「結婚しよう」

まひる

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第五章

10.クスカムの人間は穴熊か?【2】

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「その細っこい少女が回復?まだ子供じゃないか?」

「そうなんだよね、そう見えるんだけどねぇ。でもさぁ、子供に見えるけどちゃんと成人はしてるから。本当はそうなると俺の怪我だけではなくて、心も癒してほしいくらいなのにね。あ、ダメだよ?魔剣士と出来てるから、手を出すと殺される。ほら、彼女の左手首を見てよ。腕輪つきなんだから」

 信用ならないとばかりにザワリと男の人達の気配が動いた途端、相変わらずのにこやかさでベンダーツさんが酷い事を言いました。──と言うか、腕輪の事を話しても大丈夫なのですか?
 この腕輪の風習ふうしゅうがこのクスカムまで伝わっているのか疑問です。

「本当だ。……だが、魔剣士の方はしていないぞ。しかも、精霊つきじゃないか」

「あ、気付いちゃった?ほら、ヴォル。どうするよ?まぁ、精霊つきってのはどうしようもないけどな」

 私の左手首の婚姻の腕輪に気付いたようですが、同時にヴォルの腕輪の存在に疑問を持ったようでした。

 そして腕輪の風習はクスカムにも届いているようで、それよりもヴォルに対する精霊さん反応の方が強かったようです。見た目はちゃんと左腕があるように見えますから、余計に不審感を誘いますよね。──っていうか、精霊さんが見えるのですか。

 しかしそこで急にヴォルへ話を振るベンダーツさんもどうかと思いますが、どうあっても左腕はセントラルにあるわけで──。

「煩い、マーク。精霊は俺の意思とは関係がない。それに腕輪は……持っているがつけていないだけだ」

「えっ?」

 その言葉に驚いたのは私の方でした。
 しかもヴォルが出した腕輪は、首元から紐でペンダントトップのようにされています。──若干大きすぎる気がしますが。
 それでも持っていてくれた事に驚きと喜びがあふれます。左腕を無くした時、聞く事は出来ませんでしたが不安が多くありましたから。

「……すまない、メル。つけたくない訳ではなく……」

 でもヴォルは途中で口をつぐんでしまいました。どう言えば良いのか、迷っているようでもあります。
 それに噛みつくようにして、ベンダーツさんが続けました。

「ったく、右手で良いか聞くだけだろうが。しょうがねぇだろう、左腕をなくしちまったんだから」

「……すまない、メル」

「あ……、いえ……。持っていて頂けただけで……、嬉しいです」

 本当にもうここにはないと思っていた私です。──あ、ダメですね。涙が出てきてしまいます。
 悲しいのではなく、嬉しいのですよ?

「あ~、泣かした!ヴォル、メルを泣かした~っ」

「……すまない、メル」

「ち、違います……っ。わ、私……嬉しくて……」

「メル……」

「くぅ~、良いじゃねぇか。羨ましいなぁ~。精霊つきでもまともな奴がいるんだな。そっかぁ……冒険者だと、腕をなくしちまうって事があるんだよなぁ」

「だよなぁ。でも腕輪が残っていて良かったな。そ~かぁ、良いよな腕輪。俺等も早く嫁さん捜さねぇと、子っこを母ちゃんに見せられなくなっちまう」

「だなぁ。お前ん所の母ちゃんも俺ん所の母ちゃんも歳だからなぁ。親孝行しねぇとならねぇよなぁ」

 ポロポロ涙をこぼす私を抱き締めるヴォルでした。──ごめんなさい、すぐに感情の切り替えが出来ないです。
 そして集落の人々はそんな私達を見て、それまで持っていた警戒を完全に解いたようでした。

「すいませんねぇ、内輪揉めを見せちゃって。それであの……、食事だけでも~」

 タイミングを見計らってか、ベンダーツさんが男の人達に再度笑顔を見せます。
 集落の人達も何人か涙ぐんでいて、同情を寄せてくれているようでした。

「あぁ、良いよ。ただし、ただとはいかねぇよな?」

「勿論だよ。俺等冒険者は、家はないが金を持っているんでね」

 この笑顔のベンダーツさん、普段仕様になりませんかね?──あ、やっぱり怖いから遠慮します。
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