「結婚しよう」

まひる

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第五章

9.いらないおまけがついてきた【4】

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「そんな……、難しいです」

 先程と同じような言葉が出てしまいました。

「明らかに三人連れ立って旅をしていて、うち二名が敬語で会話すると言うのは異質です。そうは思われませんか」

「それはそうです、けど……」

 ベンダーツさんが言いつのって来ますが、私のこの口調は既に癖のようなものです。
 両親が亡くなってから、私が生きる為に身に付けた処世術のようなものですから。

「ヴォルティ様がセントラル次期皇帝のお立場だと知られれば、色々と面倒な事が生じますが?」

「問題ないだろ。そもそも俺は次期皇帝ではない」

「田舎の人間にそれは通用しないのです。それに、貴族であるという事だけでねたむ者もいます。情報収集をするに当たっては、表面上でも仲間が多いに越した事はないですからね」

 サラリと言って退けるベンダーツさんでした。言っている事に間違いはないのでしょうが。
 ──ぅわ~、ベンダーツさんってば腹黒いです。

「ではこちらは無難ぶなんに冒険者を装った方が良さそうだな」

「そうですね。更にヴォルティ様は容姿が目立つので、人目がある時にはお顔を隠された方が宜しいかと存じます」

 ヴォルとベンダーツさんが話を詰めていきました。
 ──でもそれって、初めて出会った頃のヴォルですね。見目が整っている事を自覚していたのですか。

「メルシャ様は大き目の帽子でも被っておいてください。お顔は広まってはいないでしょうが、一部の貴族には通達が届いていますから」

 何やら仮装行列のような気がしてきます。
 そしてベンダーツさんは特徴的な片眼鏡モノクルを外しました。──あ~……、このバージョンは少し怖いですね。慣れなくては……ダメですよね、私。

「では、失礼して……。行くぞヴォル、メル」

「……何故だ。無性に腹立たしく思うのは俺だけか」

「あ、あはは……」

 そして声掛けと共に変わったベンダーツさんの言葉使いに、ヴォルは非常に不愉快そうに眉根を寄せます。
 私としてはそれに対して苦笑いしか返せませんでした。

「仕方ないだろ。この先、いつクスカムの人間に会うか分からないんだ。そうだな、恐らく集落まで二日と掛からない。ならば、互いに慣れる意味合いも込めてこれが最適だと思うが?」

 さとされますが、ヴォルとしても否やはないと思うのです。心情的にすぐに納得までいかないだけなのでしょう。
 慣れる意味合いで考えるならば、確かに一理あります。それに、どう見てもベンダーツさんの方がヴォルより年上でした。ベンダーツさんが敬語で話していれば、ヴォルの立場が彼より上である事が明らかになります。
 そして諸々もろもろを隠すのであれば、今後それを説明するのが大変そうでした。

「違うか、メル」

「えっ?!……あ……、そうで……」

 普通に言葉を返そうとしたのです。──が、ギロリと睨まれました。
 ──怖いです。って言うか、私も敬語を話してはならないというのは酷なのですけど。

「メルは構わないだろ」

「ダメだ。皆が統一しなくてどうする。ヴォルは甘い」

「……物凄くイライラする」

「あ、あの……頑張りま……る……」

「ヴォルの怒りんぼとメルの適応力のなさに、すぐに素性が割れる事が簡単に予想されるな」

 大きく溜め息をつくベンダーツさんです。
 ──すみません、適応力が低くて。

「お前のはタメ口でないだろ。その上から目線での口調が酷く腹立たしい」

「このメンバーの場合、年功序列で俺がリーダーだろ」

「勝手に決めるな」

「じゃあ、ヴォルがやるか?」

「……面倒だ」

「ほらみろ」

 何だか不穏な空気を纏ってはいますが、こうして話しているのを見ると本当に兄弟みたいでした。

「メル。俺とコイツは兄弟ではないからな」

「えっ?あ……、はい……っ」

 言葉に出していないのに、何故か察したヴォルに否定されます。
 本当に、兄弟扱いされるの嫌なのですね。
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