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第五章
10.クスカムの人間は穴熊か?【5】
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「……この集落の結界内に入ってからだ」
「おい、それでも分かったのなら言えよ。無駄に動き回る事もなかっただろ?」
僅かに視線を逸らせてヴォルが答えると、ベンダーツさんの鋭い指摘が入りました。
森自体に魔力が満ちていて、更にクスカムの集落がある事で分かりにくかったという意味ですね。でも集落の中に入って判別がついたなんて凄いです。
「お前は特に何もしていない」
「はぁ?宿を確保したじゃねぇか」
「それがどうした」
ヴォルとベンダーツさんの言い合いが始まりました。うぅ──っ、こうなると手がつけられませんよ。
私はおろおろと困惑を見せるばかりです。
「仲が良いなぁ、アンタ等」
それを軽く流す強者が現れました。ネパルさん、その空気の読めなさは逆に素晴らしいです。
この殴り合いになりそうな雰囲気のヴォルとベンダーツさんに、『仲が良い』という判定を下せるなんてと私はネパルさんを感心してしまいました。
「俺や魔剣士のような魔力持ちには普通だからな、そう言う……魔力への感覚っての?言う程の事でもないとか思えちまうんだよなぁ、これが。マークは持たざる者だろ?そこの姉ちゃんも」
サラリと魔力所持者の観点からネパルさんはコメントをしてくれます。
姉ちゃんって──、そりゃ魔力は持っていないですけど。
私はベンダーツさんと顔を合わせ、ネパルさんに首肯してみせしました。
「だったら仕方ねえよ、こればっかりは。目が見える奴が見えない奴に、見える世界を説明するようなもんだ。感覚が訴えるものを全て知らない奴に伝えるなんて出来やしないさ」
ネパルさんの説明に、思わず納得して頷いてしまいます。とても分かりやすい説得でした。
──しかしながら、成る程です。つまりは魔力に関する事細かな事象を口で教える事が難しいのですね?
「そうかと言って、俺は俺の納得出来ない事は信じないんだがなぁ」
「マークはそれでも良いさ。どうせ精霊も見えないんだろ?彼女等の美しさは、言葉では言い表せねぇ」
不満顔のベンダーツさんですが、ネパルさんに笑い飛ばされてしまいました。
確かに、羽根のある小さい人達は美しいです。私は実際に目にした事があるので分かりますが、人とは全く違いました。
説明しようがありません。美しい、綺麗──それだけでは足りないのですよね。
「ネパル。顔は抜けているが、鋭い指摘だ」
──って、ヴォル?!そんな言い方はないのではありません?
確かにヴォルとはかなり造形が異なりますが、その──優しいお顔です。
そういえば王都の方々って、基本的に造りが整っていました。そんなお顔を見慣れているのですよね。
「ぅわ~、酷い言われような俺。俺の顔って何処か抜けてる?でもまぁ……アンタみたいな綺麗な顔の男に言われるんじゃ、仕方ないってもんだな。隠してても分かる」
こんな言われようでは不快になられるかもと不安になった私です。
でもガハハッと大きな口を開けて笑うネパルさんは、そんな些細な事とばかりに全く気にしていないようでした。
布を巻いて顔を隠しているヴォルを見破ってしまうその観察眼には驚きましたが、寛容な人柄に私は物凄くホッとします。
「ったく、ヴォルを気に入るとは懐のデカイ男だね。そういうヴォルは見目が無駄に良いから昔から色々あって、今となっては他者へ関心を示さなくなったんだけどねぇ。やっぱ、妻子を得ると変わるものか?」
「べ、マークさんっ!さ、妻子って?!」
私は思わずベンダーツさんと呼びそうになりつつ、驚きの単語に指摘をしました。まだ子供はいないのです。
非常に大きな誤解を与える言葉ですからねっ。しかも『無駄に』見目が良いとは何ですか、貶してますよね?
