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第五章
≪Ⅹ≫クスカムの人間は穴熊か?【1】
しおりを挟むえ~──、これは……。
私は戸惑いを隠せませんでした。ヴォルは私の隣で前を見ているだけでしたが、その寄せられた眉根からは不快感が感じられます。
「何だ、これは」
「入り口だろ?」
ヴォルの問い掛けに対して、ベンダーツさんは小さく首を竦めました。
あっさりとしたベンダーツさんの答えでしたが、明らかに目の前にあるのは木のウロです。
昨夜は三人揃って森の手前で野宿をし、今日は朝から森を探索して漸くここかという場所にたどり着いたのですが。
あ──昨夜は勿論、私はヴォルの抱き枕でした。ベンダーツさんから向けられる冷たい眼差しが辛かったです。
「クスカムの人間は穴熊か?」
「まさか。人間だよ、ちゃんとしたな。これは趣味か、目眩ましだろ?とにかくヴォル、この結界を解除だ」
「俺に命令するな」
鋭い視線を返すヴォルでしたが、そのまま木のウロに歩み寄ります。でも本当に、何の変哲もない大木に開いた穴でした。──奥の方は全く確認出来ませんが。
大木の外周は大人三人が両手を回して漸く手が届くかと思える程の太い幹に、ポッカリと一つだけ人が通れる程の大きな穴があります。
私は歩み寄るヴォルの背をただ見ているだけでしたが、彼がその穴に手をかざした途端に景色に変化がおこりました。
「わっ!?」
思わず声をあげてしまいましたよ。だって、突然目の前に小さな建物が密集した集落が登場したのですから。
キョロキョロ辺りを見回し、何故か後ろの景色も先程と違っている事に気付きました。それまで背後にあった筈の森がなくなり、見えるのは先に続く道だけです。
「ここ、先程の場所ですよね?」
「そうだ、転移はしていない。結界を解除した途端、集落の内部に繋がったようだ」
「しかも、また新しい結界が張られてるもんな。中々セキュリティ万全じゃないか」
楽しそうなベンダーツさんでした。──驚いているのは私だけのようです。
「そうでもない。魔力持ちが触れただけで解除される結界など、不用心以外あるものか」
「それも計算だったりして」
「……そのようだな」
二人の意見が合いました。──いえ、私にも嫌でも伝わってきますよ。
だって目の前からは、怖い目をした男の人達が私達を取り囲むように近付いて来ているのでした。
「……何だ、お前達」
その中の一人が声をあげました。とても歓迎している雰囲気ではありません。
何気に手には農具のような道具をそれぞれが持っています。──それって武器代わりですよね。
「俺達は冒険者だよ。森に迷っちゃってさ。あ、ここは何処の町かな?良ければ食事と宿を紹介してもらえない?」
何だか異様に人懐っこいバージョンのベンダーツさんが、ニコニコしながら歩み寄ります。彼に限って、目の前の方々の手に持つ道具が見えていない筈はありませんが。
しかしながらそれまでとキャラが変わりすぎていて、ヴォルの視線も訝しげにベンダーツさんへ向けられていました。
「冒険者?」
疑いの眼差しを向けられています。
布を巻いて顔を隠したヴォルと、同じく大きな帽子で顔の見えない私。明らかに怪しいですよね。
「そうだよ?もう本当にここらは魔物が多いよねぇ。四足の獣型ばかりだから、数とスピードで手が掛かるってのなんの」
「お前は剣士か」
「そ。こっちが魔剣士で、彼女は回復役な訳」
にこやかに会話するベンダーツさんに、周囲の人々の警戒が僅かに緩みました。
けど、普段と大違いですね。私はこっちのベンダーツさんの方がある意味怖いですよ。
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