさんの嘶きで我に返りましたよ。
「っ?!」
「襲われているな」
前方に巻き上がる砂埃と共に怒号、悲鳴が聞こえます。
静かに告げたヴォルですが、そんなに落ち着いていても良いのですか?!
「おいおい。もう少し切羽詰まった状況だと思うが?」
ベンダーツさんまでもが、先程の動揺を見せない落ち着きぶりでした。──ってだから。
「助けないのですか?!」
思わず声に出してしまいましたが、そこは仕方がない事にしてください。
私は間違ってないですよね?だって、目の前──点のようにしか見えませんが──で魔物に襲われている商団がいるのですよ?
あ、商団であるだろうという判断はたくさんの荷馬車がありますからね。
「護衛がいる」
冷静なヴォルの声に、私も良く状況を見てみました。距離があって人の顔までは判別出来ませんが、大まかな状況判断は可能です。
確かに襲われている商団のあちこちで、鎧を装備した数人による魔法や武器を使っての戦闘が行われているようでした。
それでも見ている限り魔物の方が優勢で、倒れて動けなくなってしまっている人の数が多くなっています。
「ヴォル……」
私は深く考える事なく、視線をヴォルに向けていました。あの人達を助けて欲しいと、そう目で訴えたのです。
浅慮な私の、これは単なる我が儘でしかなかったのかもしれません。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる