「結婚しよう」

まひる

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第六章

≪Ⅱ≫説明が面倒だ【1】

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 クスカムの集落に戻った私達は、既に戻っていたベンダーツさんと合流します。
 どうやらベンダーツさんとネパルさんの方が早かったようでした。

「いつまでいちゃついてるんだよ。遅いっての」

「お前には関係ない。それよりネパルはどうした」

 ベンダーツさんの怒りを一蹴すると、ヴォルは姿の見えないネパルさんの行方を確認します。
 そう言えばというかネパルさんだけではなく、何故か集落中の人の姿が見えませんでした。

「会議だってよ」

「会議ですか?」

 ヴォルの問いにベンダーツさんが興味無さげに答えます。思わず私が小首をかしげて問い返してしまいましたが。
 しかしながら会議ですか。集落の全員でなんて凄いですね。

「あぁ、泉の結界についてのな。水場としても利用しているものだから、結界を解除させる事に反対の連中が多いんだとさ。魔物が入ってくる可能性が高くなるからな」

「そうか」

 ヴォルは一言答えただけで、宙に視線を向けていました。精霊さんとお話をしているのでしょうか。
 精霊さんの姿が確認出来ないので残念ですが、普段から見えなくとも共にいるのですよね。

「結界を解除すれば明らかに魔物が押し寄せて来るだろうから、ここの奴等にとっちゃ重大性が高い問題なんだろうぜ。この集落の周りにやたらと魔物が多かったのは、ヴォルの言う土地の力ってのを狙っているのかもしれないな」

「なくはない。だが、それよりも簡単に魔物が得ようとするのは……」

「魔力持ちか」

「そうだ。魔力を持つ者を食らえば、直ぐ様己の血肉になるからな」

 ヴォルとベンダーツさんの問答から、魔物の狙いを知ります。魔力を持った人となると、クスカムの人々全てが対象になるという事でした。
 残酷な話ですが、これはこの世界の掟なのです。魔物という強者が存在する世界では、人は世界の支配者ではないのですから。

「とりあえず、この集落に利益はなかったな。精霊もいないようだし、魔力持ちが多いのも土地柄なんだろ?」

「そうだ。血の繋がりで魔力が継承されるものでない限り、魔力持ちの誕生には周囲の魔力状況が大きく関わってくる」

「あ~……、そうだったな。それじゃ、ここに一晩泊まっていく必要もなくなったな。案外スンナリと泉も見せてくれたから、コソコソと探る必要もなくなった訳だし」

 この場所に来て分かった事は、精霊さんの泉の発見と魔力所持者との関係性確認でした。
 そしてベンダーツさんは、既にクスカムから出るつもりのようです。──と言う事は、彼の言葉も今まで通りに戻るのですかね?

「あ、ちなみに言葉遣いはこのままいくからな」

 ──違うようでした。
 ベンダーツさんはニッコリ笑顔で続けます。

「契約をしてはいるが、今のヴォルは俺と何ら立場が変わらないのも事実だろ?」

「……好きにしろ」

 挑発的なベンダーツさんの問いに、ヴォルは一瞥をくれるだけで反論しませんでした。
 えっ?良いのですか、それでっ?!
 驚く私をよそに、ヴォルは手を引いたまま歩いていきます。──あぁ、手を引っ張らないで下さいよっ。
 ベンダーツさんもそれに無言で続きました。そのまま背を向けたままのヴォルに促されて、私達はクスカムの出口へと向かいます。

「え……?」

 ですが、外へと簡単に出られはしませんでした。自然と私達の足はその場に留められます。

「何、どうしたの。お見送りな訳、ないよね?」

 愛想の良い顔を向けたベンダーツさんでしたが、目の前に立ち塞がっている方々からは好意の欠片も見受けられません。
 デジャビュのようでしたが、今私達の行く手を塞ぐのは他ならぬクスカムの集落の方々でした。

「勝手に出ていかれては困るんだよな」

「まだ話もしてないじゃねぇか」

 たちの悪い悪戯でしょうか。それでも私は男の人達に囲まれるのが怖いです。
 知らず知らずのうちに、繋がれていたヴォルの手を強く握っていました。

「話などは何もない。道を開けろ」

 一瞬のうちにヴォルの眉間にシワが寄ります。

「そうもいかないんだ」

 すると、何故か後ろからも声をかけられました。今度は知った声です。
 挟み撃ちですかね。
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