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第五章
10.クスカムの人間は穴熊か?【4】
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「こんな……言っては何だけど、森の中に泉なんてあるのか?」
「勿論さ。すぐそこの森は『迷いの森』っていわれていて、魔力のない者が立ち入るとすぐに方向を失って遭難するんだぜ?んでいつの間にか入った所から出されちまう。そんな森の中には『精霊の泉』って小さな泉があって、俺達クスカムの人間にとっちゃ唯一の水源でもあり命の源だね」
ベンダーツさんの問い掛けに、ネパルさんは嫌な顔一つしないで教えてくれます。
でも、あの森が『迷いの森』って呼ばれているのを初めて知りました。──結界が張ってあるからなのでしょうが、ヴォルがいて良かったです。
「精霊の?何だよ、出るのか?」
「まさか。まぁ昔はいたらしいけど、今じゃ殆ど見かけないよ。けど森の空気が澄んでいるのは事実だから、人に姿を見せないだけなのかもしれないけどさ」
興味津々にベンダーツさんが再度質問すれば、今度はネパルさんが首を竦めました。確かに森の中は心地好い空気が満ちていて、魔物の気配は少しもしなかったように思います。──たいていの森って、小さくとも魔物がいたのですが。
とても貴重な情報でした。──でも今はいないのですか?
「精霊の数が減っているのか」
「あぁ、そうらしい。だからこそ、アンタにたくさんついてるから不思議に思ったくらいさ」
ネパルさんが問い掛けたヴォルに答えます。そう言えばクスカムの人達、物凄く珍しげにヴォルの事を見ていました。
普通にクスカムの人には精霊さんが見えているのですね。
「精霊自体が珍しくなっているのか?まぁ、普段から人の前に姿を現す生命体じゃないらしいけど。あぁ~、俺も見てみたいなぁ」
「そっか、マークは剣士だもんな。魔力持ちには案外身近だと思うぜ?普通に漂っているのが見えるからさ。俺も子供の頃には泉周辺で見えたんだけどなぁ。可愛いんだぜ?ちっこくて」
精霊さん談義に花を咲かせているベンダーツさんとネパルさんです。
私もヴォルの研究室でならその姿を見る事が出来ましたから、小さくて可愛いのは知っているので思い切り頷きそうになってしまいました。
でもネパルさんの『魔力持ちには普通』という言葉が気になります。
「なぁ、そんなもんなの?魔力持ちは皆見えるのか?」
「……精霊は純粋に魔力が好きだからな。精霊が警戒していなければ、姿を見る事は可能だろう」
振り返ったベンダーツさんに、ヴォルは冷たい眼差しを向けました。──ヴォルにとって精霊さんは当たり前ですものね。
「あ、悪ぃ。ついてるんだったな、普段から。で、ネパル。ついでに精霊の泉って言うからには見えるだけじゃなくて、何か他に謂れがあるんだよね?」
「まぁ……。これ、言っても良いのかなぁ」
「何、何?」
少し言い淀むネパルさんですが、そもそも隠すつもりなら話すら振らないです。
食い付くベンダーツさんに気を良くしたのか、ニヤッと意味深に笑って声を静めました。
「ん~……、あんまり口外するなよ?」
「勿論。で?」
「……そこの水を妊婦に飲ませると、力の強弱はあれど魔力持ちが産まれるんだって伝説がある。実際にこのクスカムでは魔力持ちが多いんだよな。ちなみに俺もなっ」
──はい?何ですか、その物凄く重大な秘密を話したんだ的な表情は。
胸を張っているネパルさんです。
幼い頃に精霊さんを見たと言われていたので、私もそうなのだろうなとは思っていました。
「それはこの地に魔力的要素が多いからだろう」
「魔力的要素?何だよそれ、難しく言われてもなぁ。魔剣士の兄ちゃん、もっと分かるように説明してくれないか?」
ヴォルの言葉に僅かに不快さを見せるネパルさんです。──自分の集落の自慢をバカにされた感じですかね。
それでもヴォルは眉一つ動かさず、淡々と説明を始めました。
「この地は森が深く、水も澄んでいる。魔力とは大地と大気の純粋な融合から生じる。故にこの辺りの生命体には人だけではなく、その身に魔力を宿しているものが多い」
研究している分、ヴォルの理論はそのまま頷いてしまえます。少し言い回しは固いですけど。
「じ、じゃあ精霊が実際に多く見られたのは?」
「土地の力が強ければ精霊も居心地が良いからだ。このところ減っているのは、魔物の存在が濃いからだろう。精霊も魔物の糧になる。よって身を隠す」
そこまで告げられると、ネパルさんは次の言葉を紡げなくなってしまいました。
今まで原理も何も知らずとも身近にいたのであろう精霊さんに、他の生命と同じように存在理由があったのですから驚いたのでしょうけど。
「さすが、精霊と魔力を研究しているだけの事はあるな。じゃあ、既にヴォルは分かっていたと言う事か。……ってか、いつから知ってた?」
ベンダーツさんがヴォルを持ち上げながらも、促すような視線を向けます。
確かに、魔力を持たないベンダーツさんや私には魔力を感じる事が出来ないので分からない事でした。
「勿論さ。すぐそこの森は『迷いの森』っていわれていて、魔力のない者が立ち入るとすぐに方向を失って遭難するんだぜ?んでいつの間にか入った所から出されちまう。そんな森の中には『精霊の泉』って小さな泉があって、俺達クスカムの人間にとっちゃ唯一の水源でもあり命の源だね」
ベンダーツさんの問い掛けに、ネパルさんは嫌な顔一つしないで教えてくれます。
でも、あの森が『迷いの森』って呼ばれているのを初めて知りました。──結界が張ってあるからなのでしょうが、ヴォルがいて良かったです。
「精霊の?何だよ、出るのか?」
「まさか。まぁ昔はいたらしいけど、今じゃ殆ど見かけないよ。けど森の空気が澄んでいるのは事実だから、人に姿を見せないだけなのかもしれないけどさ」
興味津々にベンダーツさんが再度質問すれば、今度はネパルさんが首を竦めました。確かに森の中は心地好い空気が満ちていて、魔物の気配は少しもしなかったように思います。──たいていの森って、小さくとも魔物がいたのですが。
とても貴重な情報でした。──でも今はいないのですか?
