「結婚しよう」

まひる

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第五章

9.いらないおまけがついてきた【2】

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「もう良い。ベンダーツ、お前が作れ」

 とうとうヴォルが投げ出しました。でもその気持ちも分かるのです。

「何ですか。魔法を使わずでは食事の準備もろくに出来ないのですね」

「…………」

 再び怒りをあおるような言葉を受けましたが、ヴォルはフイッと視線をそむけて横になってしまいました。勿論、先程までちゅうに浮いていた火も水も風も消してしまっています。
 ──あ、結界だけは維持されているようでした。周囲に虹色のシャボン玉空間がありますから。

 でも、何故また私の太股ふとももに頭を乗せていらっしゃるのでしょうか。太いからですか?枕に最適なのですか?
 もしかすると私、抱き枕から膝枕に転身かもしれません。

「全く、その様に根気のないようではこの先どうなさるおつもりですか」

 ベンダーツさんの口は休まりませんが、手はテキパキと食事を作っています。──凄いです。

 手早く所持していた火打ち石と近くにある枯れた木材で火を起こし、既にヴォルが魔法で鍋に満たしていた水を沸かします。
 そして材料は既にヴォルが風の魔法で切っていたので、それらを鍋に入れて煮込み始めました。

 サバイバルな空間でも、この様に簡単に通常の調理をする事が出来るのですね。あっという間に煮込み料理と所持していたパンを並べたベンダーツさんです。

「どうなされたのですか、メルシャ様。その様にほうけたお顔をなさっていては、魔物でも愛想を尽かしますよ」

 全ての準備を整え終わったベンダーツさんは、まるでここがレストランかのように白いテーブルクロスまでセッティング済みだったのでした。
 な──、何だか凄い言われようだった気がしますが。でもこの感動を伝えない訳にはいきません。

「凄いです、ベンダーツさんっ。魔法ではないのに、簡単に火を起こして料理を作ってしまうなんて……素晴らしいですっ」

 そうやって拳を握る勢いで褒め称えます。
 私は今まで、ヴォルが魔法を使えるから凄いのだと思っていました。でもベンダーツさんは、魔法なしで成し遂げてしまったのです。

「……やれやれ。メルシャ様のその単純さを、少しでもヴォルティ様に別けてあげてほしいですね」

「お前は少し口数が減れば良い」

「おや。私がメルシャ様に誉められた事が気に入らないのですか?子供ですね」

「…………」

 チクチク攻撃再開ですが、ヴォルは一言だけ返して終わりました。
 ──って、無く腰に手を回して、私の細くないお腹に綺麗な顔を押し付けないで下さい。

「メルはもう少し肉をつけた方が良い」

「っ?!」

 その状態で呟かれたのですから、私は思わず目を見開いて愕然としてしまいました。
 ──な、何て事を仰るのでしょうか。
 絶対に乙女に対する言葉ではないですよね。

「怒った方が良いですよ、メルシャ様。ヴォルティ様は女性に対する言葉遣いがなっていないです。何を言われたら傷付くか、何を言われたら嫌なのか。きちんと教えて差し上げたらいかがですか?」

 涼しい顔をしているベンダーツさんです。
 確かにヴォルは、人付き合いの悪さから言葉がキツい事があります。でも、直接私を傷付ける事は言わないのですよね。
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