「あぁ、そうだったな。まだ子供はいないか。けど、ヴォルが変わったのは事実だろ?」
「そ、それは……」
確かにヴォルからは、出会った頃の横暴な感じがなくなりました。
ベンダーツさんはずっとヴォルを見てきているので、彼の小さな変化も分かるのでしょう。──少し羨ましいです。などと思った次の瞬間、私はヴォルの腕の中に囲われていました。
「俺を無視してメルと勝手に話をするな」
「何だよ、ヴォル。メルと話すのもダメだって言うのか?あまり束縛し過ぎるのも、問題だと思うぞ?」
恐らく眉根を寄せているであろうヴォルに、呆れたような表情を浮かべるベンダーツさんです。
私はヴォルにガッシリと抱き付かれている状態なので、彼の表情を確認出来ませんでした。
「束縛?」
「あぁ、自覚ないのか?他の奴に……いや、特に男だね。喋るのも触れるのもダメとかってくちだろ」
「メルに触れるな」
「ほら。そう言うのを束縛しているって言うんだよ。限度があるだろ?」
ヴォルに告げるベンダーツさんですが、さすがに許可なく異性に触れるのはダメなんじゃないかと思います。
けれど私自身がヴォルにこうして触れられる事を嫌だと思っていないので、それがベンダーツさんのいう『束縛』に値するのかは判断がつきませんでした。
「おい、それでも分かったのなら言えよ。無駄に動き回る事もなかっただろ?」
僅かに視線を逸らせてヴォルが答えると、ベンダーツさんの鋭い指摘が入りました。
森自体に魔力が満ちていて、更にクスカムの集落がある事で分かりにくかったという意味ですね。でも集落の中に入って判別がついたなんて凄いです。
「お前は特に何もしていない」
「はぁ?宿を確保したじゃねぇか」
「それがどうした」
ヴォルとベンダーツさんの言い合いが始まりました。うぅ──っ、こうなると手がつけられませんよ。
私はおろおろと困惑を見せるばかりです。
「仲が良いなぁ、アンタ等」
それを軽く流す強者が現れました。ネパルさん、その空気の読めなさは逆に素晴らしいです。
この殴り合いになりそうな雰囲気のヴォルとベンダーツさんに、『仲が良い』という判定を下せるなんてと私はネパルさんを感心してしまいました。
「俺や魔剣士のような魔力持ちには普通だからな、そう言う……魔力への感覚っての?言う程の事でもないとか思えちまうんだよなぁ、これが。マークは持たざる者だろ?そこの姉ちゃんも」
サラリと魔力所持者の観点からネパルさんはコメントをしてくれます。
姉ちゃんって──、そりゃ魔力は持っていないですけど。
私はベンダーツさんと顔を合わせ、ネパルさんに首肯してみせしました。
「だったら仕方ねえよ、こればっかりは。目が見える奴が見えない奴に、見える世界を説明するようなもんだ。感覚が訴えるものを全て知らない奴に伝えるなんて出来やしないさ」
ネパルさんの説明に、思わず納得して頷いてしまいます。とても分かりやすい説得でした。
──しかしながら、成る程です。つまりは魔力に関する事細かな事象を口で教える事が難しいのですね?
「そうかと言って、俺は俺の納得出来ない事は信じないんだがなぁ」
「マークはそれでも良いさ。どうせ精霊も見えないんだろ?彼女等の美しさは、言葉では言い表せねぇ」
不満顔のベンダーツさんですが、ネパルさんに笑い飛ばされてしまいました。
確かに、羽根のある小さい人達は美しいです。私は実際に目にした事があるので分かりますが、人とは全く違いました。
説明しようがありません。美しい、綺麗──それだけでは足りないのですよね。
「ネパル。顔は抜けているが、鋭い指摘だ」
──って、ヴォル?!そんな言い方はないのではありません?
確かにヴォルとはかなり造形が異なりますが、その──優しいお顔です。
そういえば王都の方々って、基本的に造りが整っていました。そんなお顔を見慣れているのですよね。
「ぅわ~、酷い言われような俺。俺の顔って何処か抜けてる?でもまぁ……アンタみたいな綺麗な顔の男に言われるんじゃ、仕方ないってもんだな。隠してても分かる」
こんな言われようでは不快になられるかもと不安になった私です。
でもガハハッと大きな口を開けて笑うネパルさんは、そんな些細な事とばかりに全く気にしていないようでした。
布を巻いて顔を隠しているヴォルを見破ってしまうその観察眼には驚きましたが、寛容な人柄に私は物凄くホッとします。
「ったく、ヴォルを気に入るとは懐のデカイ男だね。そういうヴォルは見目が無駄に良いから昔から色々あって、今となっては他者へ関心を示さなくなったんだけどねぇ。やっぱ、妻子を得ると変わるものか?」
「べ、マークさんっ!さ、妻子って?!」
私は思わずベンダーツさんと呼びそうになりつつ、驚きの単語に指摘をしました。まだ子供はいないのです。
非常に大きな誤解を与える言葉ですからねっ。しかも『無駄に』見目が良いとは何ですか、貶してますよね?
「あぁ、そうだったな。まだ子供はいないか。けど、ヴォルが変わったのは事実だろ?」
「そ、それは……」
確かにヴォルからは、出会った頃の横暴な感じがなくなりました。
ベンダーツさんはずっとヴォルを見てきているので、彼の小さな変化も分かるのでしょう。──少し羨ましいです。などと思った次の瞬間、私はヴォルの腕の中に囲われていました。
「俺を無視してメルと勝手に話をするな」
「何だよ、ヴォル。メルと話すのもダメだって言うのか?あまり束縛し過ぎるのも、問題だと思うぞ?」
恐らく眉根を寄せているであろうヴォルに、呆れたような表情を浮かべるベンダーツさんです。
私はヴォルにガッシリと抱き付かれている状態なので、彼の表情を確認出来ませんでした。
「束縛?」
「あぁ、自覚ないのか?他の奴に……いや、特に男だね。喋るのも触れるのもダメとかってくちだろ」
「メルに触れるな」
「ほら。そう言うのを束縛しているって言うんだよ。限度があるだろ?」
ヴォルに告げるベンダーツさんですが、さすがに許可なく異性に触れるのはダメなんじゃないかと思います。
けれど私自身がヴォルにこうして触れられる事を嫌だと思っていないので、それがベンダーツさんのいう『束縛』に値するのかは判断がつきませんでした。
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