「精霊の数が減っているのか」
「あぁ、そうらしい。だからこそ、アンタにたくさんついてるから不思議に思ったくらいさ」
ネパルさんが問い掛けたヴォルに答えます。そう言えばクスカムの人達、物凄く珍しげにヴォルの事を見ていました。
普通にクスカムの人には精霊さんが見えているのですね。
「精霊自体が珍しくなっているのか?まぁ、普段から人の前に姿を現す生命体じゃないらしいけど。あぁ~、俺も見てみたいなぁ」
「そっか、マークは剣士だもんな。魔力持ちには案外身近だと思うぜ?普通に漂っているのが見えるからさ。俺も子供の頃には泉周辺で見えたんだけどなぁ。可愛いんだぜ?ちっこくて」
精霊さん談義に花を咲かせているベンダーツさんとネパルさんです。
私もヴォルの研究室でならその姿を見る事が出来ましたから、小さくて可愛いのは知っているので思い切り頷きそうになってしまいました。
でもネパルさんの『魔力持ちには普通』という言葉が気になります。
「なぁ、そんなもんなの?魔力持ちは皆見えるのか?」
「……精霊は純粋に魔力が好きだからな。精霊が警戒していなければ、姿を見る事は可能だろう」
振り返ったベンダーツさんに、ヴォルは冷たい眼差しを向けました。──ヴォルにとって精霊さんは当たり前ですものね。
「あ、悪ぃ。ついてるんだったな、普段から。で、ネパル。ついでに精霊の泉って言うからには見えるだけじゃなくて、何か他に謂れがあるんだよね?」
「まぁ……。これ、言っても良いのかなぁ」
「何、何?」
少し言い淀むネパルさんですが、そもそも隠すつもりなら話すら振らないです。
食い付くベンダーツさんに気を良くしたのか、ニヤッと意味深に笑って声を静めました。
「ん~……、あんまり口外するなよ?」
「勿論。で?」
「……そこの水を妊婦に飲ませると、力の強弱はあれど魔力持ちが産まれるんだって伝説がある。実際にこのクスカムでは魔力持ちが多いんだよな。ちなみに俺もなっ」
──はい?何ですか、その物凄く重大な秘密を話したんだ的な表情は。
胸を張っているネパルさんです。
幼い頃に精霊さんを見たと言われていたので、私もそうなのだろうなとは思っていました。
「それはこの地に魔力的要素が多いからだろう」
「魔力的要素?何だよそれ、難しく言われてもなぁ。魔剣士の兄ちゃん、もっと分かるように説明してくれないか?」
ヴォルの言葉に僅かに不快さを見せるネパルさんです。──自分の集落の自慢をバカにされた感じですかね。
それでもヴォルは眉一つ動かさず、淡々と説明を始めました。
「この地は森が深く、水も澄んでいる。魔力とは大地と大気の純粋な融合から生じる。故にこの辺りの生命体には人だけではなく、その身に魔力を宿しているものが多い」
研究している分、ヴォルの理論はそのまま頷いてしまえます。少し言い回しは固いですけど。
「じ、じゃあ精霊が実際に多く見られたのは?」
「土地の力が強ければ精霊も居心地が良いからだ。このところ減っているのは、魔物の存在が濃いからだろう。精霊も魔物の糧になる。よって身を隠す」
そこまで告げられると、ネパルさんは次の言葉を紡げなくなってしまいました。
今まで原理も何も知らずとも身近にいたのであろう精霊さんに、他の生命と同じように存在理由があったのですから驚いたのでしょうけど。
「さすが、精霊と魔力を研究しているだけの事はあるな。じゃあ、既にヴォルは分かっていたと言う事か。……ってか、いつから知ってた?」
ベンダーツさんがヴォルを持ち上げながらも、促すような視線を向けます。
確かに、魔力を持たないベンダーツさんや私には魔力を感じる事が出来ないので分からない事でした。
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